上手な例え話とは?

 女性アイドルグループのテープ起こしをしていて、自分の発言に腹が立った。なぜ私はすぐ野球で例えて話をしてしまうのか? まったく関係ないテーマなのに、そこで野球を持ち出す必要がどこにあるのか? これはまさに20代OLが考える老害上司そのもの。本当に悪癖だと思う。

 もう少し細かく解説すると、そのインタビューは「エース論」や「センター論」をメンバーが語る内容。その中で「そもそもエースって何?」ということになり、よせばいいのに私が野球に例に出しつつ話を進めてしまったのだ。

 偶然、参加者の中に野球好きの竹内彩姫がいたので九死に一生を得たが、若いアイドルがいきなり野球の話を振られても困惑するばかりだろう。実際、これまでも同じように野球の話をアイドルの前で持ち出して、「何言ってるの、こいつ?」と微妙な空気になったことが何度かある。

 これだけ世間から忌み嫌われる「野球の例え話おじさん」だが、その発祥までさかのぼって考えると、おそらく昔は日本人の共通の話題として常に野球が中心にあったということなのだろう。だけど趣味や価値観の多様化によって、野球に興味を持たない層が増えた。言葉を変えると、野球が真のメジャースポーツではなくなった。だから例え話として機能しなくなったという面がある。

 もちろん野球の例え話がNGだからといって、サッカーだったらOKということにはならない。日本代表クラスだったらともかく、Jリーグなんて最悪。ましてや欧州サッカーで例え話をした日には、速攻で「仕事ができない男」の烙印を押されてしまうはずだ。

 では、これが大相撲だったら? フィギュアスケートだったら? ラグビーだったら? プロレスだったら? 答えはすべて「NO!」である。スポーツじゃなくても、たとえば自民党議員、歴史上の人物、動物、食事メニューなども互いに共通のリテラシーがないと会話として成立しない恐れがある。

 そういえば私が竹書房に在籍していたとき、やたら麻雀で物事を例えてくる上司がいた。竹書房は『近代麻雀』を出している出版社なので、さも当然といった調子で麻雀流の人生訓を説いてくるのである。私はその男が大嫌いだったこともあって、麻雀に対する苦手意識がここで決定的になった。

 で、またタチが悪いことに麻雀界の中でカリスマ視されている桜井章一という人物は、それっぽいことを平気で口にするのだ。「誰かが困っていれば、理屈を考える前に行動しろ」だの「不安や迷いの原因は『感激』『感動』『感謝』が足りないこと」だの「トイレを綺麗に掃除すれば心も綺麗になる」だの……。麻雀に興味がない私からすると、ただのイカサマ師なのだけれど。

 いずれにせよ、上手に例え話ができないというのは空気が読めないことと同じ。TPOをわきまえない人間ということである。とりあえず2020年の抱負は「野球の例え話はしない」に決まった。

(2020-01-09:初出)

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