「年よりは犬と地球を回る」

「年よりは犬と地球を回る」作 すがの公

<あらすじ>
次女のカナエはおばあちゃん・タマエが好きで、老人ホームによく遊びに行く。両親は共働きで姉はニート、よくある普通の家族だ。看護婦の桜井はタマちゃんと仲良しだが、痴呆の進む彼女がとうとう「見えない犬」と話をし出したことを心配している。心の中ではまだまだうら若き乙女だったばあちゃんは、カナエと企んでこっそり施設を抜け出す。

<登場人物>
ばば


長女・ミノリ
次女・カナエ
看護師

客入れ最後の曲『love me tender』Elvis presley上がり暗

■1場カナエの話。

録音によるカナエの声

『あたしの家族。3年2組水島カナエ。
うちの両親は共働きです。
お父さんは会社で事務員をしてます。去年やっと係長になりました。
でも係長がどのくらいえらいのかはわかりません。
お母さんはスナックで働いてます。お父さんはお店の常連だったそうです。
でもどうして二人がくっついたのか、謎です。
お父さんは私よりも早く家を出るし、
お母さんは私が学校に行く時には寝てるので、
あまり顔を見ません。
お姉ちゃんは経理の専門学校を出てから就職しましたが、
1ヵ月でやめて今はフリーターです。
家でテレビばっかり見ています。
去年まではおばあちゃんが家にいて、
ご飯を作ってくれたり家の事を色々してくれてましたが、
今は老人ホームにいます。
おばあちゃんは大きくて優しくてあったかくて大好きです。
なので私はたまにおばあちゃんに会いに行きます。
おばあちゃんは最近たまに私の事がわからなくなります。
いろんな事を忘れるのが悲しいと、おばあちゃんは言います。
おばあちゃんはいろんな話しをしてくれます。
私がすきなのはおじいちゃんの話しです。
おばあちゃんは照れ臭そうにおじいちゃんとの話しをしてくれます。
私は、おばあちゃんが忘れてもいいように
いろんな話しを覚えといてあげようと思います』

■2場カナエの家族

暗の中セリフ

父は?学校に来てない?カナエがですか?

舞台中央サスに父。会社員事務。
ワイシャツ、ネクタイ、スーツの下、胸にボールペン。

父:いや、朝は私の方が早いものですから、
学校に向かったかどうかはわかりかねますが。
ああ、はい。会ってないです今日は。ええ。

誰かに呼ばれる

父:あ、はい。すみません!そこ!置いといてください!
あとで、やっときます!あ、急ぎで!はい!
あ、もしもし。あのー自宅の方にもう一度かけていただいてもよろしいですか?
いるはずですから。ええ。うち共働きでして、家内が夜の仕事なもんですから。ええ。
寝てるんだと思うんですよ。はい。あと上にもう一人娘がおりましてですね。はい。
今自宅で家の手伝いしてるもんですから。はい。

また誰かに呼ばれる

父:あ、はい!すみません!今!やります!いや、ちょっと、今切ります!はい!
すみません。月始めでちょっとゴタゴタしてるもんですから。はい。
あの、携帯持ってると思うんで。私、そっちにかけてみます。
先生、自宅にもう一度いいですか?
すみません。はい。よろしくお願いします。失礼します。

電話切る。自分の携帯を出し、電話をかけようとする。
が、また呼ばれる。

父:はい?あ、すみません!ちょっとあの!緊急事態でして。ええ。
あの、ちょっと娘がですね!学校行ってないらしくて!
いや、はい。まず、その書類!はい、急ぎで!はい!いや!いんです!はい!
、、、、、はぁ、、(タメイキ)

携帯をポケットにしまい、サスを残したまま退場

自宅の電話の音。プルルルル、プルルルル、プルルルル

母:ミノリー。出てー。ミノリー

プルルルル、プルルルル、プルルルル

母:でんわー。あーもう。

母、パジャマ、髪止め、ひたいにアイマスク。
で登場、サスに入る。腹をかきながら。

母:いるんでしょーミノリー?
あと20分寝れたのに。

態度悪く電話に出る。

母:はい水島です。はい。
え?
あ、先生?

声色変わる。

母:あ、どーもっ!いつもカナエがお世話になってますー。
すみません。私よる帯の勤務なものですからー。
いーんですいーんです。
そろそろ支度しようかなぁと思ってたもんですから。
え?なんですか?え?カナエが?ええええ!?はい、はいっはいはい。

ミノリ(長女)登場、全明。
部屋着、家事手伝い、メガネ。

ミ:、、、。

しばらく母親の電話の様子を見てる。
リモコンで、テレビをつけ、ぼんやり見始める。
テレビの音。

ミ:、、、、。
母:ちょっとミノリ、テレビ、音ちいさくして。あ、もしもし?はい。ええ。
ミ:、、、、、。

テレビの音大きくする、ミノリ

母:ミノリ。あ、ちょっとすみません。ミノリ。
ミ:、、、
母:小さくしてって。電話聞こえないから。
ミ:、、
母:小さくしなさい!

リモコンを乱暴に置く。ミノリ、立ち上がる。

母:、、、。

ミノリ退場。

母:あ、すみません。いえ、なんでもないです。はい。
ちょっと上の姉が自宅療養中なもので。はい。
朝ですか?あたし夜中勤務で朝は誰とも顔を合わさないんです。
ええ、ですから、学校向かったかどうかまでは、、ちょっと。すみません。
あらもうこんな時間。
先生あたしこれからお仕事出なきゃいけないので、そろそろ。
大丈夫だと思います。携帯持ってますから。ええ。
心配ないと思います。はい。下の子はしっかりしてますから。
じゃ、失礼します。はーい。

電話を切る。

母:、、。

ミノリの退場した方に

母:ミノリー。ごめーん。大事な電話だったからー。
、、、。
ミノリー?カナエ今日学校行った?
、、、。
かーさんこれから店だからさ。携帯に電話してみてくんない?
学校行ってないみたいなのー。
つながったら店に電話かけさせて?いい?
、、、、、。
じゃ、かーさん用意して行くから。いい?よろしくね?
あ、そーだ今日おみやげ買ってくるからー。お寿司ー。

母退場。
誰もいなくなった舞台。
少ししてから、
ミノリ、携帯を持って登場。

ミ:あ、ひさしぶり?今日ヒマ?どっか行かないかなーと思って。
え?仕事決まったの?バイト?
なんだそっかー。いつから?先週?ふーん。
なんのバイト?あー力仕事か。いいなー男の人は。
あたしもそこ登録したけど、事務仕事ばっかでつまんないから。
専門学校自体選び間違ったんだわ。経理って。全然意味ないし。
今?なんもしてない。母親に言わせると自宅療養ちゅーだってよ。
違う違う。かっこつかないって話しじゃない?ただのプー。
実際家に居ると滅入るんだよねー。なんかウツになりそー。
親うるさいし。

袖から母の声

母:行ってきまーす!カナエに電話しといてねー!
ミ:わかったってっ
母:行ってきまーす!
ミ:、、なんか妹学校サボったらしく。え?中学生。
知らないよ。学校くらいサボるでしょ普通。誘拐?まさか。
あ、そっか。ごめんごめん、バイト。行ってらっしゃい。またねー。はーい。

電話を切る。
しばらく携帯をいじってる。

ミ:、、、たまには姉らしくしてやっか。

カナエに電話をかける。

ミ:、、、何してんだか。

携帯電話の音。4和音程度の着メロ。

ミ:?

