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ふたつのケーキを半分こしてたべる

2020年4月、これまで実家ぐらしだった彼氏が山一つ越えた町で一人暮らしを始めた。
彼が家を出るまでデートの場所といえば私の実家だったのが、引っ越しを機に私が彼の家に通うようになった。

引っ越した当初は私も浮足立っていて、一生懸命彼の家の家事を頑張ったり、夕食を作ってみたり、旬の食材にこだわってみたり、とにかく素敵な暮らしをしたいと思っていろいろやってみた。

これまで家事といえば、大学時代に食事付きの下宿にお世話になっていたので、洗濯や掃除くらいしかしたことがなかったが、やればどうにかできることを知った。

食材には旬があり、旬の食材は栄養が豊富で美味しくて安いことをネットで調べて知った。
春には菜の花をからしで和えて副菜にしたり、夏にはナス、かぼちゃ、トマトなどを使って夏野菜カレーを作ったり、秋になるとじゃがいもの代わりにサツマイモを使ったカレーを作ったり。冬は白菜と豚コマでミルフィーユ鍋を作った。
私は果物が好きなので、大粒のいちごを独り占めしたり、ももを独り占めしたり、りんごを独り占めしたり。
食を通して季節の移り変わりを感じるようになった。


彼の家に通い始めて1年がすぎる頃には私のやる気も下火になっていた。
彼もだいぶ一人暮らしに慣れてきたようで、だんだんと適当さが目立つようになった。

いつの間にか、夕食は手際の良い彼が準備するようになったし、洗濯もお風呂の準備も掃除も、当たり前といえば当たり前だがほとんど彼がするようになった。
できる限りのことは私も彼の一人暮らしをサポートしていたつもりだが、2021年は私の体調が長らく低空飛行を続けているので、私の無理にならないように考えてくれているらしかった。

彼のために一生懸命頑張ってきた2020年、とても充実していて幸せだったが、これはこれで彼の愛を感じて嬉しいものである。

しかし、彼もいつも余裕があるわけではない。
最近は出張も続いているし、ダイエットのためにジムにも通い始めた。
疲れた顔をしている日が以前より増えた。
それでも「君はゆっくりしてて」と言ってくれる彼に胸が少し痛んだ。


私はあまり物欲がない。
好きなものといえば靴くらいだし、それも高いものより安くてかわいいものを探すのが好きだ。
食にもそんなに興味がない。
高級フレンチよりマックのポテトが食べたい。
バリバリ働こうという気もない。
なんなら就労したくない。
お金持ちになりたい欲もない。
貧乏は嫌だけど、豪邸に住んで優雅な暮らしをしたいという気持ちもない。上手に節約しながらそれなりに暮らしていけたら良い。


今まで、私の幸せってなんだろう? と考えてもピンとくるものがなかった。
よく聞く「あなたを幸せにします」というセリフにもピンと来なかった。

一人暮らしを始めた彼とふたりで過ごしてみて、「支え合いの関係が私の幸せなのかもしれない」と気づいた。


彼の苦手なゴミの分別をしてあげたら、彼が生きていくのに少しラクになるかな?
食器がいつも流しに置きっぱなしだから洗うのが面倒なのかな? 洗ってあげたらやること一つ減るよね。
仕事が朝早いから洗濯物するの大変だよね。洗っててあげよう。
帰宅したらすぐお風呂に入れるようにしておこう。
お腹空かせて帰ってくるよね? すぐ夕飯食べられるように準備しておこう。
喜んでくれるかな? 笑ってくれるかな? 少しでも助けになるかな?

そんなふうに考えながら家事をするのは楽しいし、帰宅した彼が居心地良く疲れを癒せる空間を作れたら嬉しい。
私ができないこと、私が動けない日は彼がしてくれるととても嬉しい。


「この人を支えていきたい」と思えたこと、彼も私を支えてくれていること。お金をかけなくても幸せって手に入るんだ、と思った。

今年の11月で彼とは付き合い始めて10周年だが、喧嘩したり、いきおいで何度か別れたり、知り合いには口を揃えて「別れた方が良い」「もっと優しい人がいる」なんていわれたりしたが、お互い諦めずに気持ちをすり合わせながら10年一緒に走り抜けてきてよかったと思う。

彼氏をめいっぱい幸せにしてあげられる自信はないけど、ふたりでなら今後の人生もなんとか乗り越えていけるのではないだろうか。

彼とは旅行にすら行ったことがないが、少なくとも私は、今のままで十分幸せである。

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