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このキスに意味はないからな // 第二話【漫画原作部門応募作】

このキスに意味はないからな / 第二話


「現場100回っ!」

 遺体発見現場が近づくにつれ、何故だか加護のテンションがあがる。

「はぁ。この場所、できたらあんまり近寄りたくないのに……それに何より、こいつがうぜぇ」

 そんな加護と事件現場に来ることになってしまった須藤は、止まることのない溜息を吐き続けている。

「いいかい?キミ、事件とはね、現場に始まり現場に終わるんだよ」
「いちいちうるせーな。さっきまでコソコソしてたのに、誰も居ないってわかった途端にデカイ声だしやがって……って、あれ?おめえ、もしかして……捜査に参加してないの?」
「ち、ちがっ、俺はぁ、お前のぉ、お守りをぉ、任されてぇ……」
「そうかそうか。警察にもバカを見抜く奴が居るようで安心したよ。そういえば所属もおかしかったもんな。案内係、だっけ?ってかそれならさ、もう大人しく帰ろうぜ?」
「っく……そうだ!捜査に参加してない俺とお前で事件を解決するのが醍醐味なんだよ!!」
「ああっ!こいつ開き直りやがった。つーか警察ならさ、犯人の目星なんてもうとっくについてんじゃねーの?日本の警察ってそうゆうとこ優秀って聞くじゃん?」
「それがこの事件……目撃情報がほとんど無いんだ。あとな、事件が事件だし……報道規制もかかってる。それよりなによりも、彼女の親御さんが大掛かりな捜査を望んで無いらしい。まあ、その気持ちはわからんでもないが……」
「そう……だよな。それまで夢も希望も数えきれないくらいあっただろうに。あの子の精一杯の最期の願いが……服を着せて欲しいだなんて。くそっ、俺がもっと早く駆けつけてたら……」
「お前……口は悪いが、人並みには優しいんだな。あんまり気に病むなよ?どっちみち、助けるのは無理だったんだから」
「何でだよ?」
「死亡推定時刻とお前から聞いた話を照らし合わせると、お前が発見する二時間位前に彼女はもう……」
「そっか。俺はてっきり、彼女がその……襲われてる時に呼ばれたんだと思い込んでたけど……じゃあ、ホントにたまたま繋がった?だけなのか……?」

 遺体発見現場となった場所まで来ると、二人はしゃがみ込んで手を合わせた。
 須藤はあの時頭の中で聴こえた声を思い出し、「なんか、ごめんな」と呟くと、まだしっかりと目を瞑ったままの加護よりも先に立ち上がろうとする。

「うわっ……!!」

 その時、急に立ち上がった加護のせいで須藤はバランスを崩し、二人の身体はその場所で折り重なるように倒れ……運悪く、その唇がしっかりと重なった。

「っ!テメーっ!」

 即座に状況を把握した須藤は跳ね起きた。でも、次の瞬間、須藤は急に頭を押さえて苦しみだすと、まだ放心状態で倒れていた加護の上に、再び意識を失って倒れてしまった。
 
…………
……
 
「っおい、大丈夫か?」

 加護にペチペチと頬を叩かれていた須藤の意識が戻ってくる。

「痛え……」

 須藤はまだズキズキと痛む頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。

「頭を打ったのか?どうした、黙ったままで……はっ!あ、あれは、事故だろ?あれはキ…ス…ではないから安心しろって!」
「はっ?ちげーよっ!今はそんなこと言ってる場合じゃねえって。俺、ちょっとだけ……見えちゃったっぽい」
「はあ?何がだよ?」
「いちいち耳元でうっせーな。頭痛ぇんだから静かにしろよ!ってかあれは、犯人……?たぶん、うん。状況的にあれが犯人……だと思う」
「えっ?」

…………
……

 二人は側にあったベンチに座ると、加護の持っているタブレットを一緒に覗き込んだ。

「どうだ?この中にいるか?」
「……いや、いない」
「そうか。この近くで職質した奴らのリストだったんだが。いくら顔がわかったからって、この中にいないとなると手掛かりがないな。さて、どうしたもんか……」
「ねえ、それ俺に見せていいやつ?ああでも、その写真とかと比べると……たぶんもっと若いよ、犯人……むしろ、もっと子供……」
「え?犯人が……?」
「ああ、まじキモいな。下手したら高校……いや、中学生かも?」
「嘘だろ?」
「そんなに驚くことでもないんじゃないか?」
「それはそうなんだが……実はな、被害者の通っていた学校が中高一貫校なんだ。だからお前の見たっていう犯人が真犯人だったとしたら、これは行きずりの犯行じゃなくて、彼女自身を狙った犯行……となると、行ってみるしかないのか?はぁ、流石にそれは気が重いよな?」
「行くって?学校に?嫌だね。俺は行かねえよ。それに、俺が犯人に顔バレしてるかもって脅してきたのそっちだかんな!」
「薄情なヤツめ!ここまで来て悔しくないのかよ?」
「はあ?バカ。今は、悔しいとかそういう話をしてんじゃねーよ。それに、仮に犯人がその学校に居たとしても、どうやって証明するんだよ?証拠も何も見つけて無いのに、きっと犯人はこいつだと思います。とでも言うわけ?」
「それもそうだな……あっ!お前、もうちょっと犯人特定出来そうなやつ見れない?」
「マジいい加減にしろって!それができるならとっくにやってるわ……」

