- 運営しているクリエイター
記事一覧
4 seasons ― lost village 第1章
プロローグ
わたしは25歳の誕生日をひとりで迎えた。
正確には数名の友人からバースデーメッセージを受け取ったので、本当の意味での孤独ではなかったのだけれど。
それに、1ヶ月ほど前から、わたしの部屋に黒猫が棲みついてしまって、今もソファの上で、スヤスヤと眠っている。きっとこの子も心の中では、お祝いしてくれているに違いない。
ちょうど1年前の今日。
わたしは、仕事の関係で小さな村へ移住した。
4 seasons ― lost village 第2章
春の嵐と君への想い
今ちょうど18時を過ぎたところだ。
今夜の天気予報は曇りのち晴れ。
朝から少し風は強かったように思うが、あまり気にせずに、早めに夕食を済ませて、天体観測の準備をしていた。
いつものように、天候チェックのため、窓の外に目をやると、わたしの庭には、ピンク、ブルー、白に染まった早咲きアジサイが咲き誇り、夕闇の中でも、ひと際存在感を放っている。
昼と夜が交差する一瞬の時間。わ
4 seasons ― lost village 第3章
星降る夏のはじまり
春の嵐の季節が過ぎ去り、また本格的な夏の観光シーズンが始まろうとしていた。
わたしたち村民にとって、観光客を迎え入れることは、有り難くもあり、不自由でもある。
これから週末になると、どこのパーキングも観光バスやらキャンピングカーのような大型車でいっぱいになり、そこへライダーも合流して、村のすべての駐車場は混沌とした状態になる。
遠い昔、馬車道として機能していた道路は、
4 seasons ― lost village 第4章
秋雨と七色の虹
夏の名残を背負った子どもたちが、わたしの横を元気よく駆け抜けてゆく。
久しぶりに、級友たちと会う喜びが、体中から伝わってくるようだ。
彼らのランドセルは、太陽の光を浴びて、赤、黒、青、緑、ピンク、グレー、ブラウンに輝いて、とても美しかった。
歩道の街路樹には、夏の始まりから秋の入り口まで、サルスベリが濃いピンクや白の花を愛嬌良く咲かせている。
一方で、イチョウやケヤキは
4 seasons ― lost village 第5章
雪の結晶と流星群
12月24日。快晴。クリスマス・イヴ。
今夜は、ふたご座流星群が、今期最後の見頃を迎えている。
わたしは、ルッツを誘って、山頂まで天体観測に出かけることにした。
当日は、彼がピックアップトラックを町でレンタルして、自宅まで迎えに来てくれることになっていて、約束の時間よりも20分ほど遅れて、玄関チャイムが鳴った。
わたしが「ルッツが来たよ」と声をかけると、ソファで眠って
4 seasons ― lost village 第6章
エピローグ
もうじき渡り鳥たちは、ひとときの休息を終えて、次の目的地にいっせいに飛び立つ。
彼らの旅立ちに合わせて、ルッツも新天地へと向かう準備をしていた。
彼は、いつになく神妙な面持ちで暖炉の前に座り、自分のそばに来るように手招きをする。わたしは、彼の言う通り隣に座り、肩にもたれかかる。
目の前にある赤い炎は、バチバチと音を立てて、微かに揺れている。暖炉の炎を見ていると、どうしてこんな
4 seasons ― lost village 第7章
Hanna's diary 9月
9月1日 水曜日 晴れ
ルッツの旅立ちから半年になる。
6月から連絡がつかなくなった。
ずっと音信不通のまま。
彼が元気でありますように。
今はただ無事を祈ること。
今夏は天候も人々も穏やか。
わたしは平和な日常を送っています。
ルッツ、お元気ですか?
9月7日 火曜日 曇り
来週から国立天文台のサイトは一時休止になる。
リニューアルに向
4 seasons ― lost village 第8章
Hanna's diary 10月
10月2日 土曜日 晴れ
ここ数週間は秋晴れが続いている。
夕方からクラークさんのカフェへ。
村民でイラストレーターのイザベルさんに会う。
彼女のエッセイ集の出版記念パーティーだ。
わたしはアフターパーティーに呼んでもらった。
初めて彼女と対面することができた。
とてもおおらかで優しい女性。うれしい。
10月11日 月曜日 晴れ
クラーク
4 seasons ― lost village 第9章
Hanna's diary 11月
11月2日 火曜日 晴れ
エリナさんとホテルのバーへ。
なぜかイツキ先生とグレーのスーツ姿の男性が二人いた。
わたしには彼らがエンデの『モモ』の悪役に見えている。
時間どろぼうのような灰色の男たち。
わたしはエリナさんに目配せをした。
エリナさんはお構いなしにイツキ先生たちに話しかけた。
イツキ先生は驚きながらも「一緒に飲もう」と声を掛けてくれ
4 seasons ― lost village 第10章
Hanna's diary 12月
12月4日 土曜日 晴れのち雪
都会から父が遊びに来た。
フェリセットは落ち着かない様子。
父は詩人のわりに陽気な性格だ。
少しいい加減なところのあるひとだ。
何を聞いてもほぼ真実は語られたことはない。
彼には少し妄想癖があるように思う。
それは時として混乱を招く。
12月5日 日曜日 曇り
父と隣家のムランさん宅へご挨拶に行った。
エリ
4 seasons ― lost village 第11章
Hanna's diary 1月
1月1日 土曜日 晴れ
ようやく東の空から大きな太陽が顔を出した。
わたしたちは山頂で一夜を明かして初日の出を迎えた。
また新しい1年が始まる。
ハッピー・ニュー・イヤー!
#創作大賞2022