二人芝居『サンタのうた』<初演版>

二人芝居『サンタのうた』<初演版> 作・すがの公
●あらすじ
季節は夏になる前、つばめと物置きとサンタの話。妻に一方的に離婚された売れない漫画家の父・清彦に言いつけられ、しぶしぶ物置き掃除の手伝いに来た娘・聖は、宝箱を見つける。その中に入っていたカセットテープには幼稚園の頃のエピソードにまつわる「歌」が入っていた。父と娘の噛み合わない会話。ひょんな事から二人は物置きに閉じ込められ口論となる。父親を名前で呼ぶちゃっかり者の娘と、娘に父と呼ばれたくないダメな父親のおかしな絆。

一場■前の日の夜

客入れ最後の曲上がり暗。
娘による録音の声

『うちの物置には、小さなツバメの巣がある。
「今年もちゃんと、戻って来てるのかなぁ」
春が過ぎて夏になる頃、
父がテレビを見ながら必ず言う。
ママはそれを聞いて、
「あなた気になるなら見てくれば?」と
少し馬鹿にしたみたく笑う。
そんな会話をした日の夜、父は
「聖、ツバメが寝た頃を見計らって探検に行くぞ」
って懐中電灯をパジャマのあたしに渡す。
幼稚園から毎年恒例、父と娘の物置探検。』

懐中電灯の光り、物置の中を照らす。

『「ツバメを起こすといけない」
そおっと物置に梯子をかけて、あたしが先で父が後。
あたしはツバメの巣を懐中電灯で照らす。
小さな巣の中に小さな卵とツバメのつがい。
無事に戻った事を確認したら、うなづいて合図する。
またそおっと梯子を降りて黙ったまま、玄関に入る。
あたしは父に報告する。
卵は何個で、どうやら去年と同じ燕で、
懐中電灯で一匹が起きて、、、
小さい頃。この物置探検が楽しみだった。』

録音の中、目がなれてくる。
月明りの明、上手から差し込む光。
夏になる前。物置。
娘、下手の天井を見る。

『小学3年生の時、ツバメが戻ってこなかった。
あたしはその年の夏休みの自由研究でツバメの事を
たくさん調べた。
中学校に入るまで物置探検は毎年行われた。
高校を出て、大学に入って、いろいろあった。
いろいろあって最近、
たまに探検してた頃を思い出す。』

娘 なんだろ。

作りかけのスツールを見つける。

娘 清彦さんまたなんか作りかけ。
そりゃママに片付けろっていわれるわ
、、、、、、。
こんなに狭かったっけかなぁ。、、、?

なにか、物音が聞こえた気がして、
再び下手の天井をみる。耳を済ます。

娘 、、、、。

かすかに聞こえる、ツバメの声。

娘 あ。

静かに聞こえてくる燕の声。
チー、チー、ギッギッギッ

娘 ツバメ、今年来たんだ、、。

曲聞こえてくる。
『アベマリア(グノー)』
娘、棚にある宝箱を見つける。
手紙の束、
中を見る。テープが出てくる。

娘 カセットテープ。
?、、なんかかいてる。漢字で、、。

カセットテープに文字「阿部」

娘 清彦さんの字だ。

よくわからず
燕の方を見上げる娘。

曲少しずつ上がり、ゆっくりと暗。

『季節は夏になる前、
あたしと物置と、サンタの話。』

暗の中、戸口にはしご。つっかい棒になる。

二場■片付け
風の音、何かの音。
SE『ビュウウウウウ、カランガタン』

戸口にはしご。に照明。
トンカチの音、聞こえてくる。

トンっトンっトンっ
はだか電球の明。
父、スツールを作る。掃除の格好。つなぎ。三角巾
娘、まわりで片付けをしてる。ハタキ。マスク。

父 ♪おーいえい、だきしめたいー、
あーなーたの事ーもっときかせて
なんか風強いなぁ今日。
外の梯子、飛ばされないように中いれなきゃな。
出てたろ?使った?
娘 昨日(パタパタパタ)
父 あの梯子見た目よりも軽いからな。軽くて丈夫。
俺が作ったの。
娘 (テキパキテキパキ)
父 ♪おーいえい、軽いはしごー、
あなーたの骨、ちょっと丈夫ね。
娘 変な歌。
父 歌う漫画家、トンカチも持っちゃう。
娘 どっかで聞いた。
父 根っからのクリエーターなんだな俺は。
ふと口にした言葉が詩となり、歌となる。参った参った。
娘 はいはい。
父 ♪おーいえい、たてかけたいー(トンっトトン)
娘 清彦さん。
父 はい~
娘 片付ける気あんの?
父 あるよ。
娘 ないでしょ?
父 あるよ!今ほら、まさに片付けんとしてるじゃないか。
娘 どこが!清彦さん他の事してんじゃん!
うたってんじゃん!やる気ゼロじゃん!
父 なにおこっちゃってんの?
娘 怒るよっ!
物置片付けろっていわれたの清彦さんじゃん!
「明日9時、物置集合」だけメールして手伝わせて!
もう昼すぎたんですけど?
父 よくみなさい聖くん、父は今、何をしている?
娘 トンカチもって。
父 そう。トンカチもって
娘 社会に反抗している。
父 なんでわかってくれないんだー。ちがう!
娘 トンカチもって。
父 そこまではあってる。トンカチもって。
娘 赤ちゃんごっこ
父 ばぶーばばぶー。違う!よくみろ!
娘 見た。
父 今私は、なんでもない木のこっぱに新しい命を吹き込もうとしている最中なのだよ。
娘 余計なもん増やしてるだけでしょ?
父 失敬な!男のDIYを馬鹿にするのか!
娘 DDT?
父 それは正対する相手をフロントヘッドロックに捕え、
後方に倒れ込んで相手の頭部を
マットに激しく叩き付けるという
プロレスリングの必殺技だ。長い!DIYだ!
娘 どんな意味。
父 D I Y 「どんな時も、いつも、夢見て」
娘 ほんと。
父 うそ。
娘 片付けないなら帰るよあたし?
父 なんで?まだちっとも終わってないじゃないか?
娘 だから働けっていってんの!
父 働いてるよ!
娘 働いてない。
父 働いてるよ!
娘 ちっとも働いてない。
父 俺だって早くまんが家になってしめきりに追われたいよ!
娘 え?
父 編集の人に赤坂のカツ丼買ってこいっていいたいよ!
娘 ちょっと。
父 でもたまに優しくしたいよ!
娘 清彦さん。
父 でも売れないんだよ!まんが。
娘 なんのはなししてんの?
父 手塚赤塚賞。
娘 ジャンプの。
父 はい。
娘 今月の作品は、えーとー
父 『バードウォッチャー島田』
娘 読み切り31ページ。
父 鳥と話せる島田くんの生活。
娘 拝見しました。
父 はい。
娘 バードウォッチングという題材が素晴しいと思います。
父 ありがとうございます!
娘 しかし。
父 なんでしょう?
娘 全体的にのんびりとした印象を受けますね。
父 のんびり。あとは?
娘 最後のえーと、クライマックスというか、
父 島田くん、鳥を数え間違える
娘 盛り上がりに欠けます。
父 そうですかー。