ミノリ電話をしながら登場。
音が鳴ってる方へ行く。
上手袖に退場。
カナエの携帯電話を持って登場。

ミ:、、、、、

舞台奥で携帯を二つ持って立ってるミノリ。

■3場夢

着メロの曲と本物の曲、クロスフェード
曲、上がる。『Jail House Rock』Bluse Brothers

ミノリ退場。

犬走ってくる。
ばば、追いかけてくる。
舞台上でぐるぐる追いかけ回す。
犬、ばばにフェイントして退場しかける。
看護師登場。犬の前に立ちはだかる。

カナエ登場。ベッドを押してくる。
手伝う3人。
3人に大きな紙を渡す。
『年寄りは犬と地球を回る』

曲下がり台詞

カ:年寄りは犬と地球を回る。
犬:年寄り?
カ:この人。
犬:あー、納得。
ば:あ?
犬:逃げろ。
看:ちょっと!
ば:犬畜生!

犬、逃げる。ばばあ追う。退場。
看護婦、カナエ残り。

看:タマちゃん!戻ってきて!タマちゃん!
カ:ケタケタケタ
看:ケタケタ笑ってる場合じゃないでしょ?
カ:桜さん?
看:うん。
カ:タマちゃんの友達。
看:え?
カ:タマちゃんが言ってた。
看:タマちゃんが?

カナエ、手を伸ばす。

看:?
カ:行こう
看:どこに行くの?
カ:犬助けに。
看:犬?
カ:犬。
看:どこに?
カ:宇宙。行こう。友達なんでしょ?
看:うん。あなたは?
カ:孫。
看:え?
カ:カナエ。
看:、、

看護師、カナエの手を取る。
そこに走りこむ父。

父:カナエ!
カ:とーさん。
父:どこに行くんだカナエ!
カ:、、。

母とミノリ。

母:カナエ!
カ:かーさん。
ミ:あんたどこ行く気?
カ:、、どこって。
母:心配かけて!
カ:うそつき。
父:嘘なんてついてない!
心配するに決まってるじゃないか!
親だぞ!
ミ:どーかな。
母:え?
ミ:それはどーかな。
母:何言ってんのミノリ。
父:とにかく、一緒に帰ろうカナエ。
ミ:カナエ。
カ:おねーちゃん。
ミ:行っといで。
カ:わかった。

カナエ、看護師をひっぱり走り出す、退場。

父母:カナエ!

曲上がり、暗

■4場駅。

曲下がり、SEとクロスフェード
駅のSE「4番乗り場からーうんたらかんたらー」
サスにばば、と犬。駅の待合室で寝てる。

ば:ゴッゴゴゴゴゴゴ
犬:おい。
ば:ゴゴゴ。エルヴィスプレスリーは生きてるよ。ゴゴゴ
犬:死んだって。
ば:小林旭も心の中で生きてるよ。
犬:小林旭はちゃんと生きてるよ。起きろってほら。
ば:ん?あ、寝てた?あ、よだれ。あ、水たまり。なんだこりゃ
犬:よだれの水たまりだ。脱水症状で死ぬかと思ったぞ。
ば:何言ってんの。犬みたいな格好して。
犬:好きでこんな格好してんじゃないよ。
親が見たら泣くと思うよ。
ば:あー、頭いたい。なんか変な夢みた。
犬:どんな?
ば:あたしがおばあさんになってて、
息子が嫁さんみっけて孫二人もいて、
そんで老人ホーム入れられて、
老人ホーム抜け出す夢。あー、頭いたい。
犬:そりゃ長い夢だな。
ば:最後はねー、家族が集まってきて
まるで演劇的に名前を叫ぶの。カナエエエ!
そして曲が上がるの。
犬:正夢だわ。
ば:わけわからない。あたし孫なんていないし。
犬:いないの。
ば:いるわけないでしょ。あたしまだ三十路だよ?
犬:そーかぁ。相当進んでんなこりゃ。
ば:なに?
犬:なんでもねーよ。
ば:ここどこだ?
犬:JR札幌駅。
ば:は?
犬:JR札幌駅。
ば:Jなに?
犬:JR。
ば:JR?何言ってんの?
犬:なんだ?JRもわからねーのか?大丈夫か?
ば:タバコある?
犬:聞けよ人の話し。
ば:犬でしょ?日本酒は?
犬:ない。
ば:しけてんな。JR。
犬:JRに何を求めてんだ。キヨスクで買って来い。
ば:あ、あれなんだ?ピカピカして。
犬:どれ?
ば:あの桃色の。
犬:桃色って。ミスドだよ。
ば:何言ってんの?
犬:聞いたから教えてんだろが。
ば:じゃ、あれは?
犬:パセオの入り口だ。
ば:あの緑の窓口は?
犬:みどりの窓口だよ。
ば:あ!喫煙軍団発見。すみませーん。タバコ一本めぐんでくださーい。

ばば、サスから抜ける。

犬:おい!フラフラすんな!忘れ物取り行ってくれてんだろ?
ば:だれ?
犬:孫!
ば:孫なんていねーし!わかばかエコーの人ー?
犬:いねぇよ!あ、ちょっと待て!

犬、ばば、退場。

■5場老人ホーム

曲消える。サス。

看:すみません。全然気付かなくてあたし。
タマちゃんの行きそうな所全部探したんですけど、施設内に見当たらなくて。
え?あ、すみません。水島さんです。水島タマエさん。はい。
売店にもいないし、裏の桜の木のとこにもいないし、
待合室にもいないし、庭のベンチにもいないし。
すみません。朝は一緒にいたんですけど。
昼すぎに他の利用者さんのお世話してるすきにいなくなっちゃって、、。
はい。確かに痴呆はかなり進んでいます。
でも、、、わかりました。、、もう少し探してみます。

全明。ばばあの部屋。ベッド。

看:、、、

あたりを探してみる。枕元に2、3冊の本。

看:「賢いお金の増やし方、ため方、使い方」
「うまい酒と肴」
「別冊宝島・宇宙論が楽しくなる本」
「人工衛星の歴史」
老人ホームでお年寄りが読む本じゃないな。
「死んでたまるか」
うーん。笑えない。ん?

枕の下から絵。

看:、、なんだろ、この絵。

子供がかいたような絵。
歩道橋の上に人間2人
満天の夜空。人工衛星に犬。
地球には3人の子供。
電柱に文字。

看:タマちゃん、、。

カナエ入ってくる。
荷物。リュックサック。杖。2本。

カ:あ。
看:?
カ:失礼しましたー。

退場しかける。

看:待って。
カ:、、、ちっ。
看:舌打ち?
カ:いえ。ちょっと舌の調子悪くて。ちっ。
看:タマちゃんの、お孫さん?
カ:え?
看:あ、水島さんのお孫さん?
カ:、、えと、、はい。
看:やっぱり!この前に来てたもんね?
カ:はい。それじゃ。
看:待って。何その格好。
カ:、、、、、。
看:リュックしょって。杖、2本も。
カ:、、、、登山です。
看:登山?
カ:これから登山に行ってきます
看:ほんと?
カ:はい。
看:今日学校は?
カ:休みです。
看:平日だよ?
カ:、、休みです。登山で。全校生徒で登山なので。一斉に上ります。山。
看:ふーん(信じてない)じゃ、なんでこんなとこ来たの?
カ:こんなとこって?
看:老人ホーム。
カ:間違いました。
看:どこと。
カ:、、山。
看:間違えないと思うんだけど。
カ:変ですね。
看:うん。
カ:あはははは
看:あはっははっはは
カ:それじゃ。
看:笑っても駄目!
カ:あ、ちょっとピッケル借りに来ようと思って。
看:ピッケル?登山で使うやつ?
カ:はい、あとアイゼン
看:アイゼン?
カ:登山で使うやつ、だったと思います。
看:おばあちゃんが持ってるの?
カ:はい。
看:あそーなんだーへー(信じてない)
カ:そうなんですよ。ははは。
看:じゃ探そう。
カ:え?
看:今いないのよ水島さん。なぜか。
カ:あ、へー。
看:だから探そう、ピッケルと、なんだっけ?
カ:えとアイゼン
看:どこかなー。アイゼン。あと、ピッケル。
老人ホームにピッケル。お年寄りのピッケル。
変だなーないなーピッケル。アイゼンってなんだろなー。

