「後朝」ってなんて読む?平安時代の恋と衣 〜本当はこんなにえっちな平安文学〜

「衣」というテーマで記事を書くと決まったときのことを思い出し、猪狩はこう語る。

「衣って、えっちじゃないですか?!?!」

ーーそうですかね?

「そうですよ!!!!!!だから、昼間から"衣"だなんてえっちなテーマで、書いちゃっていいの?!ってドギマギしましたね……

いや、いったんやめよう、天ぷらの衣を全部剥がして食べる話にしようかとも思ったんですけどね……」



ーーでも結局、えっちな衣について記事を書くことにした、と。

違います。えっちな衣、ではなく、衣がそもそもえっちな存在なんです。全裸でそのまま見せてるより、衣で隠しててちらっと見えてるほうがえっちでしょ」

ーーえ、大丈夫?それnoteで書いていいやつ?

「大丈夫!!!!!
性的な描写はないよ!!!全年齢対象!!!!」


「本当はこんなにえっちな平安文学」!!!
はっじまっるよーーーー!!!!!!

描写はないけど「契りを結ぶ」「逢瀬」「実事」というワードは出てくるので、ちょっとやだなぁというお友達は目次から後半に飛ぶか、ブラウザバックしてね🥺


さて、問題です!!!テテンッ

「後朝」

これ、なんで読むでしょーかっ。



チッチッチッチッチッチッチッチッ⏰



そこまで〜〜〜〜〜!!!!!!!



できた?できた????


正解は…………



「きぬぎぬ」


はぁ????「後」も「朝」も、きぬだなんて読めないけど?!?!でたよ難読語あるある、意味わかんない読み!!!

そう思いますよね。わかります。

実はこれ、元々は「衣衣」と書いて「きぬぎぬ」だったところに、あとから意味に合わせた漢字が当てられたものなんです。

「後朝」とは、男女が一夜を共にして結ばれたあと、迎える朝のこと。

朝チュンです。(ドーン)


なぜ男女が一夜を共にして結ばれたあとのことを「衣衣」(きぬぎぬ)なんて言ったのか?!

その話をするために私は、平安時代の恋愛のかたちについて、まずお話してみたいと思います。


平安時代、男女の恋愛のかたち

✍️平安時代、キホンのキ!

平安時代は、基本的には顔は見せない!
対面しない!


人々は、御簾(すだれ、カーテン)ごしだったり、扇で顔を隠したり、した状態で会います。

画像1

御簾ってこんな感じ。そこにいるのはわかるけど、顔まではよく見えませんね。

この写真は柏木が女三宮の顔をうっかり見てしまって恋に落ちちゃう場面なので、端近に寄って立ち上がってますね。
本来ならば高貴な姫様はこんな近くに寄らないし、立ち上がったりもしません。座ってます。


やだ〜めっちゃ令和🥺平安って令和🥺

私たちも初対面の人の顔、マスク越しでしか知らない。食事や会話の際にはパーテーションが設置。オンラインの画面越しで飲み会も会議もしますもんね🥺💓 わたしたち、平安貴族!?


じゃあどうやって恋愛の相手を選ぶの?

「あそこの姫は美人らしいぞ」みたいな、噂話。
「ちょろっと声が聞こえたけど、めっっっちゃ美声だったぞ!!!お顔も美人に違いない!!!」みたいな、広がる想像。
文や和歌のやりとりのなかで触れる教養……。

あとは、「垣間見」と呼ばれる覗き見。

画像2

(土佐光起筆『源氏物語画帖』より「若紫」)

『源氏物語』で、光源氏が若紫ちゃん(のちの紫の上)の姿を垣間見しているところの、絵巻。


いやめっちゃのぞいてるやんんんんんん
現代なら完全に不審者で犯罪者で通報ですね。


素顔を見られるのは特別な関係性の相手だけ

「顔を見る」「逢う」=
「2人で逢って心も体も結ばれましたよ」
「実事がありましたよ」


これもまた、やーん!令和〜!って感じですよね!!!今、直接マスクの下の顔が見られる相手って、すっごく限定されています。ましてや、「濃厚接触」できる相手なんて、めちゃくちゃ特別な人ですよ!!!