ものすごい早さで釘うつ。

娘 ものすごい早さで釘打たない!
父 いたい!
娘 ほらぁ~。
父 心が、いたいです。心が。
娘 話しずれてるよ。
父 なんの話しだっけ?
娘 働けって話し。
父 働いてるよ。アシスタント歴25年だぞ。
娘 物置で働けって話し。
父 あー。なー。
娘 作るならちゃっちゃと作ってそれ、片付けるよ?
父 はーい。

娘、片付けに戻る。

娘 木工職人にでもなればいーのに。
父 やだ。俺まんが家だもん。
娘 アシスタント歴25年の?
父 ちくしょう。いつか入選してやる。

トントン、トントン。

娘 いつ発表?手塚赤塚賞。
父 ?来週のジャンプ。
娘 いけそう?『バードウォッチゃー島田』
父 わからんね。題材が突飛すぎた気もするし。
のんびりしてんだよなぁ。少年誌にしちゃあ。
娘 弱気じゃん。珍しく。
父 ここ1ヵ月でさすがに考えちゃってさぁ。
娘 あー。そりゃーねぇ。考えるよねぇ。
父 人事だね。君も。
娘 だってあたしと関係ないもん。
お二人の問題でしょーが。
父 はいはい。そーですね。
娘 そーだ。あたし不思議だったんだ。
家出てからどこ住んでたの?1ヵ月も。
まさか、ココ?
父 住めるかこんなとこ。まぁ、考えたけど。
娘 どこ?
父 とりあえず、アシスタント部屋に
寝かせて貰っててな。てんてんと。
娘 あ、まんが家先生の?
父 「アシさんお泊まり用にね、ご用意しましたから。」
エロマンガ大先生の。儲けてやがんだよ。
エロマンガ書いてさ。
アシさん。略すな。
娘 だれ?
父 エロマンガ大先生。ペンネームがすごい。秋葉原萌え子。
娘 男じゃないの?
父 男だよ。でも女が描いてる事にした方が売れるんだってさ。
娘 清彦さんもそういうのやれば。
父 俺が?ペンネームは?すすきのソープラン子?
高田馬場トル子?
娘 清彦さん。
父 すまん。娘に言うギャグじゃなかったな。
娘 でもさぁ。もうかるんでしょ?エロマンガ
父 まあねぇ。
娘 売れるまででも。
父 お。売れると思ってくれてる?
娘 あ、思ってる思ってる。
父 2回いうな。軽いんだよ。
娘 でも少年誌はどーかなぁ。ジャンプ。
男の子の漫画ってさぁ、敵と戦ってさぁ、
どんどん強くなってさぁ、友情でさぁ。
そういうのでしょ?清彦さんのは、
そういうのとちょっと違う気がする。
父 わかってんだけどな。のんびりしすぎなのは。
けど俺はジャンプに当選したいんだ。
娘 手塚赤塚賞。
父 『最年少大賞受賞!小石川清彦くん(15)』
ジャンプにデカデカと。
娘 タイトルなんだっけ?
父 『ハードクラッシャー向島』
娘 読んだ読んだ。男の子漫画って感じの。
父 中学3年の春でした。
次の日からクラスの人気者だ。あだ名、まんが家。
それがそもそも間違いの元だなー。
娘 間違い?
父 ジャンプに投稿を続けるうちに、いつの間にやらアシスタント歴25年。
娘 間違いじゃありませんて。男の夢ってやつですって。
父 やっぱ売れると思ってねぇな
娘 思ってるって!
父 そういってくれんのはひーちゃんだけだ。
娘 あたし清彦さん派だもん。味方味方
父 味方ねぇ。
娘 だって。ちょっとママひどいと思う。
父 いやいや、ママは悪くねーの。俺が悪いんだ。
娘 そうかな。
父 そーなの。

トン、トントン。

父 元気か、ママ。
娘 知らない。
父 知らないって事あるか。
娘 あんまり会わないもん。
父 なんで?一緒に住んでんなら会うだろ。
娘 会わない。忙しいから。
父 どっちが。
娘 どっちも。
父 そーかぁ。
娘 ほら、手動いてない。手!
父 はいはい。