テキトーに探すふりをする看護婦。

カ:、、、あ。

ベッドの上の絵を見つける。

看:、、

その様子を見てる。
カナエ絵を盗む。

看:こらあ!
カ:わあ!
看:どしたのそれ
カ:えっと、アイゼン。
看:アイゼンってのは靴につける滑り止めの事ですけど。
スパイクみたいな奴ですけど。
カ:あ、なんだ。間違った。
看:間違わない。それは絵だもの。
子供がかいたようなへったくそな絵だもの。
カ:あ、ほんとだー。
看:あなた、タマちゃんどこにいるか知ってるでしょ?
カ:、、、実は。
看:うん。
カ:その絵。
看:うん。
カ:あたしがかいた。
看:ごめん!
カ:えーんえーんえーん(嘘泣き)
看:わ、泣いちゃった!えっと、とてもユニーク!
カ:ほんと?
看:ジミーちゃんの絵みたい!
カ:えーんえーん!
看:小さいのにこれだけ描けたら天才って意味!いくつ?小学何年生?
カ:来年高校。
看:しまった。
カ:ええええーーん!
看:ごめん!
カ:そーだたーないよーぉおぉー。
看:今はそうは思えないかもだけど、若く見られるってものすげー得なの!
カ:うええええん。
看:あ!あたしなんかほら!この前近所の子供に40って言われたの!
カ:いくつ?
看:25!どのへんが40って聞いたら「目のあたり」って言われたの!
カ:目のあたり?
看:生まれて初めて殺意がよぎったの!えーんえーんえーーーん!
カ:あ、泣いた。
看:えぐ、えぐ、おで(ね)ーさんね、2週間ばえでぃ(2週間前に)ね、ひっく
この仕事始めたばかでぃ(り)でね、ひっく、そんでね。ひっく。
タば(マ)ちゃんがね、ひっく、
タば(マ)ちゃんってのはおばあちゃんの事だけどね、ひくっひっく
タば(マ)ちゃんがね、ひっく、突然ね、ひくひくひっく、
いだくだっじゃっでぼーどーじよーおおおおお
カ:最後なんていったの?
看:タば(マ)ちゃんどっかで死んでたらどーしよおお。
クビーになるううう。あだしぼのたれじぬーううう。
カ:あ、大丈夫大丈夫!(焦り)
看:お。(ひっかかった)
カ:おばあちゃんなら心配ないから!
看:どこにいるの?
カ:今、駅で待ってる。
看:どこの?
カ:JR札幌駅
看:ふっふっふっふ。
カ:え
看:どうやらお姉さんの方がウワ手だったよーね。
カ:しまった!
看:あんたもおいで。
カ:待って!
看:待てない。今おばあちゃん一人?
カ:うん、一人。
看:なおさら待てない。
カ:今日だけだから!
看:駄目。
カ:今日しかないんだって。
看:え?
カ:時間。
看:なんの?
カ:ライカとの。
看:ライカ?
カ:犬。
看:犬って?
カ:宇宙に飛ばされて殺された、犬。
看:、、?
カ:ロシアのロケットに乗せられて。
みんな死ぬってわかってたのに。飛ばされた犬。
看:、、、。
カ:今日しかないんだって。
看:タマちゃんがそう言ってんの?
カ:、、。
看:聞いて。
カ:、、
看:、、さみしい事だけど。
、、、中学生ならわかるでしょ?
おばあちゃん、
ほとんど夢の世界にいるんだよ?
カ:、、
看:夢と現実の区別が、ついてないの。
カ:、、知ってるけど。
看:ちょっとそこで待ってて。
お家の人も心配してるでしょ。
カ:してないよ。
看:?
カ:心配なんてしてないよ。
看:、、、、どして?
カ:みんな忙しいから。
看:、、そんな事、無いと思うけどな。
カ:ある。
看:、、、とにかく、ちょっと待ってて。

内線電話をかける看護師

看:あ、もしもし。
桜井です。水島さんとりあえず無事みたいです。
ええ。札幌駅にいるらしいんです。JRの。
たぶん、お孫さんに連れられて行ったんだと思うんですけど。
ええ、今から迎えに行きます。
あ。もうご家族の方にも連絡しちゃいました?
え?あ、連絡つかない、、、。そうですか。

カナエ、絵を看護師からひったくり、退場。

看:あ!ちょっと!
あの、詳しい話しは後で。それじゃ。

看護師、カナエを追おうとして、
ベッドの本を思い出す。

看:、、、宇宙に行った犬、、ロケット。

人工衛星の歴史。

看:人口衛星の歴史。、、あ。しおり。

本にしおりを見つける。

看:、、ライカ、、、
『ライカは、スプートニク2号に乗せられて地球の軌道を回った最初の生物となった犬の名前』

■6場出発。

ばばあと犬。

犬:じゃーさ。これ知ってる?****(最近のゴシップ)****なんだって。
ば:知らない
犬:知らないの。
ば:知らない。
犬:じゃーさ。これは?****(最近のゴシップ)****って話。
ば:知らない。
犬:知らないの?!
ば:全然知らない。
犬:大丈夫かおい。時代の波についてけてんのか?
乗り遅れるぞ?このIT社会の荒波を乗り越えるためには
これくらいのゴシップを身につける努力しないといかんだろ?
ば:あ、すいません。
犬:聞けよ話!
ば:あのー、ここってどこですか?
犬:やめろやめろ頭おかしいと思われるぞ?
ば:え?北海道?!
犬:あたりまえだろ
ば:北海道って、北海道?!
犬:そーだよ。
ば:うわ、なんでこんなとこにいるんだあたし。
すみません、神奈川までいくらですか?
スーパー北斗12号?なんですかソレ?じゃあそれで。
えええ?!13390円?!
ば:いや、結構です。結構。どうも。
犬:なにしてんのさっきから。
ば:帰りたいんだけど。
犬:どこに。
ば:神奈川。
犬:へ?
ば:やっぱ態度悪い。国鉄。
犬:JRですけど。
ば:J?なに?
犬:JR。
ば:なに言ってんの?犬のくせに。
犬:とっくに民営化されましたけど。
ば:うわ!あたし犬としゃべってら!
犬:おそいなー。おそい。気付くの。
ば:しゃべれんの?!北海道の犬は!
犬:いやー、そんな事ないと思うんだけどな。
ば:ま、いーや。
犬:いいんだ。
ば:なんか頭いたくなってきた。
わけわからん。帰って夕飯作らないと。
あのすいません。神奈川まで。
犬:ちょっと。
ば:カシオペア?!16080円?!高くなってるし!
犬:さっきやったよそれ。
ば:あれーなんだっけ?えーとー。
小さい女の子は?
すんごい小さい女の子。
犬:絵取りに行ったじゃん。
ば:絵?なんの?
犬:描いて貰った絵。
ば:だれが?
犬:君が。
ば:なんで?
犬:忘れたの?
ば:忘れた。
うわ。犬としゃべってるあたし。
犬:大丈夫?
ば:犬としゃべってる事って、はたから見てどう?
大丈夫?あたし。
犬:結構しゃべってる人いるよ。平気で。
ば:あー。(いるなー)

カナエ

カ:ごめん!待った?
ば:うわ。すっげぇちいせえ女の子。
どしたの?ガールスカウトかい?
カ:はい。
ば:なに?
カ:絵
ば:へったくそな絵だなぁ。
犬:やめなさいって。
カ:これでも一生懸命描いたんだからね。
ば:あそっか。描いて貰ったんだっけか。
カ:そー。はい杖。
ば:え?
カ:杖。そのへんにあるのテキトーに取ってきちゃった。
ば:人のもの取ったらいかんよ!
犬:お。
ば:ろくたら人間にならんよ!?
あれ?なんでこんなに怒ってんだろあたし。
犬:知らんよ。
カ:ごめんなさい。
ば:お。素直だ。
カ:後で返すから。
ば:なら良し。
カ:はい。
ば:はいどーも。どっこいしょ。(ばばぁの形)
あれ?
カ:なに?
ば:なんでこんな格好してんの?
あたしまだ30なり立てなんですけど。
犬:しらねーよ。
ば:なんで?
カ:あ、あのー、わかんない。
切符買ってくる。
ば:お金は?
カ:あるよ。
ば:スーパー北斗14380円。
カ:大丈夫、予約してあるから。
ば:あ、日本酒も。

カ、退場。

ば:最近のすごく小さい女の子はお金持ってんだねぇ。
犬:ねー。
ば:なんで良くしてくれるんだろう。あの子
犬:全然覚えてねーの?
ば:うーん。知り合いである気はする。
犬:あらー。そーとー来てんな。おまえ。
ば:おまえだと?
看:居た!
ば:?

