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【子宮頸がんの記録#19】頭皮冷却

最近、抗がん剤の脱毛を少なくするために「頭皮冷却」が有効であるという研究結果が出て、抗がん剤治療中に頭皮冷却を行うことができる施設が増えている。

自費診療で、ヘルメットをレンタルする場合は1回15000円ほど。
抗がん剤投与中に5時間ほど(子宮頸がんの場合)頭部を覆うヘルメットに冷たい灌流液が流れ、頭皮を19度に保つ治療だ。
脱毛を完全に防ぐことはできないが、50%ほどは髪の毛が残ることが多いよう。ウィッグは必要だが、50%あれば帽子をかぶれば不自然でない程度だ。髪がすべてなくなった今思うのは、帽子だけかぶって出かけられるほどの髪の毛があるのとないのとでは全然違うということだ。

正しくは、私が頭皮冷却はできないかと直談判した。
私の通院している病院では最近頭皮冷却の装置が導入され、希望する乳がん患者に対してのみ行われていた。
脱毛の副作用があるパクリタキセルは、乳がん患者では30分から1時間ほどの投与なのに対し、子宮頸がんのTC療法では3時間かかる。
頭皮冷却はパクリタキセルの投与時間にプラス2時間なので、乳がん患者は3時間で終わるのに対し、子宮頸がんの場合は5時間かかるため患者の負担が大きいというのが理由だった。

なおかつ、頭皮冷却の装置が外来化学療法センターにしかなく、入院で抗がん剤投与をしなければならなかった初回は頭皮冷却をすることができなかった。
初回の抗がん剤のみでほとんどの髪の毛がなくなる勢いで髪の毛が抜けていた私は、もう守る髪の毛もなかったわけで、「もう意味がない」と投げやりになりそうだった。

けれど、頭皮冷却を行うことにした。

意地だったのかもしれない。
どんどん抜けていく髪の毛と、痛々しい自分の姿を目の当たりにして、絶望していた。

「また生えてくる」「エンドレスケモじゃないんだから」
そんなことわかっている。
自分が一番わかってるよ。
「抜けてしまう」事実が辛いんだよ。
抜けてしまうことが辛いのに、「また生えてくるから」の励ましは響かない。

頭皮冷却は、脱毛を抑制することのほかに、「発毛を早める」効果もある。
希望がほしかった。
悲しくて真っ暗なトンネルの中で、光を探していたのかもしれない。
少しでも早く出口を見つけたかった。


頭皮冷却をすることに決めたものの、道のりはかなり険しかった。
頭皮全体を19度に保つ。灌流液はマイナス4度。
頭皮を冷やすと全身が冷える。真夏だったが、私だけ北極にいるようだった。
頭皮冷却と合わせて手足の冷却(末梢神経障害=痺れ対策)もしていたのだが、カーディガンの上にダウンを羽織り、ストールで首元をぐるぐる巻いて、ホットノン(湯たんぽみたいなもの)を5つもらっても、ずっと歯がガチガチなって鳥肌がたっているほど寒かった。
それを5時間耐えなければならず、かなりしんどい思いをした。
実際に頭皮冷却をして、寒さに耐えられず(または寒さと締め付けによる副作用で頭痛や吐き気を引き起こすので)頭皮冷却を中断する人もいるようだった。
私も何度かもうやめようかと思ったが、やめるとここまでの努力(とお金)が無駄になると思い耐えた。
一つの物事をやり遂げようとする力、忍耐強さには定評がある私だ。そんなふうに育ててくれた両親に感謝した。


抗がん剤の5クール目の翌日、前髪に産毛を発見した。
主治医曰く、抗がん剤投与中に発毛するのは珍しいらしく、頭皮冷却の効果ではということだった。

まつ毛や眉毛は髪の毛よりは抜けるスピードは遅かったが、抗がん剤を繰り返すうちにすべてなくなった。
これらはラストケモから5週間で生え始めたので、髪の毛は頭皮冷却をしてだいたい2ヶ月ほど早く発毛したことになる。

毎日鏡とにらめっこ。
ひよこのようなふわふわの毛が愛おしく感じた。
少しずつ黒々していく自分の頭を見て、にんまりした。
「すごい生えてきたじゃん!」という家族の声も嬉しかった。

早く脱ウィッグをしたくてたまらない。
頭皮冷却のおかげで2ヶ月はやく外せる。
たった2ヶ月だが、日々をウィッグを被らずに外出できる楽さ、喜びは経験した人にしかわからない。

まずは、極寒地獄を頑張って耐えた自分に最大限の拍手を送りたい。
費用もそれなりにかかったが、迷わずに頭皮冷却をさせてくれた夫にも感謝している。

再発して抗がん剤治療になったらまた脱毛するから、頭皮冷却してよかったと言えるのはまだ先になりそうなのだけれど。

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