トントン。トン。

父 会社うまく行ってんのかなぁ。
娘 知らないよ。
父 大変なんだろーな。社長さんだもんな。よくしらないけど。
娘 だからあたしだって知らないよ。
なんで清彦さんが知らない事
あたしが知ってる事になんのさ。
父 あ、そーか。そーだな。
娘 忙しいって事はうまく行ってるって事なんじゃない?
よく言うじゃん。便りがないのは元気な証拠。
父 うーん。ちょっと違う気するけどな。
娘 とにかく忙しいんだって。
テーブルに書き置きとかよくある。
父 あんじゃん、便り。
娘 便りってほどのもんじゃないよ。
父 そーか。
娘 なんか嫌なんだよね。書き置きとか。
父 なんで。
娘 いーのに別に。
父 嫌な事書いてるわけじゃねんだろ?
娘 「今日は仕事で遅くなります。ごめんね。ママ。」
父 普通じゃん。
娘 なにあやまっちゃってんだか。
父 え?遅くなるからじゃないの?
娘 あたしもうはたちだよ?
今さら「ママいなーい」もないでしょ?
思った事ないし。ずっと清彦さん居たから。
ずっと。ねぇ?
父 それは、仕事が無いという意味ですから。
「ねぇ」とか言われると微妙だ。
娘 それにさぁ。
父 うん。
娘 清彦さん追い出してから突然だよ?
今までそんな事言われた事ない。
父 それは俺が居たからだろ。
娘 突然母親やろうとしてる感じ。
父 だって、母親だもん。
娘 だからもうはたちだよ?成人式終わったんですけど。
父 あー、なー。成人式、面白かったな。
娘 え?どういう意味それ。
父 化粧がさ。濃くてさ。
娘 なに?どういう意味?
父 いやいや、濃いとさ。面白くてさ。
娘 え?意味わかんない!どゆこと?
そんな面白い顔になってた?
父 なってた。
娘 言ってよそんとき!きれいだとか抜かしたろお!
父 そういうんじゃなくてほら。
娘 どういう意味かはっきりさせてください。
友達に写真とか見せちゃってんだから。
父 えーとほら、よくママごっこ。ママごっこ。
娘 ママごっこ?おママごとじゃなくて?
父 口紅とか、シャドーとか、盗んでさ。
娘 あー、あったかも。
父 最終的にひーちゃんに落書きをするだけなんだがな。俺が。
娘 あー、見た見た、ちっさい時の写真。ひどいやつ。
父 あれ思い出してさ。面白かった。
娘 ひどかったって事?
父 いやいや、きれいきれい。
きれいだったきれいだった。
娘 なんか納得いかないなぁ。
父 そういうのなんだと思うよ。
娘 え?
父 ママ。
娘 え?どういうの?
父 そういうの。
娘 全然わかんない。
父 そういうのそういうの。
娘 何がいいたいの?
父 あんまりその、書き置きとか嫌がるなって。話し。
娘 だって変じゃん。
ごめんねとかいわれても。なんで?って感じ。
父 これからずっと二人なんだから。
ママもほら、考えるとこあるんですよ。
娘 今さら。
父 ひーちゃん。
娘 あの人嘘くさいんだもん。言う事が。
父 いやいや。
娘 なんか余計に気ぃ使われてさぁ。
わかんの。
あーこの人あたしの事苦手なんだなぁとか。
父 ひぃちゃん。
娘 何。
父 ママの事、あの人とかこの人とか、駄目だ。
娘 、、。
父 あ、大学どーよ?卒業できそうか?
娘 突然なに?二人して。
父 え?
娘 別れた途端、父親母親みたい。
父 そーだな。
娘 だからそのすまなそうな顔とかやめて~。
うちもともと変な家だったんだから。
父親が売れないまんが家、
母親が通信教育教材制作会社の社長。
それが突然別れました。今さら何も驚かないって。
何度も言ってますけど、
あたしもうはたちですから。ね。
父 そう言っていただけると非常に、
ありがたいです。はい。
娘 もともとさぁ、清彦さんとママ、
あまり相性良くないしねぇ。
父 やっぱそう見えるか?
娘 ママキツすぎじゃん。わがままだし。
離婚だって一方的に決めてきたんでしょ?
父 まーねぇ。もうハンコ押してあったからな。俺の。
娘 うわ、新事実だ。ひどいねそれは。
父 いやいや、ハンコって言われても
俺場所わかんないし。
あと、文句言ったらまた怒られるしな。
娘 怒られるのが嫌で離婚決めたの?
父 嫌なんだよねぇ。怒られるの。
娘 ほんとに恐いんだね。
父 恐いよ。え?恐くないの?
娘 だってあたし怒られないもん。
父 いいなぁ。
娘 甘やかして育てた人(指さす)
父 いや、甘やかしたのはママ。
俺は育児に関しては成功したと思ってるから。
娘 ずっと家にいただけでしょ
父 主婦ですから。あたし。うふふ。
娘 気持ちわりー。
父 まっ、はしたない
娘 おかまちゃんじゃん。
父 ぶっさいくな子
娘 ひどい!
父 そんなんじゃうちの店でNO.1なれないわよ?
娘 清彦さんそういう事やるとリアルおかまに見える。
父 うるさいわね。
娘 あー、またなんもしてない。
父 あ。しまった。
娘 片付けないとまたママに怒られるよ?
父 お。
娘 知らないよ?怒られるよ?
父 別れた女房が恐くて男がDIYできるか!
娘 いいつけるよ?「清彦さんひとつも片付ける気ありません」
父 いいよ別に。だって片付ける気あるもん。
娘 「ずっと積み木して遊んでました」いいつけるよ?
父 いいよ別に。でも積み木じゃないけどね。
これも片付けのための大事な
娘 あ、ママっ。
父 !おいそっちどうなってる?それ5分いないにやっちゃえー、なー。
娘 、、、、。
父 (だまされた)なんてな。
娘 恐れすぎ。
父 おっかねんだもんあの人!
娘 だったら早くやっちゃおう。
全部捨てちゃえば30分で終わるよ?
父 でもなぁ。どれもこれもいつか使えるじゃんか。
娘 じゃそのままにして怒られれば?
父 やだ。
娘 物置にあるって事は全部使ってないって事
なんだから。全部ゴミ。いーじゃん。
父 ある人が見るとゴミだがな。
見る人が見るとゴミではないんだな。
どうだこのクリエーターならではの物の見方。
レッツ、クリエート。
娘 やっぱそれ後にしたら?
父 だってコレ作らないと片付かない。
娘 ただ片付けんの面倒なだけじゃないの?
父 実は、私、結構片付いてると思ってます。
娘 はーい。笑ってー。

携帯出す、写メール。カシャ。

父 何すんの。
娘 「片付きました」はーとまーく。ママに送る。
父 鬼かお前は!殺されるぞ!
娘 自分でも汚いと思ってんじゃん。
父 ママは思う。俺は思わん。
娘 怒られるのは?
父 嫌だな。
娘 はい、ママの勝ち。はい立って。
父 うー
娘 これ、いるものいれ。これ、いらないものいれ。
じゃ、清彦さんそっち。あたしこっち。
迷った物は捨てる事。1時間で終わらせるからね?
いちについてー、よーい、どーん

かたづけの曲歌いながら
片付けを始める二人。
いるものいれ、
いらないものいれ。
じょじょに曲に合い、コミカルな二人となる。
娘、段ボールにどんどん物を詰めている。
父、段ボールからどんどん物を出している。

娘 ストップ。
父 ?

曲消えていく。

三場■ラジカセ

娘 あたくしのしている事と
お父様のしている事って同じかしら。
父 同じよ同じ。
娘 、、、、、。

娘、段ボールにどんどん物を詰めている。
父、段ボールからどんどん物を出している。
たまに、スツールを作る。

娘 お父様?
父 なあに?
娘 あたくし、物置を片付けてるの。
父 そうね。
娘 お父様何してらっしゃるの
父 お父様も物置を片付けてらっしゃるの。
娘 そうかしら。
父 そうよ。

スツールをトンカチで叩く。トン。

娘 隙を見て釘打つのやめてくんない?
父 は?
娘 片付ける気あんの?
父 あ、本気の目。
娘 この段ボールが、何?
父 いる物いれ。
娘 こっちは?
父 いらない物いれ。

娘、いらない物いれを上空から逆さにする。
なんか小さな物、落ちる。
チョロキュー、走る。

父 あ。
娘 どゆこと?
父 えーと。やっぱこれいるわ。
娘 いる物いれ見せて。
父 、、、、。

娘、いるものいれっから「いる物」を取り出す。

娘 これ、
父 いるな。
娘 これ、
父 いる。
娘 これ、
父 ギリギリだな。
娘 これ。
父 セーフセーフ
娘 これ。
父 あー、いつかいるな。
娘 、、、、。清彦さん。
父 はい?
娘 あたしの考え。実演してもいい?
父 あ、どうぞどうぞ。

