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金閣寺を読む  第四章  花子出版

こんにちは。

師走のお忙しい中、いかがお過ごしでしょうか。多忙だろうと、間暇だろうと金閣寺は荘重な姿で古都に屹立しています。いきたくなってきました。

さて、第四章が始まります!!


梗概

昭和二十二年の春、溝口は大谷大学の予科へ入学する。老師の慈愛や同僚からの羨望に包まれて意気揚々と入学したのではない。忌まわしい事情があった。
金閣寺にて、溝口と米兵と娼婦が起こった出来事から一週間後のことだった。
溝口が学校から帰宅すると、寺の徒弟が嬉しそうな眼差しを彼に向けた。眼差しに疑問を抱いた溝口は、鶴川に問いただす。鶴川も又聞きであったが、答えた。
溝口が腹を踏んだ娼婦が流産し、金を貰いにやってきたのだ。表沙汰にされたくない老師は金を渡して娼婦を帰した。
この出来事を、鶴川は涙を浮かべながら溝口に問う。
「本当に君はそんなことをやったのか?」

溝口の陽画であった鶴川の問いに、溝口は自分の暗黒の感情に直面した。
友情だから問いかけるのだろうか。鶴川がもし彼の役割に忠実であったら、私を問いつめたりせずに、何も訊かずに、私の暗い感情を、そっくりそのまま、明るい感情に飜訳すべきであったのだ。その時、嘘は真実になり、真実は嘘になった筈だ。鶴川の持ち前のそういう仕方、すべての影を日向に、すべての夜を昼に、すべての月光を日光に、すべての夜の苔の湿りを、昼のかがやかしい若葉のそよぎに飜訳する仕方を見れば、私も吃りながら、すべてを懺悔したかもしれない。が、このときに限って、溝口は曖昧に笑い、
「何もせえへんで」
と言った。

老師が2カートンのタバコをもらった時、すべてに気がついていたのだろうか? そう思うと、溝口は籠に捉えられた小鳥のように思え、安堵することなく暗澹たる気持ちで過ごすしかなかった。一年もの間。
逼迫する感情ながらも溝口は、娼婦との出来事を打明けることはなかった。打明ければ、人生最初の悪が瓦解する筈だが、何ものかが溝口の背を引いていた。

こんな経緯がありつつも溝口は大学へ入学し、鶴川も同様に入学する。鶴川は友人が増えてゆく。一方の溝口は吃音症もあり、孤立していった。
溝口は同じく孤立していた柏木に声をかけた。柏木は内翻足だ。溝口の変わらぬ吃り口調の問いに、柏木は返事をした。
「君が俺に何故話しかけてくるか、ちゃんとわかっているんだぞ。溝口って言ったな、君。片輪同士で友だちになろうっていうのもいいが、君は俺に比べて自分の吃りを、そんな大事だとおもっているのか。君は自分を大事にしすぎている。だから自分と一緒に、自分の吃りも大事にしすぎているんじゃないか」
溝口が躊躇していると、柏木は続ける。
「そうだろうな。君は童貞だ。ちっとも美しい童貞じゃない。女にももてず、商売女を買う勇気もない。それだけのことだ。しかし君が、童貞同士附合うつもりで俺と附合うなら、まちいがっているぜ。俺がどうして童貞を脱却したか、話そうか?」

柏木の話が続く。
彼は三ノ宮近郊の善寺の息子で、生まれつき内翻足だ。彼は自分の存在条件を恥じ、存在条件と和解するのは敗北だと考える。幼少期に矯正手術するならよかったが、今ではもう遅い。
内翻足に劣等し、彼は女から愛されないと堅く信じていたが、神戸の女学校を出ている裕福な娘が、彼に愛を打ち明けた。これは青春の事件だ。
しかし、彼はわかっていた。娘は、並外れた自尊心から彼に愛をつげたと。彼女は美しく、女として値打ちを十分知っていたから、彼女は自信のある求愛者を受け入れるわけにはゆかなかった。いわゆる良縁ほど彼女は嫌悪を与える。ついには、愛におけるあらゆる均衡を潔癖にしりぞけ、彼に目をつけるようになった。
彼は衒うことなく、
「愛していない」
と答える。
この葛藤から、柏木はたった一人で住む老いた寡婦に目をつける。寡婦は六十歳とも、それ以上とも言われた。老婆の亡父の命日に、父の代理で柏木は経を上げに老婆の家を訪れる。経を終え、夏で汗をかいた柏木は裸になり水浴びをした。老婆はいたわしそうに柏木の内翻足を見入る。柏木は企み、
「俺が生まれたとき、母の夢に仏が現じて、この子が成人した暁、この子の足を心から拝んだ女は極楽往生するというお告げがあった」
と語る。
すると信心深い老婆は、数珠をかけて合掌し、屍のように裸のまま仰向けに横たわった。
柏木は起き上がり、老婆を突き倒す。老婆は驚くこともなく、目を閉じ経を読みつづけている。
内翻足と年老いて皺だらけの寡婦、この実相をみることが柏木の肉体に昂奮を与えた。
これが柏木が童貞を破った顚末だった。

話を聞いていた溝口は激しい感銘に見舞われ、新鋭な考えに触れた苦痛から醒めなかった。そして、溝口は初めて授業をサボり、柏木と映画を見るために正門に向かった。柏木のことをもっと知りたかったのだ。
終戦を迎えたグラウンドにはスポーツに励む学生が溢れる。柏木は阿呆な奴らと唾棄する。

その時、女が向こうからやってきた。


以上梗概。



以下、私の読書感想。

内翻足の柏木が現れました。過激で隆盛な彼も『金閣寺』にはなくてはなりません。大学には多くの考えを持った学生が溢れます。多様性の栖。又は多様性の巣窟。巣窟というと悪いイメージになりますけれど。そんな大学ですが、僕もかなりの影響がありました。右も左もわからない私の思想を少しづつ形成していった場所であります。『金閣寺』にもそのことは記載されています。
大谷大学。ここは私がはじめて思想に、それも私の勝手に選んだ思想に親しみ、私の人生の曲がり角となった場所である。
全く、その通りだと思います。

さてさて、内翻足の柏木が童貞を捨てる時の思想への描写は、目を見張るものがあります。葛藤などの安直な言葉では言い表せない、人間の業の深さを丁寧に理論立てて書かれ、激しい感銘を与えてくれます。

最後に女が現れます。次の章への付箋をはり、読者を虜にする章の繋ぎも、申し分ありません。次の章が待ち遠しい限りです。



では第五章で、お会いしましょう!!!

花子出版  倉岡剛

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