看護師

看:タマちゃん、勝手に出てったら駄目。
ば:だれ?
看:桜井ですよ。
ば:さくら。聞いた事ある?
犬:ある。
ば:ある気もするなぁ。
看:誰としゃべってんの?タマちゃん。
ば:あたし?犬。
看:犬?
ば:犬以外の何にみえんのさ。
看:え?
犬:見えてない見えてない。
ば:なんで?
犬:それ以前にそんなに犬っぽくもない。俺。
ば:目悪い?
看:2.0、2.0
ば:勉強した?
看:どういう意味ですか

一升瓶持って出てくるカナエ

カ:はい。あ。
看:つかまえた!
カ:チッ
看:舌の調子悪そうね。
カ:いや。あの。
看:よし。じゃ、帰ろう。
なに一升瓶持ち歩いてんの。中学生が、
ば:あーさんきゅさんきゅ。おや、安酒かい。まーいいわ。

キャップを歯で抜く。ぺっ。

看:こらあ!
ば:後で拾うよ。
看:そういう意味じゃなくて。何飲んでるの?!
ば:えーと***銘柄***。
犬:そういう意味でもないぞ。
ば:え?なに?
看:いくつだと思ってんですか!
ば:もう未成年じゃないよ?
看:知ってます!
ば:え?
看:タマちゃんもうすぐ
カ:とお!

カナエ、看護師をキック。

看:いた!
カ:行こう!
ば:ん?
犬:行くぞほら!
ば:なんで蹴った?
犬:いいからほら!

カナエ、ばば、犬、退場。

看:ガキんちょ!

追う看護師

■7場犬ばば孫、スーパー北斗に乗る

曲『Tutti Frutti』Elvis Presley

曲の中、犬とばばあと孫VS看護婦の戦い。
孫がつかまったらばばが助けて、
ばばがつかまったら孫が助けて、
犬はただ口を出してるの図。
結局、3人はカシオペアに乗り込み、置いていかれる看護婦。

■8場携帯

携帯かけてる音。
プルルルル、プルルルル、プルルルル

下サスに父。

父:結局こんな時間か、、、。

プルルルル、プルルルル。

父:あ。もしもし?!カナエか?

上サスにミノリ。

ミ:違うよ。
父:え?
ミ:ミノリ。
父:あ、ミノリか?え?カナエと一緒か?
ミ:んーん。あたし一人
ミ:携帯家に忘れてるよ。あの子。
父:どうして?
ミ:知らないよ。じゃね。
父:ちょと待て、今どこだ?
ミ:え?外。
父:外ってどこだ?
ミ:いいじゃん別に。じゃね。
父:あのな。実はな。カナエがな、
ミ:知ってるよ。学校サボったんでしょ?
父:あ、ああ、知ってたか。
それでな。今日どうにか早引けして帰ろうと思ってるんだけど
どうにも仕事で抜けられなくてな。
ミ:そんなに騒がなくてもいいんじゃない?
父:え?
ミ:来年高校なんだから。あいつも。
父:いや、だからこそだな。
ミ:大丈夫大丈夫。
父:いや、でもな。
ミ:とにかく、カナエの電話あたし持ってっからかけても無駄。じゃねー。
父:いや、ミノリ、妹が、、

プツ、ツーーツーーツーーツーー。

父:妹が、行方不明だってのに、、。

父のサス消える。

■第9場ミノリ

雑踏の音。街の中。
ミノリ、カナエの携帯をしまい、
自分の携帯のメールをチェック。

ミ:、、、、、、。

誰かを待ってる様子。

ミ:、、、、、。

雑踏の音。街の中。

ミ:、、、、、あ。

誰か発見。再びメールのチェック。

ミ:紺のスーツ。眼鏡。
水色のネクタイ。うわ。あいつだ。
モコミチ?キムタク?どこがだよ。キモ!
うわー。写メしとこ。
その顔でほんとに来るなよ。
いるんだなー。出会い系。
(写真とる)
うわ、こっち見た。
やべ。

ミノリ退場。雑踏の音上がる。暗。

全明。

ミ:そんでさぁ、キモいから逃げてきたの。
そんなん最初から会う気ないし。
まさか。
すっげーキモいから。
キムタクだかモコミチだかに似てるって言われた事ありますとかいって。
全然うそだから。
あ、あとでそいつの写真送るね。
え?
なんで?
しないよそんなん!だって別に金困ってないし。
、、、、、いや。
そりゃーね。ちょっとは危ないとは思うけど。
こっちは女子高生ですとか嘘ついてるし。
気付かれない気付かれない。
ただの暇つぶし暇つぶし。
、、わかってるけど。うん。、、あ。今度、、なんでもない。
うん。、、はい、、。
妹?、、まだ。、、、うん。

電話切る。

ミ:、、どーせ暇ですよ。
どーせほとんど引きこもりですよ。
どーせほとんどニートですよ。
、、、だって、したい事ねーんだもん。
いいじゃんちょっとした刺激なんだから。
あーあ。
でもつまらん。

カナエの携帯。

ミ:、、、カナエ。
あの子学校サボったりする子じゃないんだけどな。
、、ほんとに誘拐されてたりして、、。まさかね。
出会い系とかで。、、、まさかね。
でも最近中学生も、、、いや、カナエに限って。
でも、、まさかそんな事しないような子がっ、、
いやいやいやいや。
ありえん。うちこづかいだけは充実してるし。
刺激を求めて、、とか。JC売春。
いやいやいやいや。

カナエの着信音。

ミ:うわああ!!

携帯投げる。

ミ:ああ!投げちゃった!

おそるおそる拾う。

ミ:、、未登録。、、、。
あ、カナエかも!
友達の電話からかけたのかも!

ピッ

ミ:もしもし?

再び上サス。

ミ:え、、
看:はぁー、はぁー、はぁー、はぁー
ミ:、、あの
看:はぁ、はぁーはぁー。もしもし。
ミ:うわああ!