娘、いるもの箱のいらないもの箱のなかにあける

娘 わかった?
父 こっちの箱を、いる物いれにした方が良いと。
でかいしな。
娘 、、、、マッキーある?マッキー。
父 マッキー。はい。

娘、マッキーをどっかから取りだし、
「ゴミ」とかく。

父 えーと、『ゴミ』。
ちょっと言いすぎじゃないかこれは。
娘 きれいにするんでしょ?
父 ある国ではきれいの尺度が日本とは
娘 能書きは結構。
父 のうがき。
娘 捨てるか捨てないかじゃなくて、何ゴミかを考えて。

あ、これ。

ラジカセ発見。

父 おお!なつかしい!
娘 カセット?
父 わ、これなぁ。ラジカセ。知ってるかラジカセ。
ずっと、ダブルカセット欲しかったんだけどな。
ダビング出来るやつ。
結局シングルでずっと我慢してた。
トリプルってのもあったなぁ。テープ3つ入るの。
もう便利なんだかなんなんだかわけがわからない。
な。
娘 動く?
父 もう動かんだろ。んーと、燃えないゴミ。
娘 まったまった!まった!まった!
父 何。え?燃える?いや燃えないだろ。
プラスティックだよ?
娘 ほんとに動かない?電池?
父 いや、電源でも動くけど。生きてたら。
娘 動くかなぁ。
父 ひーちゃんエムデー世代だろ?
娘 ちょっとね。
父 ちょっと?なに?売るの?売れないよこれは。
あ、テープ入れっぱ。
娘 また?
父 え?また?

取り出す。

娘 貸して。(ひったくる)
父 どしたの?またって何?
娘 、、あん。
父 あん?
娘 ひらがなで、あん。
父 ひらがなで、あん。
娘 あん。(うん)
父 何言ってんの?あ、書いてんの?
娘 清彦さんの字。
父 だな。
娘 まただ。
父 だからまたってなに?
娘 阿部といい。あんといい。
父 は?
娘 阿部のみならず、あんまでも。
父 なにいってんのひーちゃん。
娘 わくわくすんね!
父 いや俺ついてけてないから。
娘 謎だね!あん!あんこ?あんこの歌?
そして、阿部!阿部さんの歌?
父 阿部ってだれ?それがわかんない。
娘 謎!わくわくすんね!
父 なぞめかしてんのひぃちゃんな気がする。教えてよ。
娘 カセットセット!
父 あ、セット。はい。
娘 試そう。電源ある?どっか。
父 何言ってんの。
娘 え?
父 ここ物置だよ?
娘 、、あ、、そーかー。(がっくり)
父 その段ボールの裏。
娘 あるんだ!(ぴきょーん)
父 わっはっはっは!ここ「俺の」物置だぞ?

段ボールの裏に変な電源。

娘 ほんとにあった!
父 ちなみに電気はとなりの山田家から
ひっぱって来ている。
何かあった時にはいつでも使いなさい。

電源を差す。

娘 電気供給!
父 なんかうらやましいなぁ。楽しそうで。
娘 スイッチ用意!
父 はい。用意。
娘 秒読み開始!
父 あ、テン
娘 ちゃーん
父 ナイン
娘 ちゃーん
父 エイート
娘 長い長い!
父 スリー
娘 ちゃーん
父 ツー
娘 ちゃーーん
父 わんーぬ。
娘 どろぉふぉふぉふぉ。
父 さんだぼばーどああごお。
娘 古い!

押す。ラジオノイズ、ザアアアアア(生音)

娘 あれ?
父 生きてた!
娘 でもざああって。
父 ラジオ機能健在!確認!
娘 確認!いらない!カセット機能カセット機能!
父 カセット機能スタンバイ!
娘 秒読み開始!
父 イレブン
娘 長い!
父 さんだぼばーどああごお。
娘 早い!

押す。

父 あ、動いた。
娘 まじで?なんか感動!
父 しっ、なんか聞こえる。
父娘 (ゴクリ)

録音による『まんがの案を考える』の声
ほぼ、ドラゴンボール

父消す。

娘 何今の。
父 わからん。 (シラ)
娘 清彦さんだよね。
父 わからん(シラ)
娘 清彦さんだよ。
父 これはあずかって置こう。
娘 絶対清彦さんの声だよ!今の!
父 知ってるよ!騒ぐな!
娘 何今の!
父 下田かげきに影響されたんだよ。
娘 下田かげき?
父 テープの録音をワープロに起こすから
えらい早さで本出すの。
奇妙なファッションした小説家だ。
いいともにも出てた。
娘 知らない。
父 男女の濡れ場はトイレで吹き込むんだその人。
照れて。
「男は荒い息を吹きかけられ、思わずあえいだ」
娘 聞きたくない。
父 真似してまんがの原案録音してみたんだよ。
娘 あ、あんって原案の『案』か!
父 不覚だった。なんで思い出さなかったんださっき。
娘 タイトルは?
父 たぶん
『7つ集めて龍の玉、セブンボールズオブドラゴン』だ。
娘 どっかできいたな。
父 だからボツになったんだよ。はい。燃えないゴミっ
娘 まったまった!まだ聞きたい!
父 恐ろしい事をいうな!
娘 もったいない!欲しい!
父 もったいない事あるか!消去!
あ、いっそ燃えてしまえ。
環境なんぞ知るか!マッチ。ライター。
娘 わー!待った待った!交換条件!
父 そんじょそこらの物とは交換せんぞ。
娘 ちょっと待って!

宝箱

父 なに?
娘 昨日すごい物を発見しました。じゃーん。実はこれ、
父 うわ!なつかしい!ひーちゃんの宝箱。
娘 なんで知ってんの?
父 秘密だって自慢してたろ。
娘 なんだその秘密。
父 バカなガキだ。
娘 うるさい。
父 あ、なるほど恥ずかしい手紙と交換か!
秘密同志!交換!
娘 (隠す)違う。
父 じゃなんだよ。

カセットテープ阿部。

娘 じゃん。
父 ?お。カセットテープ。
娘 うん。そして、ラベルには、漢字で、、
父 ?阿部?あ、阿部ってこれか!
娘 謎その2!わくわくすんね!
父 あ、これは
娘 間違いなく清彦さんの字
父 またか。
娘 はいばくりっこ!
父 、、、、、