もし古文読んだり、和歌鑑賞してるときに男女で「見る」「逢う」など出てきたら、それはだいたい、「実事あり!」と思ってもらってあってます。

当時は、三夜連続で逢瀬を重ねると=結婚。三夜目に行う「三日夜の餅」の儀式をもって夫婦になります。


隔てだらけの男女が結ばれるのは、夜

当時の結婚は「通い婚」。
男が女の家にやってくる、という婚姻形態。


男は、夜の暗闇に紛れて
女の部屋にこっそり入ってきます。🥷


あ、セキュリティもなにもないので、好きでもない人が勝手に入ってくることもありますよ。
また、女房(姫様の身の回りのことをするメイドさん)が手引きすることもあります。


女は引きずるくらい長い髪だし、普段はほぼほぼ歩かないから筋肉もないし、男に襲われたら逃げることなどできません。つらァ

侵入を許し、無理矢理……そしてそのまま結婚……という例も少なくないです。悲しい。悲しすぎる。

『源氏物語』だと✍️
源氏の奥さんの女三の宮に恋をした柏木(源氏の息子・夕霧のマブダチ)が、わああああもう我慢できないぃいい好きぃいいいって突入!

イチャイチャチュッチュして子までできてしまう(この子が宇治十帖で活躍する薫くん)

さらに源氏にそれが全部バレて、柏木は葬り去られますね。こわこわ。


「顔を見る」=裸を見られる

そうして、侵入してきた男と、女は……🤭💓



「顔を見る」「対面する」=逢瀬!!!
という時代なので、世間的には、男が侵入してきた時点で=逢瀬だぁあああ!実事あり!と、判断されます。



「●●姫のところに男が入っていった!よろしくやってるんだな!」


だから、秘密の恋をしている2人だったら、バレないようにそーーーーっと、訪問するわけです。噂はあっという間に広がりますからね。

たまーに、対面したのに何にもないまま帰ってくる男もいるけど、そういう場合「え???まじ???おま、なにやってんの???一晩語らっただけ???マ???」ってなるよ。

なにしろ感覚的には、顔を見るって「裸を見る」くらいなもん。それなのになにもなかったの???っていうわけです。

このとき初めて相手の顔を見る場合もあれば、平安の夜なんて真っ暗闇だから、顔なんて見えないまま……ということもあります。

✍️『源氏物語』では
光源氏も何回か契ったあとに初めて末摘花の顔を見て「ひ、ひええ、こんな顔だったのか〜!!!鼻がゾウさんみたいに長いやんけ!!!」ってなってますね。


2人の裸の心と体を包むもの……それが衣

当時はフカフカのおふとぅんも、高級なベッドもないですからね。男女がイチャイチャ一晩過ごすときどうするかというと……

お互いの着ていた衣を掛けて、そのなかで裸になってくっつきあいます。

きゃん🥺🙈💓


捗りますね。


契りを交わし、迎える朝

チュンチュン……

「あら、もう朝……」
「君と別れないといけない朝が恨めしいよ…」


「あらやだ🥺💓 とはいえ、いつまでも殿方を引き止めていたとなっては私が恥をかいてしまいます。明るくなる前に、どうぞ、お気をつけてお帰りくださいませませ」


「またくるよ」ナデナデ
「まってる……」チュッチュ

朝になったら離れ離れにならないといけないから、
恋する2人にとってはそりゃあそりゃあ、
朝は恨めしい!だって夜しか会えないんだもん!

はよ夜になれ!


ってことを知っていると、百人一首も見え方が変わるかも?このへんとかどうでしょう。

有明のつれなく見えし別れより
暁ばかり憂きものはなし
壬生忠岑(30番) 『古今集』恋・625


月が空に残っているうちに夜明けになったその頃に、つめたく見えたあなたとの無情な別れ以来、暁ほどつらいものはない。
あけぬれば暮るるものとは知りながら
なほ恨めしき朝ぼらけかな
藤原道信朝臣(52番) 『後拾遺集』恋二・672


