【掌編小説】[SSSF]リンク
物語は、時に、唐突に始まる。
それは、区切りの良いところから、始まる保証もない。
「━━!」
敦は言う。
…だが、何を言ったのかは、物語の始まりから漏れてしまった。
リコは、それをキョトンとして聞いていた。
「え?なんで?」
「…は?わかんねぇの?」
敦は横を向きながら、声に出す。
それを、リコは、じぃっと見つめた。
「んん、わかんない。言ってよ」
「…はぁ…」
ため息をついて、敦は目を閉じた。
敦の二の句が出てくるのを、ある程度待ったかのような間の後、リコは声を出した。
「…私は、仲良くやってゆきたくて…」
リコは、目を閉じたままの敦に、視線を注いでいる。
「…」
敦の瞼が軽く動いている。
「………」
敦の声は、リコだけは辛うじて聞こえるぐらいの小さいものになった。そして敦は、おもむろに、机の上に置いてあった、手帳の1ページをやぶりとった。
敦が使っていた手帳だ。
リコはよくそれに落書きをしていた。
「……」
と、かすかな声を出し、敦はそれを破き終えた後、リコの方に視線を向けた。
リコと目があう。
リコは静かに、微笑んだ。
「…ありがとう━━
(リコの言葉が、終わらぬうちに、敦の視線はリコから外れ、斜め下にうつる)
━━ん、オッケーだよ。
辛そうしてるの見るの、辛いし…。
気持ち、伝えてくれて、ありがとう」
リコの冒頭の感謝は、何への感謝だったのか。
一時でも、目線を寄せてくれたことへの?それとも、その眼差しの発する気配への?それとも…?
…まぁ、分からぬことは、横に置こう。
斜め下を見続ける敦のその瞳を、リコは見ていた。
唇を閉じたままの、リコの喉が動く。
「…すごく、楽しかったよ。
私は絶対、忘れないから」
「……。…」
敦の声は変わらずの声量で、リコは耳をそばだてるような仕草をしたあと、しばし、目をギュッと閉じた。
そして、それをゆっくりあけ、また、敦に視線を寄せる。
「…それは、無理…かな。
だって、私の大事な記憶だから。
幸運な…」
言葉を切り、リコは言葉を選ぶようにしながら、敦の反応を見る。
敦の姿勢が変わることは無かった。
「…忘れ…ないよ」
リコは、続く言葉を飲み込んだのだろうか。
ただ、ポツリと声をこぼした。
「………」
「…え?」
リコにすら聞こえない、小さな小さな声。敦は顔を横にそむけ、さっと手を上に上げて、リコの方に手のひらを見せた。
「…」
それを凝視しつつ、リコの瞳がゆれ、そのしばし後、伏し目がちになった。
リコは唇をぎゅうっとしばり、
その後、何度か、唇が動く。
だが、それは、音にはならなかった。
「…。…、…うん。
…バイバ…」
リコの声がかすれ消えて、唇が刹那、わななく。
握っていた手をさらに強く握るかのように、手が動いた。
また、リコの唇だけが動く。
敦の視界に入らない、その唇は、声にはならない、カタチだけをつくる。
そして、リコは、大きく息を吸い込むようにし、また、敦を見た。
「…。
…うぞ、元気で。
………、
……。
…………ご自愛、
…してこうね」
リコは、広角をあげ、あかく潤んだその目を隠すように、笑顔になった。
…いや、ただ、笑顔になりたかった、笑顔を見せたかっただけなのかも知れないが…。
すると、リコのホログラムアバターがかすれてゆき、退出を告げる通知が表示される。
それと同時に、机の上の手帳、そして、破られたページも、キラキラと砂粒のように、消えてゆく。
敦とリコの縁が切れたことにより、共有道具が削除されたのだ。
これは、掌編少し不可思議物語。
現在ではないどこかの街の、
日本名だが、日本かは知れぬ、
かといってどことも知れぬ、
用いている技術も謎めいた、
あり得るならば不日であるか、
はたまた…?と、
舞台自体は不明だが、
それは枝葉で横に置き、
とある二人のその縁、
散と消えしその刹那、
それを記した物語。
これも、一つの「めでたしめでたし」。
諍うことなく、拘泥も無く、
片やの「善」
を、善で受け、
互いの「善」と、成りしもの。
…
『散と消えし』、されど、否。
リコは、ケツイ、伝えたる。
『主のことをば、忘れじ』と。
ゆえに、リコの内にては、
散はせずと、
花祝、
忘れじ記憶と、リコは言う。
敦は、知れぬ、闇の中。
それは読者の由のまま。
いかようにでも、ご賞味を。
〆に添えたるケツイとて、
リコ笑顔、
その刹那、
切り取り描く、不日をば、
夢想し、鬼の笑い声。
おあとがよろしと、
その笑い声に、
ノセて文をば、筆払い。
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