差し出す。ばくる。

娘 やった!
父 ?
なんかこのトレードは分が悪くないか。
娘 そんな事ないよ。ほら。阿部あげたじゃん。
父 これもおそらく俺のだし。
娘 違うよ。あたしの宝箱に入ってたんだから。
父 そうか。
娘 そうだよ。
父 、、、いや!だってそれ、
この世に必要ないものだもの!
娘 思い出思い出。
父 誰にも聞かすなよ。
娘 個人で楽しむ。
父 それもやだな。
娘 そっちなんだろうね。
父 阿部?気になるな。
娘 あべ。昨日見つけたの。
父 阿部。だれだ。阿部さん。
娘 タイトルじゃない?まんがの。
父 「阿部」。なんだその漫画。
娘 ミュージシャンじゃない?
父 阿部なんて居た?
娘 阿部なつみ。
父 俺が?気持ち悪いだろ。
娘 阿部義晴。
父 だれ?
娘 元ユニコーン。
父 しらねぇよ。
娘 あべぃ!
父 知らねぇって。
娘 現在『氣志團』のプロデューサー。
父 へぇー。
娘 ネットで調べたの。阿部。
父 他には?
娘 阿部寛。
父 でかいやつか。
娘 阿部なつみ。
父 だからきかねぇよ。
娘 阿部麻美
父 妹だろ。
娘 聞いてみるしかないと思って。この阿部を。
父 阿部、、、。
娘 阿部。
父 阿部。
娘 あべあべ言ってても始まんない。
父 聞くの?
娘 よく言うでしょ?身から出た錆。
父 よけい聞きたくねぇよ。
娘 それとも
父 やっぱおかしくねーかこのトレード?お前聞けりゃいんだろ?
娘 うん。スタート。
父 あ

録音による声
『あ、はい、はい。あーあー。』

娘 清彦さんだ。
父 やっぱり。

『あーべまりーーぃいぃぃぃああああ』

父娘 !?

『あああああああああああああ。
そんそーんはらそんそんそんしーそーおおおお
はんそーんさらそんそんもそろそおお』

娘 うたってるよ?
父 、、、、、思い出した。

流れ続ける父のうた。
状況を思い出した父。

娘 あははははは、阿部!
父 止めよう。
娘 あははっはははあ

ラジカセをうばう娘。

父 あ!こら!
娘 全部きく!なまらうける!
父 止めろ!
娘 やだ。あははははは

ツバメの声。チチーバタバタバタバタ

父 あ?ツバメ?
娘 うん
父 今年も来たのか?
娘 ショックで産まれた!あはははは
父 産まれるな!

じょじょに父のうた上がり、暗
カセット、歌い切る。

四場■イヤホン

風の音、ビュウウウウウウ

SEチーチーギっギイー。

トントントン、トン、トン。
明。天井をみてる二人
父、トンカチの手を止め。

風の音、ビュウウウウウウ

父 ツバメの巣って、大丈夫かなぁ。ヒナとか。

イヤホンで聞いてる。

娘 あははっはははは
父 イヤホンで聞くな!
娘 ?

イヤホンはずす。

娘 阿部マリアって、ハーフだと思ってたの?
父 ちがう!

イヤホンつける。

父 おいっどっからイヤホンなんぞ。
娘 あはっはははっははっはは!
父 笑うな!
娘 (父をみながら)そんそもそんもーそもそー
父 歌うな!静かに聞け!
飽きたら返せよ?封印するからな。
くそ。電源なんぞ引かなきゃ良かった。
うらむぞ。山田家。
娘 逆恨み。
父 うるせぇ。聞こえてやがんのか。一生聞いてろ
娘 あ。
父 ?

娘、踊りだす。

父 ?
娘 あーべまりーいーあああ。♪

娘、大きく踊り出す。

父 どした
娘 はんそーんさらそんそんもそろそおお♪

さらに踊る。

父 どした、腹いてえのか。
娘 違う違う!

巻きもどす。イヤホンをとり。

娘 清彦さん清彦さん。ほら。行くよ?

録音の音。
『べまりーーぃいぃぃぃああああ』

父 個人で楽しめ!
娘 違う違う、この後。いくよ?
父 行くよって、どこに。
娘 いいから、さんっはい。

『そんそーんはらそんそんそんしーそーおおおお
はんそーんさらそんそんもそろそおお』

上手に踊る。

父 お。ははは。拍手拍手拍手
娘 ね?何これ?
父 あー。
娘 なんで踊るんだあたし?
父 変な質問だな。
娘 そんそんーのとこだけ。
父 そんな歌詞はねーけどな。
娘 なんで?
父 まだ思い出さないの?
娘 え?なんか知ってる?なんで踊るのあたし?
父 あんだけ練習したからだと思うよ。
娘 練習?
父 ヒント。幼稚園。
娘 幼稚園?
父 ヒント2。幼稚園はママの希望でキリスト系でした。
娘 キリスト系?
父 はい。
娘 ヒント終わり?
父 じゃ、ラストヒント。
俺がそんな趣味で歌録音するとでも思うか?
娘 思わない
父 答え。
娘 はやいはやい!自分で思い出す!自分で。

娘、イヤホンふたたび。

SEチっチ、ギーギー。

父 さ、作っちまお。
なんだかんだで先延ばしてきたからな。

トントン。トントントン。

娘 (思い出した。)(イヤホンはずす)
父 、、、最後のトンカチ仕事になるかな。
娘 、、。
父 ♪あーべまりーーやぁああ。
たーんそそそそんそーんそろそー。
はんそーんそろそんそんそらそーんそー。