 そう言った須藤は、唇を押さえたままで考え込んでしまった。
 

 
 白衣を着た須藤と彼女の皆月 愛みなつき あいは、大学構内の学食で向かい合わせに座っていた。

「それしても、災難だったねえ。可哀相なリト。死体を発見しちゃった上に、犯人扱いされちゃうなんてっ」
「ホント……まじ……それなの。愛ちゃん慰めて?しかも変な“ケージ”に付きまとわれるし、最悪だよ」
「ふふっ。でも、事件を解決しようだなんて面白そうじゃない?私、コナン君とか好きよ?」
「もう、愛ちゃん俺のこと揶揄ってるでしょ?あのさあ、あんなバカな刑事と組む馬鹿いないって位の馬鹿なんだからね?」
「うふふ。そういえば、その刑事さんともう一緒に居なくても大丈夫なの?」
「さすがにもう一週間以上経ってるし、大丈夫。きっと犯人も俺のこと見てなかったんだよ。それに、もう警察だって流石に犯人の目星をつけてるでしょ」
「そうね。でも無茶はしないでよ?リト君可愛いんだから、心配……」
「愛ちゃん……そうだ、慰めついでに、今ここでチューしてくんない?」
「あら珍しい。私は全然大丈夫だけど、リト君はいつもそんなこと言わないのに?」
「いいから……」
「ふふふっ、じゃあ遠慮なく……」

 愛は妖艶な手つきで、自分の長い髪の毛を耳にかけた。そしてリトの顎を少しクイっと上げ、その唇に自分の唇をあてがう。その舌が須藤の唇を割開き、須藤もそれを受け入れて舌を絡ませる。しばらくお互いの体温を交換し合った二人の唇が名残惜しそうに離れると、須藤はすこし浮かない顔をしていた。

「……やっぱ、ダメなのか?」
「ん?」
「いや、なんでもない。愛ちゃん……もう一回……」

 そう言った須藤は、もう一度愛の唇を求めようとしたのだったが……

「あーっ、もう。最悪」
「どうしたの?」
「これだよ……例の」

 須藤が指差した先には、学食の窓に張り付く加護の姿があった。
 加護は窓の外で何かをしきりに叫んでいたが、その叫びは学食の窓に阻まれ、何を言っているのかはわからなかった。

「本当に、面白そうな人ね?」
「うざいだろ?」
「うふふ。ほら、何か言ってるわよ。行ってあげたら?」
「愛ちゃん……」
 
…………
……
 
 愛に促された須藤の姿を見つけた途端、ひどく興奮した様子の加護が駆け寄ってきた。

「お前っ!あんなっ!美人とちゅ、ちゅうして……?というかお前が薬学部だなんて、頭良いんだな!それになんだ?今どきの大学にはあんな美女が……たくさん……」
「相変わらずうるせーバカだな。美女ってなんだよ、美女って……つうか、今どきのリケジョは基本美人ばっかだぞ?」
「……まじか。白衣……美女……リケジョ……」

 行き交う白衣姿の女子を羨ましそうに眺めながら、加護はブツブツとそんなことを呟いていた。

「ってかおめえ、大学まで来やがって、何の用だよ?」
「おっとそうだった……あのな、お前の言った通りかもしれないんだ。昨日被害者の学校に重要参考人が……それで、それが中学生なんだよ。だから上も慎重に捜査を進めてく方針らしく、なかなか捜査も進まず……」

 加護はそのあとの言葉を言い淀む。須藤はそんな加護の様子をみながら、彼女の死体を発見した時のことを思い出していた。

「なあ……もし確実に犯人がわかれば、犯人捕まえられんのかよ?」
「ん?まあ、そうだが」
「くっそ。なんで俺が……でも、一か八か……おいっ!」

 何かを思いついたような須藤は、加護のネクタイを掴んで自分の方へと引き寄せる。

「……っく。しょうがねえ。お前もちょっとのあいだ我慢しろよ?」

 そう言った須藤は、キョトンとしている加護の頭を支え、その唇に喰らいつく様なキスをした。深くなっていくそのキスに、加護はまんざらでもない表情で身を委ねている。
(キモい……なんて顔してんだよ)
 須藤がそう思っていた矢先、またあの時みたいな頭痛が襲ってきた。
(……っつ。これはイケたかも?)
 苦しみ始めた須藤の唇が加護から離れると、その腕の中で須藤は意識を失ってしまったのだった。

「お前っ!急に何だよ?って……そんなに、良かったのか?俺とのキ…ス……あれ?っておいっ!須藤……おいっ!」


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