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タルホとジュペリ

小説家兼飛行機乗りといえばサン=テグジュペリである。彼は海へ墜落するまで、飛行機に乗り続けた。
一方、飛行機乗りに憧れたもののその夢に破れたのは稲垣足穂である。
対極の存在とも言える二人。

サン=テグジュペリは蟹座。
彼のホロスコープは星の王子さまが渡り鳥に乗ってやってきた絵を連想させるような、おおきなパラシュートのような形をしている。操縦席に乗ってるかのような気分にさせられる、ロマン溢れる夜間飛行。そして射手座に天体を持つ彼は、よだかの星のよだかと、射手座のケイローンを連想させる。いまでも飛びながら、終わりのない旅をしているかのように思える。
それから飛行機の不時着からはじまる、王子さまとの出会いと別れまでの悲しい物語。「たいせつなもの」について展開される彼の認識は、蟹座の細やかな感受性があってこそと思う。この本によって私の感受性がひとつ完成されたと言える。世界中で読まれているのは、私がそうであったように、物語すべてに彼の哲学が詰まっており、大きな気づきを与えてくれるからだ。

稲垣足穂は山羊座。地の星座である。
彼は視力の悪さが理由で夢を諦めざるを得なかった。飛行機乗りの夢が絶たれた、それでも地上から星や月を追いかけ続けた。天体嗜好症と語っているように、天体に恋焦がれる。時々星と愉快な喧嘩する。月と追いかけっこをする。彼は生涯夜空に大きな夢を描き続けたのかもしれない。また彼は水瓶座や天王星がよく効いていたということにも言及しておきたい。海王星を「?」と例えるならば、天王星=「!」という感覚である。最先端で進歩的な発想、いきなり始まりいきなり終わる唐突さ。初めて読んだ時、全身が痺れたのをよくおぼえている。

サン=テグジュペリが蟹座でタルホは山羊座、ちょうど180度の星座である。
空を飛び続けた人。空を飛べずに空を眺めた人。

サン=テグジュペリはいつまでも空を飛んだ。そして読書を空へ誘うような心地にさせる。ドラマチックな彼の人生を時々辿ると、いつも胸が熱くなる。飛行機乗りである使命を背負いつつ飛び続けたのは、あてもない夢を探していたのだろうか。彼の作品にはそう思わせるものがある。しかし、現実をいえば夢が叶ったとしても飛び続けなければならない。戦争に加担したくはなかったとしても、飛行機に乗らなければならない。ふてくされそうな私は本のページをたぐる。そうしていると、彼はやさしく寄り添い語りかけてくれているかのようだった。彼は私が一生のうちで自由に飛び回ることができないであろう、大きな空の景色を鮮明に見せてくれた。

タルホは飛行機乗りに憧れながら、その夢は敗れた。飛行機についての著作が残されていることからわかるように、彼の失意、溶かすことのできないわだかまりが彼をアルコール漬けにさせたのかもしれない。彼の酩酊が作品を装飾したというのならなんと皮肉なことと思う。しかし、地上で星や月を眺めていたからこそ、彼の詩や散文は紡ぎ出されたのであろう。そして星や月を見上げる時、喜びで胸がいっぱいになる感覚。喜びを共有しながら、一緒に星を見上げているような気分にさせてくれる。星を追いかけたり、月が落ちてきた時の衝撃。見えないものと戯れる童心と愉快な気持ちをいつも本の中で教えてくれるのだ。


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