プツ、ツーーツーーツーーツーー。

ミ:すっげぇ心配になってきた、、

上サス消え

■10場南千歳から乗った。

下サスに看護師、乱れ髪。

看:はぁーはぁー。あれ?、、はぁ、、はぁ、、切れた。
水島さんの緊急連絡先(メモ)、、、水島、カナエ。
メモってきたのに。
なんで、、、はぁ、、はぁ、、リダイヤル

プルルル、ツーーツーーツーー。

看:なんで?
はぁー。はぁー。はー。疲れた。
何してんだっけあたし、、はー。はー。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

全明。

看:そーだ。あたし。頑張ったんだ。
水島さんとあのガキンチョに逃げられて、はー。
列車発車と同時に札幌駅北口から飛び出して、はー。
チャリ乗ってる代ゼミの浪人生つかまえて
半強制的にチャリうばって、はー。
信号全部無視して高架下を進行方向にゲキチャリしたんだった。
そうえんで止まると思ったら、なかなか止まらなくて
トラック運ちゃんにチャリごとヒッチハイクして
南千歳で追い付いたんだった。

でも、乗れたと。で、緊急連絡先に電話してみたと、、、はー。はー。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

看:、、、、、、?
よく間に合ったなあたし!
老人ホーム付看護師歴5年。
あたし、何かの境地に達したのかも。
あ、気絶しそう。

気絶する看護師。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

カ:こっちだ。間違った。
犬:怒られただろーがよー。
犬:お、なんか倒れてる。
ば:自由席だからじゃない?
犬:自由すぎねーか。

ばば、犬、看護師をまたいで退場。カナエ、看護婦に気付く。

カ:?、、あっ。
ば:どしたー?
カ:先行って!先!
ば:はーい。ここにするかー。
カ:向こうの車両!
ば:なんで?
犬:言う事聞けよ。
ば:ひっく。
犬:酒よこせよ。
ば:やだ。

二人退場。

カ:札幌駅で振り切ったと思ったのに、、。
なんで乗ってんのこの看護婦さん。
看:、、、、。
カ:しかも、通路で寝てるし。
看:、、、、、。
カ:看護婦が普通に倒れてるとか、なんか恐い。
看:、、、。
カ:いいや。ほっとこう。見なかった。見なかった。

足をガッとつかむ看護婦

カ:ぎゃあああ!!
看:、、、
カ:ぎゃああ!ぎゃああ!ぎゃああ!ぎゃあああ!

と、看護婦をはたくはたくはたく

看:いたい。いたいよ。いたい。(冷静)
カ:あ、ごめんなさい。
看:(髪かきあげ)あーーー。いたい。(アンニュイ)
カ:ごめんなさい!
なんか、バイオハザードみたいで恐くて。
看:うんわかった。もうそういうのどうでもいいや。
はい。そこ座って。
カ:通路だけど。
看:いいの。もう場面的にどうとかもうどうでもいいの。
座って。お姉さんもう色々な事につかれた。
カ:はい。

正座する二人

看:どこ行くわけ?
カ:、、。
看:もうこうなったらお姉さん止めないから。
だってもうお姉さんカシオペアだかスーパー北斗だか
とにかく寝台車にのっちゃったもん。
カ:、、。
看:なまえは?
カ:カナエ。
看:あ、
カ:水島カナエです。
看:緊急連絡先ってお孫さんなの?(メモ出す)
カ:、、、どうせばあちゃんの事なんて忘れてんだから。
看:、、、、で、どこ行くの。
カ:連絡しないで欲しい。うちに。
看:、、、それはおばあちゃんのため?
カ:約束したの。
今日。9月26日に、
絵の場所に連れてってあげるって。
看:あ、あの絵。

リュックサックから絵を取り出す。

カ:ばあちゃんもう目あまり見えないから、
言われた通り描いた。
看:いつ?
カ:去年、老人ホームに入れられる前に。
看:入れられる?
カ:そう、入れられる前に。
看:いろんな事情があって、入居したんだと思うよ。
カ:させられたんだよ。
看:カナエちゃん。
カ:じゃまもの扱いして。
看:、、、、。

ちんもく

看:この絵。描いた時、おばあちゃん認知症は?
カ:認知症?
看:痴呆。
カ:、、結構、進んでたと思う。
看:無いかもしれないよ。この場所。
カ:あるよ。
看:どして?
カ:大切な場所だって
看:どんな?
カ:世界で一番大切だった人との。
世界で一番大切な場所だって。
看:世界で一番大切な人
カ:うん

■第11場歩道橋

曲、照明変わる。

ばば、登場。

ば:その頃ばーちゃん大衆食堂で給仕の仕事してた。
今で言うウェートレス。
カ:へー。かわいいね。
ば:そんなかわいいもんじゃないよ。
服そうは給食のおばちゃんだから。
その食堂に人足さんたちが食べに来るの。
今で言うと工事現場の土方さんたち?
カ:うんうん。
ば:そのなかに変わった人がいてね。
右手でご飯かっこみながら、左手で読書してるの。真剣な顔して。
変な人がいるもんだなぁと思ってね。
何読んでるんですかーって聞いたら、なんて言ったと思う?
カ:わかんない。わかる?
看:え?わかんない。
ば:「宇宙論です」って。ランニングいっちょで。
「自分は一生土にまみれて働く気はない。
いつか宇宙に行ってみたい。
いずれ人類は空を越えます。
アメリカさんやロシアさんは競ってロケットを作ってるそうです。」
どろんこの顔して真顔で言うわけ。
「今、近くに歩道橋を作ってます。
このあたりでは富士山の次に宇宙に近い場所です」
面白いから少しづつ話すようになって。
カ:結婚したんだ。
ば:馬鹿だね。その頃の恋愛はもっとウブなんだから。
カ看:うぶねぇ。
ば:ある日その人が言うわけ。
「実は明日の夜、歩道橋ができ上がるので
よければ見にきませんか」
カ:デートだ。
ば:言われた場所に言ったら立派な歩道橋が建ってるわけ。
でもあの人の姿は無し。
どこにいるんだろーってキョロキョロしてると
道路の向こう側から大きな声。
「上ってくださーい」
あたしが歩道橋のこっちから
あの人は歩道橋のあっちから上がって来て、
看:ちょうど真ん中で出会うわけだ。
カ:あー。
ば:土方にしちゃあ粋な事するでしょお?
「この歩道橋は僕とタマエさんしか上ってませんから。
思う存分堪能してください。」
カ看:堪能ったって。
ば:歩道橋じゃねぇ?って思うでしょ?
カナちゃんも今度上ってみてよ。
これが思ってるよりも高くて景色がいいの。
その頃の家はみんな平屋のほったて小屋で。
今みたく高いビルなんてないからなおさら。
あの人の言う通り、宇宙に二番目に近い場所だったわけ。
看:宇宙に二番目に近い場所かぁ。
ば:あたりは満天の星。
「あ、そろそろ空を見てください。
僕の調べによれば、そろそろ流れ星が通りますよ。」
カ看:え?
ば:そのまさか。
カ:流れ星なんて調べれんの?
ば:あんたらもあの時代にあの人にあってたら簡単にオトされてたね。
看:オトされるって。
ば:あたしはおとされたね。
だって本当に流れ星がこーーーーーーーーーーーー
カ看:いつまで流れんの?
ば:「はっはっは。タマエさん。
あれは流れ星ではありません。
ロシアが飛ばした人工衛星です。」
カ:見えるんだ。
ば:「天候によっては肉眼で見えるんです。
いやー、晴れてよかった。
人口衛星ですから空をよこぎるまで消えません。
だからつまり、願い事もしほうだいです。
なんたってあの人口衛星はゲンがいい。
人類の宇宙への夢に先駆けて、
ライカという犬っころが乗ってるんですな。
願い叶うんです。望めば実るんです。
戦争には負けました。ぼくらの子孫に誇る。
素晴しい時代を作ろうじゃないですか。
タマエさん、結婚してください。」
看:うまい!
カ:おじいちゃんてどんな人だった。
ば:どんなってねぇ。
強くて。頑固で。無口で。
あたしゃコロリだよ。

