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辛い経験をする度に、人に優しくなれる

会社を退職した時、私は複雑な思いを抱えていた。その仕事を続けるには精神的に限界がきていたし、やりたいことを実現するために正しい選択をしたと思っている。でも、心のどこかで楽な方に逃げたかっただけなんじゃないかとか、本当はもっと頑張れたんじゃないかとか、ある種の罪悪感のような感情に苦しめられていた。

そんな時、久しぶりに大学時代の友人に会った。私が退職を知らせると驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔に戻って「じゃあ今日は退職祝いだね」といいながら乾杯をした。

ビールを少し口に含んだ後、彼は私の目をまっすぐに見て言った。

「頑張ったと思うよ」

その言葉を聞いた瞬間、私は涙が止まらなくなった。その時の私が一番欲していた言葉。限界まで頑張った。そう思ってはいたけれど、なぜかその事実を受け止めてはいけない気がしていた。自分自身にその言葉を掛けてあげられないでいた。

彼は、私の会社のことも仕事ぶりも殆ど知らない。でも、私の苦労や葛藤や不安を想像してその言葉をくれたのだと思うと、彼の優しさが身に染みて涙を堪えることなんて不可能だった。

思えば、彼も私と同じように転職を経験している。彼は大学卒業後、大手証券会社に就職したが、職場の環境が合わなかったようで暫く休職した後に転職した。その時のことについて彼は多くを語ろうとはしないが、とても苦労していたというのは風の噂で聞いていた。

優しさとは、人の心に寄り添うことだと思う。寄り添うというのは、励ますのでもなく、導くのでもなく、ただ傍にいて辛い気持ちを一緒に感じようとしてくれること。それには痛みを伴うし、簡単にできることではない。それでも、人の痛みを自分のことのように感じられる人は、これまでに沢山の辛い経験をしてきたに違いないし、誰よりも傷つきやすいのではないだろうか。そんな繊細な心を持っていながら、人の心に寄り添う強さを持っている人が優しい人と呼ばれるのだと思う。

だから私は、辛い経験をする度に「これでもっと人に優しくできる」と考えるようにしている。まだ強さが足りなくて、優しくなりきれない時もあるけれど、いつの日かどんな時も人の心に寄り添える優しい人になりたいと思う。





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