砂糖を試したら減りました。 #ランダムおひねり

またか……と、俺は深い深いため息をついた。
「そんなところにあったって気づくよ、ほんとにもう」と、誰もいないのに口に出してしまった。一緒に住んでいた両親も兄弟ももうここにはいないので、帰宅したって一人なのだが、流石にこれには声がでた。

先月も、半年前も、去年も、一昨年も……その前は2年くらいは開いていたような気がするんだが。だんだん間隔が短くなってきている。どうにかならんもんか……。あの神社のじいちゃんに話ができれば早かったんだけど、5年前に死んじまったからなぁ。


玄関にひっそりと身を隠すように佇んでいるソレを掴み上げて、中身を確認する。


すらり

正しい扱い方なんて、俺はひとつも知らないのだけれど、だから、何もしていないのだけれど、こいつはいつ見ても鳥肌が立つほど、美しかった。刃紋、とかいうんだっけ。日本刀独特の波打つような刀身の色のゆらめきに一瞬見惚れてしまったが、いかんいかんと気を取り直した。


何も傷とかついてなさそうでよかった。
また、ちゃんとしまっておかないと。


家のど真ん中の部屋に据えられている神棚にはこいつ専用の引き出しが作り付けられている。こいつは、もう何十年も、ここでおとなしくしていたはずなのだ。何年かに一度抜け出してはいつの間にか帰ってくるのだ、とは聞いていた。なのに、今何でこんなに多くなっているんだ? 『自然現象みたいなもんだから、ほっといたら何とかなるからのぅ」なんて曖昧な事しか教わってないんだけど、どういう事だろうか……

引き出しを開けて、刀をしまう。
しまったら、鈴を鳴らしてきちんと祝詞を唱える。
手順はきっちり覚えている。
毎日ちゃんとご挨拶だってしている。

なのに、なんでこいつは抜け出すんだろう……くそう。
お供えにいつもの煎餅を置く。

さて、とりあえずよくわからんから知らん。茶でも飲むかとキッチンに向かい、茶菓子にと珍しくいただいた月餅を取り出した。

ゴトン。
大きな音がした。

なにごとか!? と、音がした方に向かうと
刀が、床に落ちていた。
ちょっと待てよ。さっきの今でまた脱走かよ。
こりゃ「封印」とかいうやつをしなきゃなのか?と、つかみ上げようとしたところ、何かがヒュッと、俺の体を通して抜けていったような感覚があった。

???
左手から、刀に触れた右手へと何かが通り過ぎた、感覚。
……左手。
慌てた俺の左手には、さっき食べようとした月餅が握られたままだった。

なんだか、嫌な予感がした。
急いでビニールを剥いて食べてみたら
月餅から、甘みが完全に抜けていた……
まじかよ。これ何回か食べたことあるけどこんな味じゃなかったぞ。賞味期限が切れてるわけでもないし……

それから俺は家にある限りの甘いものやしょっぱいものを、握ってみた。刀を右手、食べ物は左手、である。

結論として。
それをやるとビフォーアフターで明らかに味がうすくなるものとかわらないものが、でた。


なんだよ、お前甘党かつジャンク好きなのか。
俺甘いものくわねぇからな……悪いことしてたなぁ。塩っぱいものとか酒のつまみくらいしかお供えしてなかったもんな。

次からは、甘いものをなるべく供えるようにした。
お供えしておくと、甘みが薄くなるので俺も食べやすくなって一石二鳥だ。刀の家出も無くなったし、いいことをしたなぁとほくほくしていたらある日神棚に見慣れないお守りと飴玉が置いてあった。

お守りには「学問成就」
ああ、明日の資格試験か。律儀だな刀よ。
と、うるうるするくらい感動したのに
横に置いてあった飴は見事に「済」だった
なんの味もしない。

……ご利益ありそうだからいいけどさ。


#ランダムおひねり


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