ばば退場、曲消える。

■第12場

カ:歩道橋。死ぬ前に一度行ってみたいって。
看:2番目に宇宙に近い場所かぁ。
カ:だから、、
看:あああ!そんなプロポーズされてぇ!
だめだ!男もいねええし!
カ:桜井さん。
看:ごめん。私情をはさんだ。
カ:サクラちゃん?
看:え?
カ:ばあちゃんが言ってた。サクラちゃんでしょ。
カナちゃん以外にも友達が出来たって。
看:かわいくてね。あなたのおばあちゃん。
だから、タマエちゃんって呼んでた。
カ:ありがとう。
看:いや、あたしは仕事だからほら。
カ:それでも。ばあちゃんサクラちゃんがいる時はうれしいって言ってたよ。
看:、、そう。
カ:見つかるかな、歩道橋。
看:、、、見つかるよたぶん。
カ:そーかな。
看:でも
カ:、、
看:無事だけは知らせて。ご家族に。
カ:そんなことしたら止められる。
飛行機で飛んできて、ばあちゃん連れ戻されちゃう。
看:どっちみち施設からそろそろ連絡行ってるはずだから。
カナエちゃんがどこに連れてってあげたいのか教えてあげれば、
きっと、ご両親もわかってくれるよ。
カ:、、、ばあちゃんの事老人ホームに押し込んで、忘れようとしてる。
そんな人たちに、わかって貰えるわけない。
看:やっぱりご両親には報告する義務があるから。
あたしの仕事として。
カ:友達でしょ?
看:それ以前に、私は施設の看護師です。

カナエ、ばば達の方へ行こうとする。

看:どうする気。
カ:、、、函館で降りて空港行く。
おばあちゃん飛行機恐いって言ってたけど、
看:カナエちゃん。
カ:しょうがない。

再び行こうとする。

看:待ちなさいっ(厳しく)
カ:!
看:老人ホームに預けられてるお年寄りに
あなたと同じだけの体力あると思わないで。
これ以上タマエちゃんをひきずりまわすなら、
次の駅で緊急停車させて、
一番負担のかからない方法で戻らせます。
カ:誰もばあちゃんの事考えて無い。
看:考えてます。
カ:考えてないじゃん!
看:おばあちゃんどこに行く気なの?
カ:、、、
看:答えなさい。
カ:、、、やだ。
看:答えなさい。
カ:死んでも言わない。
看:答えないのね。
カ:、、うん。
看:答えないでね。
カ:え?
看:そうかぁ、ガンとして口を割らないかぁ。
行き先がわからないなりに
わかってる範囲で報告するしかないかぁー。
カ:え?
看:意味わかんないの?
カ:うん。
看:この列車に乗った事しかわかんないって報告するしかないかぁー。
カ:え?
看:あーあ、どこで降りるのやらー。見張ってるしかねぇかぁー。
カ:ん?なに?
看:さすがに中学生はアホね。
カ:は?
看:(ちょいちょい)(呼ぶ)
カ:?(寄る)
看:(こそこそ)カナエちゃん。
理由はともかく列車をつかったのは正解よ。
飛行機だったら空港で待ち伏せされるけど、
列車だったらどこで降りるかわからないから。
カ:サクラちゃん!
看:あたし、あんたたちを見張り続けるから。
あたし、はぐれ刑事旅情編、大好き。
カ:一緒に行ってくれるって事、、
看:んーまぁそゆこと。
カ:うおおお!大好き!!!!

曲『blue suede shoes』

看:旅行中のタマエちゃんの健康管理はあたしに任せて!
カ:はい!
看:でも医療用具が無いのが心細いなー
カ:大丈夫!老人ホームからパクってきたから。
リュックにびっちり!こんなに!
看:これ以上罪を増やさないで!
カ:ラジャー!
看:返事だけはいい!
カ:ばあちゃんセットよーーし!
看:へったくそな絵よーーし!
カ:あ、ちくしょ。男ひでり看護婦よーーし!
看:浮いたうわさ全然なーーし!
カ:ばーさんよーーし!
看:孫よーーし!
カ:ついでに犬もよおおし!
看:そんなのもいたっけ。
カ:目的地!いざ!、
看:わああああ!(耳ふさぐ)
カ:あ、目的地!
看:歩道橋!
カ:宇宙に2番目に近い場所へ!

曲上がり。

■第13場スーパー北斗星ダンス

スケッチブック的なものに駅の名前。
ダンス的なものをしながら、
じゃんじゃんめくってく。
ばば、犬、くわわる。
その途中に会話の文字など。

「苫小牧」
「登別」
「東室蘭」
「はしょります」
「伊達紋別、洞爺、長万部、八雲、森、函館、」
「スーパー白鳥に乗り換え」
「→→(もう地図になってる)→→八戸ではやて32号に乗り換え」
「東京着」
「この芝居」
「なんでエルビスかかるの?」
「ばーちゃんの青春時代は」
「エルビスとともにあったのよ」
「いつの話し?」
「1950年代」
「ペリー来航」

ば:違う!

「置いといて」
「こだま709号三島行き」
「もう少しで」
「日本一の」
「(富士山の絵)」

4人:おおお!!(拍手拍手)

「しかしただいま23時」
「夜中なので見えません」

4人:ちっ

「目的地」
「沼津」
「ここで物語は」
「列車が走り始めた頃に戻る」

曲上がり暗。暗の中4人拍手。

■第14場居間

テレビの音

父、電話してる。

父:そうですか。すみません。お手数かけます。

電話を切る。

父:まったく。人の気も知らないで、、。
ミノリ、少しテレビの音、下げないか。
ミ:、、なんで?
父:いや。

ミノリ、テレビ見てる。

母:お母さんまでいなくなったって。
父:どうやらカナエも一緒らしい。
今看護婦も同行してる。仕事は?
母:休んだよさすがに。
父:僕も早引けした。
母:一体どこに行く気なの。
父:わからない。皆目検討がつかん。
母:もっとよく考えてよ!
あなたのお母さんでしょ?
父:もうボケてんだ。僕にだってわからない。
行き先があればまだいい方だ!
母:ボケ老人に連れられて、カナエに何かあったらどうする気なの
父:何かあったらって!
君、よくそんな事が言えるね?
母:どういう意味?
父:ミノリに聞いたぞ?君は学校から電話あったのに
電話もかけずにそのまま店行ったそうじゃないか!
母:あなたの所にだって連絡行ったんでしょう?!
先生おっしゃってましたよ?
父:僕は、仕事で。
母:電話一本くらい出来ない仕事でしたっけ?
父:僕の仕事の状況なんて君にはわかんないだろ?
母:あたしだって今日は早めに店あけなきゃいけなかったんです。
ミ:、、、、。
父:だいたい君が良くない。
どうして寝台列車二人分も予約できるほどの金を持たせてるんだ。
母:あたしが悪いっての?
父:中学生だぞ。どうして中学生が万金持つ必要あるんだ!
母:何かあった時にお金ですむじゃないの!
持ってて困る事ないでしょう!
父:もってなければこんな事にはなってないだろ!
母:お年玉だってあるんですから、ためようとおもえば
お金なんていくらでもたまります。
父:何かにつけて金金金だ。
母:なに言ってんの?
父:なんでもないよ!
母:言いたい事あればはっきり言えば?
父:じゃあ言おう。
君が家に居てくれればこんな事にはならなかった!
母:まだそんな事言ってるの。
結婚する時に決めた事でしょ?!
あたしは結婚しても子供が出来てもお店をやめる気はありませんって!
あなたそれでいいって言ってくれたじゃない!
父:言ったけど!
母:そんなに誰か置いときたいなら
お母さん老人ホームいれなきゃ良かったじゃない。
父:それはそれなりの事情があっただろう。
母:なんならあなたが家にいればいいじゃない。
あなたの方が給料低いんだから。
父:なんだって?
母:いつまでたっても係長止りで、どうせこの先出世の見込みなんてないんだから。
あたしの月給なんて一生かかっても越えられないわよ。
父:なんだ?そんな風に思ってたのか?
母:当り前じゃない?
あたしだけの稼ぎでうちはなんとかなるんだから。
少ない方が子供の面倒見てりゃいいでしょ?
父:世間体という物がある!
僕だって男だ!
母:男?あらそうだったんだ。気付かなかった。
父:ちょっと待て。
言っていい事と悪い事がある!

