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父のお使い

冬至の前日に、84歳の父が骨折したと母から電話があった。

母:「お父さんが足を怪我して帰ってきたのよっ!!!!(ぎゃー)」

父は84歳になる今も月に1〜2回、一人で電車とバスを乗り継いでゴルフ場へ行き、1ランドで2万歩近く歩くほどの「ザ!スーパー80代」のひとり。

10年ほど前、脳梗塞になったコトをきっかけに、健康維持と体力づくりに目覚め、毎朝の筋トレと有酸素運動をかかさない。
病気で倒れたことをきっかけに、「自分自身の健康は自分で管理する」ことに目覚めた。
その後、自分で決めたリハビリのルーティンを毎日こなし、病気したことが嘘のように完全復活!!

そして、その姿を見た時、「人間70歳を過ぎても変わらず自然治癒力があるんだ」と痛感したのを覚えている。
父は現役時代から何十年も抱えていた持病のような腰痛を、病気後の筋トレと毎日の体操で完全に治してしまった。
この父の自己管理能力こそ、40代での起業を成功させた秘訣だと思う。

父は40歳の時、独立して自分で会社を起こし私たち家族を養ってくれた。
私が30歳でフリーランスとして独立した時、父に聞いた。

私:「自分で独立して仕事をする上で一番大切なことは?」
父:「日々自分をしっかり律すること」
こうも付け加えた。
父:「約束をまもること、信頼されること、そして感謝の気持ちを忘れないこと」

主人は「お父さんのように自分を律することができるひとは何をやっても成功する」と今でもことあるごとに言ってくれる。

それはさておき。

実家に帰ると父、足以外は元気そう^^
様子によっては手術になるかもと言われていたそうだけど、手術にならないで済んだ代わりにギプス姿。

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父は、娘が帰ってきて嬉しそうで、あれやこれやと身の回りの頼まれごとをし、買い物を頼みたいと。
聞くと、駅前のマツキヨに、「特茶」を買ってきて欲しいと言う。
駅前のマツキヨ、いい値段の特茶がここらへんで一番安いんだと。
しかも、買い物カートに入るだけ、MAX14本。
それを聞いた時、わたしは一瞬で心にネガティブなものが。

「めんどくさい。。。(心の声)」
「さっとAmazonで頼もうよ!ねえお願い!もう、頼んじゃおう!
ねっ!?
ねーっ!?(心の声)」
「………。。」

骨折までしたのに、数百円ケチるのか〜💦と思った。
いつもだったら、「そんなのめんどくさい、Amazonで頼んだらいいじゃない!?」と言って口説き落とすのだけど。。
なぜか今回は、
「ここは父の言うとおりにすることが重要なんだ」と直感が働いた。

何か、理屈ではない直感。

そして言われた通りに出かけた。
14本まとめて買ってこいと言うので、父の買い物カートをひき、
言われた通りにポイントカードとクーポンのハガキを持参して、
目的のマツキヨに向かって。
ちなみに今、実家に車はない。
母が72歳を過ぎた頃手放して、今はどこへ行くにも歩きとバスの老夫婦。

店内にある冷蔵庫を見ると、案の定14本も無いと確認でき、
父に言われたとおりに店員さんに話しかけた。
「すみません、ちょっと父に頼まれて…、特茶を14本買ってこいと。。」

店員さんはわたしの顔を見た後、わたしのひいている買い物カゴに目をおとし、「あっ」という顔で「すぐお持ちしますね」と言った。
その後すぐバックヤードのようなところから、きっちり14本持ってきてくれた。
会計を済まし、言われた通りにポイントカード、クーポンを使って、
父の"希望どおりの金額"で購入した。
それは、一円たりともブレず、父に言われた金額だった。
地域で一番安く、10%のクーポンもきっちりつかった金額。

大晦日の夕方、とても寒かったので帰りの電車に乗る前に父の行きつけのドトールに寄ろうと思ったら、閉店していた。
見た時、「えっ」と思った。
けっこう、わたしも気に入っていたから。
毎日父がお昼頃出掛けてコーヒーを飲んで読書している、「広くて綺麗で快適なんだ」といつも言っていた、地元のドトール。

そんなわけで近くのスタバでコーヒーを飲むことに。

生まれ育った街はやっぱり落ち着く。
友達もいて、家族や知っている人がたくさんいるわたしの生まれ故郷。
最近は小田原の海と山に癒されていたけど、父のルーティンをなぞるように出かけたこの2021年の大晦日の1日、心から落ち着くような、身体の緊張が抜けるような気がした。


しばらくそんなふうにスタバでぼーっとコーヒーを飲んでいたらふと思った。

もしかして、父はわたしに自分がいつも行く行きつけのお店に行かせて、自分の家族を、ムスメを、さりげなくその存在を見せたかったんじゃないかと…。。
もっと言うと、自分にも"手伝ってくれる娘がいる"んだと見せたかったんじゃないかと…。。
もう何年もそこで買っているので、店員さんは自分が行くと名前を呼んで声をかけてくれると、ちょっと自慢気に、嬉しそうに言っていた。
2〜3ヶ月に1度くらい行く、ゴルフ友達以外はほとんど交流のない84歳の父。
引退するまで小さな会社の経営をやっていたけど、基本一人で過ごすことが好きな人なので、ほとんど家族以外との関わりはない。
毎日のルーティンで顔を合わす地域のお店や病院などの働く人が、唯一少しの会話ができ、社会的に交流できる人なのだ。

いつも一人で行くそのなじみの場所に、家族が代わりにくるということ。

「怪我をしてしまってしばらく買いに行けない」とまで伝えるほどの関係ではないけど、父の小さな暮らしでは、大切な地域の中の関わりで、社会に参加し話ができる人。
そんな人たちに、家族をお使いに行かせて、「自分の代わりに頼んだんだよ」とさりげなく伝えたかったような、今回のミッション。

そう思ったら、なんとなく胸があつくなった。

いつも、一人で、毎日、小さな街で、自分のルーティンを繰り返し、
小さな生活を淡々と繰り返す父。

今日は快晴で、空が深い青とオレンジに染るのを見ながら、
「2021年が終わるんだ」と、コーヒーの香りに包まれながら実感した。
慣れ親しんだこの街で、父の日常を感じながら一人の時間を過ごした、大晦日の夕暮れ。


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