トントトン、

娘、テープのスイッチをそっと切る。

父 ♪さーんそーんそろそろんそんそそろそーん。
トントトン、

SEチーチーギっギイー。

父 ♪あーべまりーいいやああ。

SEチーチーギっギイー。
曲聞こえてくる、『アヴェ・マリア(グノー)』

父 、、、、。

トンカチの手、止まる。

娘 、、、、、。
父 風強いな。
、、、、、。
巣、大丈夫かな。
、、、、、。
娘 思い出した。
父 アベマリア?
娘 幼稚園のクリスマス会でさぁ。
あたし、アベマリアで踊る事になって
父 おまえ家で練習するってうるさいから、
作ったわけだ。練習用アベマリア。心をこめて。
娘 どーせ、CD借りるのめんどくさくて
生声にしたんでしょ?
父 正解。
娘 ひどいね。
父 いや、ほんとのと違うとか文句言ってさぁ
1日で飽きると思ったんだよ。
甘かったね。発表会まで連日、
俺の阿部さんテープとひーちゃんの
コラボレーションだもの。
近所中に俺の阿部さんの歌だ。
娘 思い出した思い出した。
でもさー。あたし踊った記憶ないんだけど。
父 また余計な事まで思い出したな。
娘 覚えなかったの?
父 いやいや、完璧だ。さっき踊ったろ。
娘 なんでなんで?
父 発表会当日、ひぃちゃん踊る番になって。
いよいよアベマリアがかかった。
娘 かかった。
父 、、、ひとっつもおどんねぇでやんの。
娘 なんでさ?練習したのに。
父 なんか曲違ったんだよね。
娘 歌下手だったからだ!
父 違う!俺の阿部さんはかんぺき。
娘 そんそん言ってんのに。
父 うるさい。
娘 じゃなんでなんで?
父 曲ごと違ったの。
娘 は?
父 アベマリアっつってもさ。何個かあんだよ。
シューベルトのだの、グノーのだの。
アルなんたらだの。
俺歌った奴じゃないの流れたの
娘 じゃなに?あたしは?ステージでぼーっとしてたの?
父 ずっと踊る気でいた。
先生が舞台からひきずり降ろすまで。
娘 あかっぱじじゃん!
父 一週間口聞いてくれなかったのは初だったな。
娘 当然だね。
父 しかもさ。
娘 なに。
父 ひぃちゃん張り切ってんだよ。
娘 なんで?
父 ママ見にくるからって。
娘 、、、。

曲、消えていく。

父 いやいや、ブラボー初御披露目!(拍手拍手)
もっかい踊ってくれもっかい。
生声でいくか、あーべまりぃいい
娘 もおいいよ。
父 なにいまさらおこっちゃってんの?
許してくれよ。時効だろ?親だって間違う。
だってしらねぇもの、
アベマリアたくさんあるなんて。
娘 、、、あのさぁ。
父 ん?
娘 そんときってさぁ。
父 うん。
娘 結局来たんだっけ。
父 、、、、。
娘 ママ
父 えっと。いや。

ちんもく。

娘 清彦さんじゃないよきっと
父 、、、、
娘 1週間、口聞かなかった理由。

SEビュウウウウウウ

父 風強いな。
娘 、、、うん。
父 大丈夫かな。ツバメの巣。
娘 心配しすぎ。
父 だってさっき俺の歌で卵かえったろ?
責任感じちゃってさぁ。
娘 責任。
父 うん。

責任の意味を考える。

父 あ、人の心配してる場合じゃないか。
娘 そーだね。
父 、、。
娘 、、、、
そろそろ行こうっと。
父 え?どこ?
娘 出かけんの。ほこりまみれ。おふろ入んなきゃ。
父 え?聞いてないよ?
娘 言ってないもん。
父 えええ?!ひぃちゃん、父を置き去りにするわけか?
まだ全然片付いてないのに?
娘 、、、。
父 終わったら戻ってくる?
娘 遅くなるから。
父 あ、大学?
娘 、、違うけど。
父 デートか?
娘 違うよ。
父 あ!即答!
娘 人と会う約束あんの。
父 男だなこんにゃろう!やるな!殺してやる!
娘 そんなんじゃないよ。
父 そんなんじゃないくらいの男とデートするのか!
娘 いいじゃん別にどこいこうが。
父 名前は?名前。名前。
娘 聞いてもわかんないから
父 わかる。男なんてなだいたい名前で決まるもんだ。
結婚するならな、
伊藤、加藤、佐藤、そのへんにしとけ。
娘 よくある名前。
父 産まれながらによくある名前の男はな。
地道にやってく宿命をしょってるわけだから。
めったな事にはならん。
ちょっと珍しい名前だとするだろ?
産まれながらに珍しがられるから勘違いするわけだ。
で、ろくな男に育たない。
娘 小石川清彦
父 最悪。そいつはまんがで人生を狂わせるね。俺だ。
娘 あたしもなんですけど。
父 女の人はもともと
結婚したら名字なんて変るという前提で
生きているからな。
娘 偏見ー。
父 偏見じゃないよ。
だって名前変えないやつらは自慢するだろわざわざ。
女は名字じゃない。名前だ。名前。
娘 聖。
父 聖、いいだろ。この名前。
聖なる夜の子供だからな。聖。
けがれなくたっとい。そして、
人格、技芸に優れている人という意味もあります。
俺がつけました。俺が。
娘 はいはい。
父 だからデートはやめなさい!
娘 なんでそうなるの
父 父との貴重なひとときを
どこぞの馬の骨につぶされてたまるか!
娘 だから男なんていないって。
父 じゃ、誰だ。言ってみろ。ゆかちゃんか?
娘 え?だれそれ?
父 仲良かったろ。ゆかちゃん。近所の。
娘 近所?
父 ほら、おさげの。素直な。眼鏡の。暗めの。
娘 あ、ゆかちゃん!それ小学校ん時の話しでしょ?
父 ゆかちゃんか?
娘 はたちなんですけど。はたち。
父 もう友達じゃないのか?
娘 とっくに友達じゃないよ。
父 そっか。大学の友達か?
娘 そういうのしつこい父親は娘に嫌われるよ?
父 今までだってしつこくなかったためしはない!
娘 なに胸張ってんの。とにかく行くから。またね。
父 ひぃちゃーん。ちぇー。

着信、ピロロロ。ピロロロ

父娘 あ。

二人携帯チェック

娘 あ。あたしだ。
父 あ。無くした。
娘 なんで?
父 まだ携帯するくせが、つかんのだ。
娘 もしもし?
あ、どーもぉ!はい。はい。
ああ!いいですねぇそれ。
はい!行きます行きます。絶対行きます。
少し遅れるかもです。ごめんなさい。失礼しますぅ。
え?うふふ。はーい。
父 、、、、、、。
娘 あ、電池切れそう。じゃ。
父 なんだ今の。
娘 え?
父 「少し遅れるかもですぅ」なんだ今の。
娘 そんな言い方してないじゃん
父 「失礼しますぅ。え?うふふ。はーい」なんだそれ。
娘 いいじゃん別にー。
父 お前大学で変なサークルでも入ってんのか?
おちゃらけた、馬鹿ものどもの、
ま、まさか、合コン!
娘 合コンくらい誰でも行くよ!