ミノリ登場。

ミ:うるさいんだけど?
父:あ、すまん。
ミ:みっともないから外でやってくんない?
父:すまん。ちょっとカナエとばあちゃんの事で、心配で。な。
母:ごめん。ミノリ。
ミ:お金ちょうだい。
父:え?
ミ:ちょっとお金いるから。
父:あ、今か?
ミ:今。
父:そうか。、、わかった。(1万)
ミ:サンキュー。母さんも。
母:え?でも。
ミ:もってて困る事ないんでしょ?
母:あ、そうね。、、はい(2万)
ミ:どーも。
一生喧嘩してればー。

ミノリ退場しようとする。

母:ミノリ。、
ミ:何。
母:あの、、あなた。
父:うん、えっと。あのな。
ミ:何?早くしてくんない?時間無いから。
母:どこいくの?
ミ:関係ないじゃん。父さん何?
父:あの、、、カナエとばあちゃん、アレだから、その。
ミ:何?
父:、、早く帰って、これるか?
ミ:、、、、、そんだけ?
父:あ、うん。
ミ:、、わかんない。

ミノリ退場。

母:、、、、。
父:、、、、。
母:あなたがしっかりしてないから。
父:君が甘やかすから。
母:あなただってそうでしょ!?
父:僕は、、
母:、、何。
父:今は、カナエと母さんの事考えよう。
母:すぐ話しすり換えて。
父:じゃなんだ!思ってる事言ってみろ!
母:すぐどなる!
父:それは君が!
母:あたしが何?!
全部あたしのせい?!
カナエがあなたの母さん連れてどっかいっちゃった事も?!
ミノリが家にひきこもって、何もしないでフラフラしてる事も?!
あたしのせい?
父:、、、君のせいじゃないよ。
母:あたしだってねぇ!
あたしだってどうにかしたいと思ってるよ!
こんなんでいいなんて思ってないよ!
どうにかしないとって思ってるよ!これでも
あたしがどうにかしようって頑張ってるよ!
あたしがしっかりしなくちゃって!
でもあなた頼りなくて!
父:すまん、悪かった。
母:なんでもあたしのせいにしないで。
父:、、僕のせいだ。
母:、、、。
父:、、、わかってんだ。しっかりしなきゃいけないのは、僕の方だ。
母:、、、、ねぇ。
父:、、何。
母:、、、いつから間違ったんだろう。うち。
父:、、、、、、、。

テレビの音。
母、消そうとする。

父:、、、?まて。
母:?
父:台風警報、、。
母:どこ。
父:本州。
母:え?
父:、、神奈川、伊豆半島。
母:そんなのいまどうでもいい!

テレビ消す、母。

父:狩野川台風だ。
母:何言ってんの?
父:、、、1958年。昭和33年。
神奈川、伊豆半島冲に発生した、狩野川台風で、
僕の親父が死んだ。
母:おじいちゃん?
父:、、もしかして、かーさん、、。
父さんとの、、
母:ミノリ。

ミノリ登場。

ミ:チケットどうする?
母:え?
ミ:いつまでもグダグダ喧嘩しててもしょーがないと思うんだけど。
母:うん。
父:ちょっと待てミノリ。
今、思い出せそうなんだ。えーっと。
たぶん。
おじいちゃんが死んだ所なんだ。
ミ:だからさー。チケット。
母:ちょっと待ってミノリ。
ミ:はやくしないとさー。
父:うるさい!おまえは!さっきからお前は!
カナエや!ばーちゃんが心配じゃないのか!
ミ:あんた馬鹿!??
父:?
ミ:何聞くかと思ったらやっぱりそんなくだらない事だ。
父:くだらなくない!
ミ:心配に決まってんだろ!
さっきだって!カナエの携帯に変な電話来たり!
なんかおかしな事に手出してんじゃないかって思って!
いろいろいろいろ考えて!
家戻って来たと思ったらすぐ喧嘩!
意味わかんない!
責任おっつけあってあーだこーだ!
そんな事より!
今は飛行機とって沼津に行くの!
父:え?
ミ:行くの?!行かないの!どっち!
父:なんていった今!
ミ:沼津!
父:そうだ!沼津!神奈川県伊豆半島沼津!狩野川台風!
ミ:早く!
父:どうしてわかった!?
ミ:そんな事あと!
今出ないと間に合わないよ?!
母:落ち着いて説明して!
ミ:テレビで見たでしょ!?ニュース速報!
母:、、、あ
父:台風警報。
ミ:今夜上陸するって。
父:あ
ミ:早く!

■15場1958年

暗。
SE風の音ビュウウウウウウウ

犬の声。

『タマエさん。僕らの幸せは、何かの犠牲の上にある。
目を背けてはいけない、まぎれも無い事実だ。
だったら僕ら精一杯行きねばいかんです。
最後まであきらめず、おとしまえつけんといかんです。』

SE風の音ビュウウウウウウウ

じ:タマエーーー!!!!!

木戸を叩く音。
SEダンダンダンダン!ダンダンダンダン!

薄暗い明。

SE風の音ビュウウウウウウウ

じ:タマエーーーー!!!!!!!
ば:雷太さん!
じ:ちょっと!狩野川の現場まで行ってくる!
ば:ずぶぬれじゃない!
一回おうちに入って!あったまってからにして!
じ:一回入って落ち着くといかん!
ば:でも!
じ:もともと堤防の足場作りの仕事だから!
木材がくずれて流されたら回りの民家に被害が出るから!
土嚢つみなおして、決壊しないようにしとかないと!
ば:だけど、風も強くなってきたから!
じ:もっと強くなる前になんとかしないといかん!
ば:でも。
じ:あったかい飯と、あと風呂を沸かしといてくればいい!
あと熱燗とタバコだ!欲張りすぎか!?
ば:話しがあるんです!
じ:帰ってから聞く!
ば:今聞いて欲しいんです!
じ:大丈夫心配するな!
ば:でも!

SEビュウウウウウウウウウ!!

じ:タマエ!安心しとけ!
こんな事はなんでもない!
きっといい時代が来るぞ!
戦争には負けたが!
俺たちにもそのうち子供が出来て!
自慢の出来る時代にするぞ!
犬が宇宙を回る時代だ!
台風ごとき!天災ごときにやられとったら!
死んだあの犬に顔向けができん!
正しかった事にしてやるために!
今地面をはいつくばってる俺立ちがふんばるんだ!
ば:雷太さん!

SEビュウウウウウウウウウウウウウウ
風の音とともに消える、じじ

ば:雷太さん!!!
あたし!
おなかに、あなたの、

SEビュウウウウウウウウウウウウウウ
風の音とともに暗。

■16場伊豆半島。

ガタンゴトンガタンゴトン

カナエ、看護師寝てる。

SEキーーーーーーップシューーー。
SEビュウウウウウウウウウウウウウウ

看:あ、ついた。沼津。、、、?カナエちゃん!
カ:ん?、、ついた?
看:タマエちゃんいない!
カ:え?
看:まだ降りてないはず、急いで!
カ:うん。

カナエ、手紙を見つける。

カ:手紙。
看:手紙?
カ:おばあちゃんから。
看:うそ。
カ:え?
看:、、文字なんて、タマエちゃん書けなくなってたはずだよ?
カ:、、、、

手紙を開いてみるカナエ。

カ:おばあちゃんの字だ。
看:まさか。
カ:間違いないよ。
看:、、、、、。
カ:サクラちゃん、よんで。
看:「カナエ様。
来年の今ごろ、きっと私はもうろくして、
字もろくに書けなくなると思います。
カナエはたぶん、ばあちゃんがボケたから
やっかい払いにされて老人ホームにいれられると
思うのでしょうが、そうではありません。
ばあちゃんは自分で進んで施設に入ります。
カナエのお爺さんに当たる人がよく
『犬ッコロ一匹いけにえにしないと、
どこも行けないくらい
人間なんて臆病なんだから。
自分のおとしまえくらい、自分でつけんとだめだ』
と生前に話しておりました。
だから自分で選んで入ります。
だからそんなにさみしがらないでください。
そんな事をカナエに言うと、
きっと反対をするだろうから、
今のうちに手紙に書いておきます。
ミノリには話して聞かせてあります。
それでは、心豊かに、一生懸命おやりなさい。
平成17年9月 水島タマエ」

カ:おばあちゃん。何する気?
看:わかんない、とにかく急ごう。
カ:どこ?
看:歩道橋!

