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夏休み子ども科学電話相談で思い出すこと


夏休みですね。夏休みといえば、NHKラジオのご長寿番組「夏休み子ども科学電話相談」です。「夏休み子ども科学電話相談」とは、キッズの素朴な疑問にガチの研究者が答えるという異種格闘技のことです。僕はいつも「聞き逃し配信」で聞いています。

キッズの質問を聞いていると、大人たちが前提として思考の外に追いやっていたものを、議論の土台に乗せられて、とても不思議な感覚になります。例えば、りくくん(小学2年生)の質問。

「どうしてパンツははかないといけないんですか?」

大人たちは、当然のようにパンツを履きます。パンツを履くことに疑問を持つことはあまりありません。大人たちは、パンツを履くことに疑問を持つには忙しすぎるんだと思います。それに先生は、要するに「科学的根拠はない」という旨を答えます。

ほかにも、小学1年生のめいちゃんの質問

「世界は朝からはじまったんですか」

まさかのYes-No疑問文です。世界がはじまった瞬間はいつなのか、自分が生きている世界に疑問を持つなんて、なんて鋭いセンス。しかも、それが朝から始まったと発想するなんて、この子は毎日ちゃんと朝に目が覚めてるんだろうなあ。ちなみにこの質問に先生は、「世界が始まった瞬間が朝だったかどうかはよくわからない。でも、地球に関しては、地球の半分は昼でも別の半分は夜である」というコメントをしていました。

でも、世界が始まった瞬間が、宇宙が始まった瞬間や地球が始まった瞬間とは限らないですよね。これを聞いたとき、私たちはいつを「世界が始まった瞬間」と考えるのだろうと不思議に思いました。他の質問でも同様で、「私たちは何をどう考えているのか」に関する質問ってありそうです。Twitterにも、こんなツイートがありました。

https://twitter.com/7210osmt/status/1022325130037317633

子どもの疑問への答え方は、自然科学による答え方だけではないように思います。僕としては、哲学や認知科学に関する専門家も、「先生」として番組に出てきてほしいな〜と思います。小学生に哲学を説明するの、とても大変そうですけど、それだけに、聞き応えがありそうです。

「科学電話相談」を聞いていると、自分が子どものころに持っていた、でもずっと忘れていた疑問が、呼び起こされます。ちなみに、思い出した僕の小さい頃の疑問は、以下の3つです。

(1)「自分を動かしているのは誰なの?」
(2)「自分が見ていないとき、みんなはどんな姿をしているの?」
(3)「どうして絵を描くときに黒い線を引くの?」

(1)については、自分の頭の中に司令官みたいな人が住んでいて、その人が自分のことを動かしているんだと思っていました。その人は、実際にずっと頭の中にいた(いるような気がしていた)んですが、いつの間にかいなくなっていました。

(2)については、なぜか、「自分が見ていないときは、みんな怪獣の姿をしているに違いない」と思っていました。それで勇気を振り絞って、姉に「本当は怪獣なんでしょ?」と尋ねたことを覚えています。自分が来ている世界を揺るがす危険な質問でした。姉の反応は覚えていません。

(3)については、少し説明が必要な気がします。キッズの僕が何を思ったのかというと、実際の机や椅子、人間などなどには、「黒い線」なんてものはないのに、どうして絵を描くときは、「黒い線」を引くのか、という疑問です。そこで、小さいころから絵を描くのが好きだった自分は、黒い線を用いずに絵を描くということを試みました。ところが、不思議なことに、いつも夢中になって描いていたはずの絵が、何も描けなくなってしまったのです。色を塗ろうにも、まずは線が引いてないと塗ることができない。線がなければ何も描けないという経験をしたことを覚えています。

今になって思えば、いずれも自分は、認知の世界に疑問を持っていたのだと思われます。(1)は要するに「自分とはなんなのか?」という問い、(2)は「他者とはなんなのか?」という問いと関係があるような気がします。(3)の「黒い線」は、僕の「認識の線」でした。僕が、世界と世界、モノとモノを区別している線だったのだと思います。

そう思うと、言語学もまた人間の認知に関わる学問なので、自分が言語学の世界に足を踏み入れたのは、何か必然のようなものがあるような気がしてきます。これらの疑問ことはすっかりわすれていたけども、「三つ子の魂百まで」ですね。

誰しも、子どもの頃、車の後部座席から月を見て「月が追いかけてくる!」と思ったことがあると思います。あの感覚、いつの間に忘れてしまったのでしょう。不思議なことに、今、車の中から月を見ても、決して月は僕を追いかけてはくれません。「月が追いかけてくる!」という気持ちを持って生活するには、大人はやっぱり忙しすぎるかもしれません。でも、「子ども科学電話相談」を聞いた後だけは、ちょっぴり童心に帰ることができるようにも思います。もしかしたら、このラジオを聞いた日の夜の月だけは、僕を追いかけてくれるかもしれないような気がします。


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