「夜が明けるといつも日が暮れて、そして、あなたに逢えるのだ」とは知っていながら、やはり恨めしいのは夜が明ける頃であるよ。


「暁(あかつき)」「朝ぼらけ」が、恋人と別れなくてはいけない時間。2人は夜しか逢えない。だから、このような詠みぶりになるわけですね!🥺


離れてゆくあなたを感じる、衣

そうして2人は、掛けていた「衣」をまたそれぞれ身につけて、またねバイバイ。

「衣衣」……「きぬぎぬ」。

ここから、一夜を共にし、契りを交わした2人が迎える朝を「後朝」(きぬぎぬ)、バイバイしたあとに贈る和歌を「後朝の歌」と呼びます。

「後朝」の由来は、愛しいあの人と熱い一夜を過ごしてバイバイしたあとの「衣」


なんてロマンチックでえっちなんでしょう🥺


ああ〜推しのにおいぃ〜クンカクンカ

衣を互いにかけて、抱き合って眠っていたわけなので、自分の衣にも相手の香りが移っていたりもします。(当時は「香(こう)」を全身に焚きしめていたので、今の感覚よりも香りが強く残っているイメージで🙆‍♀️)

2人で過ごした夜のことを思い出しつつ、後朝の余韻に浸りつつ、あの人の匂いを……クンカクンカ

いやいや、クンカクンカ〜とか嘘だろ!
平安文学だぞ?!
現代のヲタクの妄想か?!

と、思うかもしれないけど、違うです!

かの有名な『源氏物語』にも書いてあるんです!!!

若き人の御心にしみぬべく、たぐひ少なげなる朝明の姿を見送りて、名残とまれる御移り香なども、人知れずものあはれなるは、ざれたる御心かな。
(『源氏物語』総角巻より)

匂宮っていう、源氏の孫で、めっちゃお香焚きしめてて匂いまみれの男がいるんですけど(ひどい解説)

その奥さん・中の君が、結婚式のあとに匂宮とバイバイ〜からの、クンカクンカしてるところです。

「朝明の姿」は、帰って行く匂宮、「御移り香」は匂宮の匂い。

匂宮様の匂い!匂宮様の匂い!!!!
ってなってるでしょ完全に!!!!!(?)

「のだめカンタービレ」のなかでも、のだめちゃんは千秋先輩の留守中に洗濯前のワイシャツの匂い嗅いで寂しさ紛らわせてますからね🥺


ずっとそうなんだよ、ずっと、人っていうのは、好きな人の匂いをクンカクンカしてきたんだよ(過言)

はぁ、なんてえっちなんでしょうね。
衣についた好きな人の匂いほどえっちなものありませんよね。最高ですね。んふふ。


「後朝」の由来は、愛しいあの人と熱い一夜を過ごしてバイバイしたあとの「衣」


「衣」というと、男女の恋ーーそれも、夜の語らい、契り、そして、後朝の切なさを思い出す。

そんな私なのです。

そんな私なので、「衣」っていったら、
ロマンチックで、えっち!!!!!🥺💓




さあ、ここまで読んでくれた奇特なアナタ
もう読めますね。



「後朝」


せーーーーの!


\きぬぎぬー!!!!!!!/



余談 好きな人に会えるおまじない


平安と恋と衣というと、もうひとつ。


夢で好きな人に会えるおまじないを伝授します。

いとせめて 恋しきときは むばたまの
夜の衣を 返してぞ着る
(小野小町・古今和歌集・恋二・554)

もう耐え切れないほど恋しい時には、「夜の衣」を裏返して着て寝ます


どうやら、「夜の衣」(当時の「パジャマ」は、下着1枚)をひっくり返して着て寝ると、夢の中で好きな人に会えるという「おまじない」があったようです。

なにぶん急に男が部屋に侵入して会いに来る世の中なので、連絡がなくっても「来ちゃった🥺💓」って場合もあるんだよね。

そうなると余計に、今夜もしかして、いきなり彼が来るかも?!なんてアレコレ考えちゃったりも、するよね。

しかも平安時代の婚姻形態は「一夫多妻制
彼が私のところに来ないってことは、別の女のところに行ってる可能性もあるわけで…………ヤキモキヤキモキ

はぁ……つらい……夢でくらい、好きなあの人に逢いたいわ……


夢でもし〜会えたら〜素敵なことねぇ〜♪



悩ましい〜〜〜平安の恋〜〜〜🥺💓



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この記事は、「五賢帝教育研究所」
テーマ記事企画
今月のテーマ「衣」によせて書きました



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猪狩はな 💙@hana_so14
https://twitter.com/hana_so14

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