二人、走り出す。

SEビュウウウウウウウウウウウウウウ

録音による犬の声

犬:『残念な事だよ。タマエさん。
結婚を申しこんだ時に見たあの人工衛星は
確かにスプートニク2号でした。
そこにライカという犬っころが乗ってる話もしましたね。
この新聞の記事だよタマエさん。
今年、大気圏で燃え尽たそうです。
もともとそういう予定で犬っころは載せられたんだそうです。
もともと安楽死させられる設計だったんだそうです。
タマエさん。
僕らの幸せは、何かの犠牲の上にある。
目を背けてはいけない、まぎれも無い事実だ。
だったら僕ら精一杯行きねばいかんです。
最後まであきらめず、おとしまえつけんといかんです。』

SEビュウウウウウウウウウウウウウウ

薄暗い照明と録音の声の中、家族、ばあちゃんを探す。


■17場歩道橋

SEビュウウウウウウウウウウウウウウ!!

カ:あの歩道橋!
看:ほんと?
カ:間違いない!この絵と一緒!

ミノリ、母、父。

父:カナエ!
カ:父さん!
母:カナエ!
カ:お姉ちゃん!母さん!
母:ばか!
カ:ばあちゃんが!
看:タマエちゃん!
父:母さん!

奥に光り、歩道橋の小高い場所「こっち」にばば
SEビュウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!

カ:誰かとしゃべってる!
父:なんて言ってる!
ミ:聞こえない!
カ:きっと、いるんだ!歩道橋のあっち側!
父:行ったらだめだ!
風でふきとばされる!
看:カナエちゃん!言う事聞いて!
カ:ばーちゃんだって飛ばされる!

カナエ退場

母:カナエ!
父:母さん!だめだ!
母:放してください!
ミ:カナエ!

ミノリ退場

母:ミノリ!
父:だめだ!
母:カナエ!

母退場!

父:どうして誰も言う事聞いてくれないんだ!
看:お父さん!あたし、救急車!いちお。
父:あ、、うん。。

看護師

父:だめだ!!!それ以上のぼるなあ!
どうして誰も言う事聞いてくれないんだあああ!

父、膝をつくとともに強風。

SEビュウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!

照明、変わり。音、無くなる。

「あっち」側から、じじ。

曲聞こえてくる。

ば:あんた犬のとこ行ってからさ。
あたし、この土地がつらくって、北海道まで出てさ。
ケイタが生まれてさ。
ケイタっての頼りなーい子でさ。
世間様とやってけるんだろうかって心配になった。
中学出て、高校出ていちお大学まで出して、それでも性格だけは変わらなくてさ。
でもね。
ケイタはねぇ、いい嫁さんみっけてさ。
びっくりしたけどね。タバコは吸うは酒も飲むわパチンコ行くわ頭は悪いわ。
ケイタが水商売の女に騙されたと思ったもんだからさ。
必死になって結婚やめろやめろ言ったの。
でもあのケイタがガンとして言う事聞かないんだ。
結局根負けして結婚許したはいんだけど。
金金うるさい女でね。
そんなに働いて金ためてどーすんだかと思ったら。
お腹にケイタの子供がいるってゆーんだよ。
責任取らされて結婚するハメになったな。と思ってさ。
こりゃあ相当覚悟しとかにゃいかんと思ったけどさ。
なんだか喧嘩ばっかりしてるんだけどさ。
よくよく見たら仲よさそうでさ。
あんたとは一つも喧嘩せずに犬んとこ先いっちゃったもんだから、
うらやましくてさ。
2人も孫産んでもらってさ。
上の子は大学受験失敗してさ。
その後就職してみたんだけど職場が良くなくてさ。
1カ月くらいでやめちゃったんだけどさ。
最近ひきこもりみたくなってるけどね。
まぁ、そういう時期もあるよね。
下の子は
あたしが老人ホーム入ってからもちょくちょく遊びにくる優しい子でさ。
来年受験だって。おっかないんだろうね。
変な時代になっちゃって。
でもみんないいこ。

父:なにを言ってるんだ。
、、なにを言ってるん母さん。
だれとしゃべってるんだ母さん。
僕は弱い人間に育っちゃいましたよ。
なにも自慢出来るものがないような。
なんでもない人間にそだっちまいましたよ
父さん。強くて、頑固で、おっきくて
父さんだったらどうすんだろうかって
娘をなぐってでも父親としての指名を果たすのだろーかって
父親として、僕に出来た事なんてなにもない
家族に尊敬されず、母も捨てた。
ぼくはあなたをやっかいばらいに捨てた。
死ぬまでとじこめようとした。
家族のため。家族のため。

犬:ほらおまえ。それなりに頑張れよ。
聞こえねぇかもしんないけどさ。
今日初めて会ったばっかだけどさ。
いちお言いたいから言うけどさ。
別に強くなくてもいんだよ。
きっとお前の父親だって完璧だったわけじゃねんだよ。
ばばあの脳味噌の中で奇麗な記憶にされただけなんだよ。
きっと大酒も飲んだ!きっと博打も打った!浮気もした。
よく考えろ。
戦後の日本だ。経済成長期突入したばかりの日本だ。
そん時、土方しかやれなかったお前の親父の事を考えろ。
なんかやろーにも脳味噌なくてさ。
情けなくて悔しくてはがゆくて。
虫けらみたく土まみれでこき使われて、
でかい事言って大ボラもふいてなきゃ気がすまなかったかもしんねぇし。
無理して宇宙規模の話しするために、
読みたくもねぇ宇宙の本とか買ってみてさ。
自分はでかい夢のある男だって。
自分はここで終わる男なんかじゃないって。
そう言いたかっただけかもしんねぇし。

声が聞こえてる父。

犬:聞こえないかもしんないけどさ。
今になって思うんだ。
焦る事なかったなって思うんだ。
いいとこ見せようって意固地になって、
失ったものがいっぱいあるなって思うんだ。
目あげて、よく見てみなさいよ。
おまえにはいるじゃないの。
まずは幸せだと思った方がいいよ。

父、犬を見る。

父:、、、、
犬:、、おまえ。

目が逢う父と子。

SEビュウウウウウウウウウウウウウウウ!!!

父:ノゾミ!カナエええ!ミノリいい!、、母さん!
今ゆくぞ!
ノゾミ!カナエ!ミノリ!母さん!

曲『I was the one』または『love me tender』

犬:望、叶、実、たまえ。
いい名前、揃えたもんだ。

曲上がる。暗

録音によるカナエの声

『そして。お父さんは狩野川に飛び込みました。
目撃者の話しによれば、その時のお父さんは
お世辞にもかっこいいヒーローではありませんでした。
それはそれは滑稽で、かっこわるくて、無様な姿だったようです。
奇蹟的と言ったのにはわけがあります。
父さんはカナヅチでした。
カナヅチの父さんは、私たち家族を助けました。
私はその記憶を胸に生きていきたいと思います。
そして、一年後。』

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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。