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理不尽に慣れすぎて謎の戦闘力を手に入れた


私は派遣社員で
基本的には社員さんから言われたことをこなせばいいお気楽な仕事をしているが
月末月初はそれなりに忙しいし、この日は社内システムの変更なんかもあってちょっとバタバタしていた


私に仕事を振ってくださるバディの社員さん(通称:妖精のおじさん)は他にも仕事を山ほど抱えていて、正直よくわかっていない私から見ても明らかにキャパオーバーである

今まではどんな仕事も妖精のおじさんのフィルター通過後に依頼を受けて動いていたのだが、仕事の流れが土石流レベルということに気がついてしまい
さすがになんでもかんでも濾過後の聖水だけを飲んでいられる状況ではなくなった

ということでここ数日は最前線で攻撃を受け止めていてくれたバディを頼らず、自分で対峙できることは自分で立ち向かっていた私なのだが
何人かの敵の中に、激しく厄介な奴がいた

賢い人間にありがちなアドリブの効かない
古のゲームのようにまっすぐ一方向にしか進めないタイプの人間である

「こんな感じで」「ざっくりこれで」みたいなニュアンスが全く通じない
的確な座標を示さなければ同じ渋谷ハチ公前にいるはずなのに絶対に出会えないような、そんなタイプの人間とのエンカウントである

全ての指示・依頼に対し、彼の納得のいく根拠を示さないと
途端に指摘と疑問が飛んでくる

こちらもある程度は覚悟しているとはいえ
想像の遥か上の要求を投げ返してくるので
バディのおじさんは早々に諦め、最低限の対応しかしなくなった

仕方がない。
妖精のおじさんはそれ以外にもとんでもない量の別の仕事を抱えていて
気難しいリケダンの「納得」を得るためだけの説明をしている時間などないのだ。

本当なら派遣社員の私が、バディの指示を仰がずに行動することはよろしくないことだろうが、月締めの期限がせまる中
そんなことも言っていられない


うまいこと私がバカのふりをして
能無しの派遣社員のせいで生じた混乱、とでも思ってもらうための言い回しを考え、上司の承諾を得ずにメールを返信した

その後も私の回答に対し重箱の隅を突くような問い合わせが続いたが
あくまで「バカな派遣社員」という立場を利用しつつ
わかることははっきり回答、曖昧なことは本部に確認して欲しいという態度を貫き通した

途中あまりにも馬鹿すぎて業を煮やし、メールに私の部署のリーダーをCCを入れ始めたのでちょっとやりすぎたと感じたが
その上司より大丈夫か、と逆に気遣いされ
申し訳ない気持ちになった


私は過去
絶対に正解がわからない、答えのない理不尽な問答について
8時間くら詰められるという
どう考えても正気の沙汰ではない拷問に耐えていた

しかもその相手の欲しかった結果は
「正しい答え」ではなく
「私を言い負かすこと」だったので
そこに正解などなく、何を答えようと、なんなら何も答えなかろうと
相手の気が済むまで責められ続けた

でも、今私が求められていることは
一見細かくて理不尽にも思える指摘ではあるが
確実に答えがあるし
何より、その指摘の根本は
「私を言い負かしてやろう」という意味不明のマウントではなく おそらくは
「何もわからないから不安なんだ。どうか僕を納得させてくれ」という純粋な欲求だ
だからこそ私はできる限り応えたいと思うし
わからなければ素直にわからないと伝え
質問を適切な部署にエスカレーションすることができる案件なのである

正直このやり取りのメールをCCで傍観していた人からしたら
なかなかにハラハラする内容だったのではないかと思うので
それは本当に申し訳ない
私の説明や見解が未熟だったばかりに各所に迷惑をかけたり
不安をばら撒いたようにも思う

でも私としては
当事者の不安をなるべく無くしたい、と
バディのおじさんの負担をなるべく無くしたいという
その2つの目的のためだけに行動した1日だった

健全な家庭で健やかに成長し「普通」の人生を過ごしてきた人からしたら
今日までの一連の流れは耐え難い事件だったかもしれない
(実際妖精のおじさんは今日のようなことがあるたび「胸が痛む」とか
「あんなこと言うのは異常人格者じゃないか」などとかなりのストレスを感じて
ほんとうに胸を抑えながら控えめな溜め息を漏らすのだ。やめろ、いちいちキュンとさせてくれるな。)

が、私は毒親母とモラハラ夫と合計30年以上生きてきた人間である

彼らの特徴は「解のない問答を突きつけ答えられないことを責める」が常套手段なので
今回のような、どこかに必ず正解があり、なおかつ
発言の根本が「言い負かしてやろう」ではなく
「自分が納得したい」と言う気持ちからなのが分かっている問答なら
たとえそれが8時間続こうが私は一向にかまわないのである


こんなたくましさは本当はほしくなかった 

普通に生きて、ちょっと強めに言ってくる人がいたら
トイレに駆け込んでベソかきながら友達や彼氏にLINEで愚痴って
休みの日には「ふざけんなー!」とかいいながらカラオケに行ってみたり

そんな人間でいたかったな

自分がつらければつらいほど
無意識に我慢して
しばらくすると身体や心のどこかが壊れて悲鳴を上げ始める

体育館で立ったままの全校集会で
貧血やらで倒れる子がほんとうに羨ましかった

どんなに頭痛がつらくても、腰が痛くて立っていられないような気がしても
それでも人に迷惑をかけると母に怒られるかもしれないからといつも通り、我慢して
もちろん家ではそんなことがあったなどと話さない

両親が共働きだから、体調不良で保健室に行ったらきっと迎えの連絡を入れられ
愛想よく迎えにきた外面よし子の母に家に帰ってからどんな言葉で詰られるかなど
小学生の時にはもうちゃんと理解していた

そんなこんなで私は悲しいほどに逞しい
理不尽に対する戦闘力がベジータより高い

こんな能力欲しくなかったよ
こんなんじゃ魔人ブウは倒せぬ

どうか私の大切な人たちは悲しい思いをしませんよう



我慢ばかりの子供達をちゃんとした「旅行」に連れて行ってあげたい。 映画や観劇、体験型レジャーなんかもしてみたい。 養育費と慰謝料がないので面白かったらチップをお願いします。