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4 seasons ― lost village 第9章

Hanna's diary 11月 


11月2日 火曜日 晴れ


エリナさんとホテルのバーへ。

なぜかイツキ先生とグレーのスーツ姿の男性が二人いた。

わたしには彼らがエンデの『モモ』の悪役に見えている。

時間どろぼうのような灰色の男たち。

わたしはエリナさんに目配せをした。

エリナさんはお構いなしにイツキ先生たちに話しかけた。

イツキ先生は驚きながらも「一緒に飲もう」と声を掛けてくれた。

エリナさんは酔っぱらった勢いで男たちに身の上話を聞かせた。

イツキ先生は少し離れたカウンター越しに眺めている。

思わぬ助っ人に感謝の笑みを浮かべているようだった。


11月3日 水曜日 雷雨


雨の中でもバラは美しい。

わたしの庭のツタバラが目に映った。

フェリセットとゆっくり過ごせる夜。

雨音と暴風に揺れる木々のざわめきで騒々しい。

ルッツ、今どうしていますか?


11月4日 木曜日 曇りのち雷雨


昨夜不思議な夢を見た。

ルッツがわたし。わたしがルッツ。

ふたりの魂と身体が入れ替わっている夢だった。

今夜も雷雨になる予報。

もしかしたら天体観測は出来ないかもしれない。


11月7日 日曜日 雨


星降る村」特有の天候不順。

もうかれこれ1週間近く雨の日が続いている。

今夜も天体観測は中止。

国立天文台のマルメさんから励ましの言葉が届いた。

今夜はフェリセットと映画鑑賞。

以前ルッツに教えてもらった東欧映画。

記憶喪失の男が元恋人と再会し恋に落ちるというストーリー。


11月10日 水曜日 晴れ


ようやく晴れました!

まずは国立天文台の学芸員のマルメさんに連絡をした。

10日近く天体観察日誌の配信がストップ!

マルメさんは気が気ではなかったようだ。

何より登録者数28万人のコンテンツ。

一日に推定3~4万人は訪れる。

その収益は少なからず天文台の維持に役立っている。


11月14日 日曜日 雪


今朝は初雪が降った。

久しぶりに暖炉に着火すると古い油の匂いがした。

フェリセットは暖炉の前で毛繕いをしている。

先日エリナさん&クラーク夫人とリンゴを収穫した。

その日のうちにすべてジャムにして分けた。

今夜はジャズを聴きながら本を読んでいる。

少量のジャムとミルクを入れたアッサムティー。


11月23日 火曜日 雪のち晴れ


初雪から10日で雪景色になった。

真昼でも氷点下の日々は続く。

隣家の屋根には氷柱がいくつも下がっている。

冷たく澄んだ外気は気持ちを引き締めてくれる。

頭上には冬の大三角形や星座たちの輝きが見てとれる。

今夜はふたご座流星群を観る。

イザベルさんも家族で天体観測に来ていた。

子どもたちは流れ星に感嘆の声を上げてはしゃいでいた。

腕を伸ばしたら星に手が届くだろうか。

冬の星座は近く眩い。


11月25日 木曜日 晴れ


クラークさんのカフェにて。

執筆中のイツキ先生と会った。

今では重い腰を上げて新作に取り組んでいる。

若い編集者たちの熱意に心が動かされたそうだ。

作家になったことで家族に苦労をかけたこと。

自分がどんなにわがままな人間なのか?

様々な思いを悟ったとき離婚して村に移住したこと。

イツキ先生は静かに語ってくれた。


11月30日 火曜日 曇りのち晴れ


タルハシさんよりルッツから返信があったと連絡が来た。

彼は世界中を旅しながら鳥の写真を撮り続けていたのだ。

南米に入ったとき政治的混乱から外部との通信が遮断された。

クーデターの情報は他国に漏れることなく秘密裏に起こった。

今では軍事政権に返り咲いたようだ。

そのため彼は5ヶ月間ホテルに軟禁状態だった。

なかなか出国もできず足止めを余儀なくされていたのだ。

わたしはルッツの新しい連絡先へすぐにメッセージを送信した。


#創作大賞2022

初めまして。見て読んで下さって、本当にありがとうございます。これからも楽しみにしていて下さい♡