父、おののく。

娘 おののきすぎ
父 合コンくらい誰でも行くよ、行くよ、行くよ。
娘; なにさ。
父 きいたなぁぁあぁあ
だいぶ前に間違って釘飲みこんで次の日
トイレでチャリンってした時くらいきいたなぁぁぁ
娘 良かったな!
父 だいぶ前にちいさな子供が俺のとこ来て一言
「おじいさん」って言ってダッシュされた
くらいきいたなぁああ
娘 もういいよ。
父 やり場がないなぁ。これ。
娘 そんな心配しなくていいよ。
父 するだろお!そんな超爆弾発言を堂々とされたら!
ここは、ヒロシマか?!
娘 、、、行く。
父 この国に、明日はあるのか、、。

娘、戸口に立ち止まり。

娘 安心していいよ。
父 できるもんか。この世は地獄だ。
娘 あたし、大学やめたから。
父 神よ、え?
娘 じゃね。
父 え?なんてったの?
娘 大学、やめちゃった。
父 いつ。
娘 おとつい。
父 おとつい?
娘 じゃね。
父 ちょっとまちなさいっ
娘 うわ、怒った。
父 え
娘 清彦さんなら怒らないと思ったのになぁ。
父 え
娘 ま、いいや。そんじゃね。
父 いや。怒ってない。
娘 怒ってるよ。じゃね。

開かない。

父 怒ってない。
娘 じゃね。
父 理由を聞きたいだけだ!
娘 じゃ!
父 待て!
娘 待たない!それじゃ!
父 話しをしよう!
娘 じゃ!
父 話せばわかる!
娘 じゃ!
父 今行ったら、後悔するんだからね!どした!
娘 開かない!
父 らしいな!
娘 なんで!
父 今ドラマで言えば
娘 喧嘩して飛び出す娘
父 戸口から呼ぶ父
娘 遠ざかってく娘
父 届かない父の声。
娘 ちょっと言いすぎたかも。
父 おれも。そんなシーンだろお!
娘 しょ。せい!は!ほっ
父 台無しだ。戸のたてつけごときで。
娘 開けてよ。
父 理由を話すと約束すればあけてやっても構わんがね。
娘 いい。
父 強情だ。
娘 はっ!ほいい!たぁ!たあぁ!タア!
父 愛ちゃんか君は。
娘 はーはー、
父 仕方がないな。よ。あれ?ほ!あれ?
ふあああ!あれ?があが!あれ?
娘 開かないんじゃん!
父 なんだ
娘 なんかひっかかってる感じ。
父 あ。
娘(父 もの干しざお(はしご)だ!
娘 はしごだ。
父 今意見かえたろ。
娘 はしごだ!軽くて丈夫な。軽く作るからだ!
父 それは幼きひーちゃんでももてるようにだなぁ。
娘 だれの物置片付け手伝ってると思ってんの?
父 昨日使ったまんまの人どっかにいたな。
娘 どこ?
父 おめーだこの。
娘 あたしのせい?
父 俺なかに早くいれろっていったじゃん。
娘 言っただけじゃん。入れればいいじゃん。
父 なんで?使った人は?
娘 ?
父 おめーだこの。(ポカ)
娘 (殴り返す)暴力!
父 君の方が断然暴力だ!
出したら片付ける。基本だろ?
娘 だって!
父 だってなんだ?
娘 だって!
父 だってなんだ?このだってだって星人が
娘 ひどい!!
父 だってだって星の人間は全員「だって」だからな。
もう言い訳がましいもんだから、
他の星に嫌われる嫌われる。
娘 だって!
父 はいなんですか?
娘 、、、なんでもない。
父 ♪あーりゃーりゃこーりゃーりゃ。
とーじこーめーられちゃった
なぜならそれは?
昨日出したはしごをー
かたづけなかったひぃちゃんのせい♪
娘 字余り!
父 どーすんだよー。
閉じ込められたよー。
白骨になっちまうよー。
しんじゃーうよーう
おさるさんのせいで。
娘 腹立つ!
父 あーあ。あーあ。このままおばさんになるんだ

携帯出す。

父 お。なんだ?知恵を使うのか?
娘 うるさい。
父 ははーん。
娘 あ、もしもし?ママ?
父 出た。
娘 あたし。うん。今ママどこ?事務所?
実はさぁ、どこかのおじさんのせいで。
ちょっとやっかいな事になってさぁ、
うん。あ、そうか。
あ、はいはい。わかった5分後。はーい。
父 困った途端ママだ。
娘 誰に電話しろってのさ
父 「失礼しますぅ。え?うふふ。はーい」
のあいつに電話しろ
娘 物置に呼びつけんの?やだよ!
父 とにかく座れ。ききたい事が盛りだくさんだ。

SEピロロロロ、ピロロロロ

娘父 あ、

二人探す。

娘 もしもしー。
父 (なかったんだった)
娘 あ、今電話しようと思ってたとこだったんですけどー
ちょっと今おかしな事になってですねぇ。はい。
30分くらい遅れるかもしれなくてですねぇ。
信じられないかもしれないんですけどー。
私今、実家の物置に閉じ込められてましてですねぇ。
はい。ええ。外の梯子が風で倒れて
ちょうどつっかいぼうになったみたいで。
いやいや、冗談じゃないんですよぉ。
あはは。ほんとにほんとに。
いや、ほんとですって。いやいや真面目に。
もしもし?信じないんですか?
いやいや、切らないでください切らないで。
父 ?
娘 あ。最悪だ。
父 どした。
娘 電池切れ。最悪だ。
父 切らないでっていいながら切ったおかしな人になったねぇ。
娘 笑い事じゃないよ。
父 そんな男、ほっとけ。
娘 だからそういうんじゃないんだって。
父 どーいうの?
娘 オーディション。
父 え?
娘 1次受かったから、今日、2次だったの。
父 オーディション?聞いてないよ?
娘 いえるわけないじゃん。
父 なんのオーディション?
聖子ちゃんとかか。
娘 古いよ。
父 歌手になんのか?
娘 違うよ。
父 なんのオーディション?
娘 司会とかナレーションとか。リポーターとか。
父 テレビか?
娘 そういうのもあると思うけど。派遣。
父 、、、。
娘 なにさ。
父 そういうののために大学やめたの?
娘 だけじゃないけど。

ちんもく。

娘 バイトだから。そういう。
父 どういう。
娘 まだ始めてないんだからわかんないよ。
父 事務所?
娘 派遣。
父 どう違うんだ。
娘 知らないよ。もう完璧落ちたし。
父 まだわからんかもしれないだろ。
娘 今日2次面接だもん。
父 さっきのって。
娘 事務所の社長。
父 あー、そうか。
娘 いいよ。
父 そうか。
娘 うん。
父 残念だったな。
娘 、、、、、。なにそれ。
父 え
娘 なにそれ。
父 いや、落ちて、残念だったなと思ってさ。
娘 思ってんの?
父 、、だって、だってほら入りたかったんだろ?
その社長のとこ。
娘 入りたかったよ。
父 でも、落ちたんだから。
いや、ひぃちゃんが落ちたっていうなら、
しかたないじゃないか。
娘 ホっとしてるんでしょ?
父 え?
娘 面接いけなかった事。
父 そんなわけないだろ。
娘 これで良かったと思ってる。
父 思ってないよ。
娘 思ってるよ絶対。
父 なんで俺がひぃちゃんのそういうの、
良かったと思わないといけないんだ。
俺が聞きたいのは、
どうして大学やめたかって事だ。
娘 同じですけど?
タレントとか芸人とか
そういうのになりたかったから、
大学やめたんですけど?
父 やっぱそうなのか。
娘 どういう意味それ。
父 え
娘 そういう理由だったら問題あんの?
我慢して経済学部で経営の勉強でもしてた方良かった?
興味ないのに?
自分のやりたい事やれって
清彦さんいつも言ったじゃん。
我慢して、そのうちママの会社手伝うって
思わせてたほう良かった?
父 そんな事言ってない。
娘 じゃどういう意味?
父 ママには相談したのか?
娘 なにそれ。
父 当り前だろ。学費出してんのママなんだから。
娘 そのうち言おうと思ってたの。
事務所に合格して、仕事するようになってから。
父 先に相談するのが筋だろう。
娘 なんで?
父 相談して、納得してからじゃないと、
ショック受けるだろ。お互い。
これから、二人で暮すんだから。
娘 、、、お父さん。
父 え?
娘 パパ。
父 なんだその呼び方。
娘 そう呼んで欲しいみたいだから。
父 いつもどおりでいいよ。
娘 なんでママはママなのに
なんで清彦さんはパパじゃないの?
父 え
娘 よく考えたら変だと思って。
この前ママに聞いてみたの。
たまたま会ったから。
父 話しすり替えるんじゃないよ。
娘 全然すり替えてないよ。
父 ママになんで相談しないんだって話しだろ。
たとえばそのときにでも。
2日3日で決めて決めたわけじゃないだろ。
大学やめること。
娘 勝手に決めるなって事?
父 そうだ。
娘 自分たちは?
父 え
娘 あたしに相談ひとつも無かったけど。

SEチーッチーギッギ

SEチーッチーギッギ

SEビュウウウウウウウウ

娘 風強いね。
父 、、。
娘 ツバメの巣大丈夫じゃないかもしんないね。
父 、。
娘 巣ごと風で飛ばされて、
父 、、
娘 どっか飛んでっちゃうかもしんないね。
父 、、、。
娘 そんで、親も巣、みつけられなくて。
戻ってこれないかもしんないね。
父 、、、。
娘 でも、なんも出来ないじゃん。
父 、、。
娘 なにも出来ないくらいなら、
心配しない方がいいよ。

SEチーッチーギッギ

曲『アベマリア(グノー)』

父 、、、ごめん。
娘 二人して。
父 、、
娘 なんであやまんのさ。

長いちんもく。

SEビュウウウウウウウウ

風の音と同時に暗。

父娘 あ。
父 、、、、なに?
娘 、、、停電?
父 うそ!、、どうしよ。
娘 どうしよじゃないよ。
父 困った。
娘 なんか探して。
父 なんかって?
娘 なんか。あかり。あ、懐中電灯、昨日おきっぱにしたから。
父 どこ?
娘 知らないよっどっかそのへん。
父 ちょっと暗くて見えない。
娘 だから探すんでしょ?
父 あ、そうか。
娘 清彦さん。
父 はい。
娘 、、しっかりしてよ。
父 、、はい。

曲、少し上がる

暗の中録音の声

『春になって暖かくなると、遠く遠く南の国、
フィリピン諸島やニューギニアの方から
何万キロも旅をして、ツバメがやってくる。
なんと、ツバメは同じ巣に戻ってくる。
小学3年生の時、ツバメが戻ってこなかった。
「今年は違う所に住んでいるんだな」と
あたしも父もガッカリだった。』

録音の中、なにかを探す懐中電灯の光。

『でも1ヵ月くらいしたある日、
ツバメが戻ってきた。
「ツバメは2度子育てするんだよ」と
父はニコニコしながら教えてくれた。
きっと2度目にうちの物置の事を思い出したに
違いない。
夏休みの自由研究は「燕について」となった。』

発見される、自由研究のノート。
それを見てる父、それどころじゃないと注意する娘。

『つがいのツバメは夏の間に二度の子育てをする。
一度に産まれる卵は3個から7個。
だいたい13日で卵がかえる。
食べ盛りのヒナのために、
親取りは1日になんと500回もエサを届ける。
子供たちが巣だって、
ちゃんと飛べるようになる頃、秋がくる。
ツバメはまた海をこえ、南へ行く。
燕の巣はそのまま残って、
空になった巣を見るのは少しさびしい気もするけど、
また来年、また来年あるからと父は私に言う。』

ろうそくがつく。

『燕が戻ってくる確率は10%。
燕が同じつがいで戻ってくる確率は5%。』

曲、静まってく。

5場■ろうそく

目、少し慣れる。

父 ものはとっとくに限るな。
娘 宝箱もやるもんだ。
父 うん。
娘 ろうそく集めてたんだね、あたし。しかもマッチまで。
父 火遊びしてたって事だろ。
娘 いいじゃん、今助かってんだから。
父 そーだな。
娘 少しはあったかいような気もする。
父 この毛布は、俺が発見しました。
娘 でもちょっと清彦さん占有しすぎ。
父 すみません。
娘 風、収まったね。
父 電気は戻らんな。
娘 うん。
父 今何時なんだろう。
娘 時計ないよ。
父 このまま発見されなかったりして。
娘 自分ちの物置で?
父 もとな。もと。
娘 なさけねー。
父 だなぁ。
娘 ヒナの声、しないね。
父 うん。
娘 、、何匹産まれたのかなぁ
父 え。昨日見たんじゃないの?
娘 まだ。
父 でも梯子出てたろ。
娘 清彦さんと見ようと思って。
父 そっか。
娘 そーだよ。
父 そーかそーか。
娘 にやけてんの?
父 にやけてるよ。

ちんもく。

娘 ろうそくと言えばさぁ。
父 俺もそれ、思い出してた。
娘 ここでさぁ、ママに怒られたなぁ。
ろうそくで遊んでて。
小学校入った頃。
父 その頃よく物置で遊んでたもんな、ひいちゃん。
娘 暗い小学生だね。
父 ひとりっこだったからなぁ。
ひっこみじあんで。人見知りで。
学校でもなかなか友達出来ないから心配したもんだ。
娘 ろうそくの火見るの好きだったんだねぇ。
火事になっておうちなくなっても知らないよって
ママに脅された。
わんわんないたの今でも覚えてるよ。トラウマ。
父 いやぁ。すまんかった。
娘 え?
父 ろうそく。
娘 どゆこと?
父 あ
娘 なんであやまんの?
父 やっぱ覚えてねんだ。
娘 なにを?
父 いやいやせっかく覚えてない事を
むげに思い出させる必要はない。
娘 ちょっとなにそれ。
父 いやいやなんでもないなんでもない。
娘 、、、えい。

毛布をはぐ。

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おうち時間を工夫で楽しく

たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。