小娘とファンキー 〜小娘編2〜

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そして毎週日曜日、スタッフさんが教室の開講準備を慌ただしく進めるなか、ファンキーな先生との個別レッスンがスタートしました。

先生は我が母に
「あなたの娘さんは素晴らしい才能の持ち主です。ぜひこの天才を世に送り出すために私にチャンスをいただけませんでしょうか…!」(小娘意訳)
と熱意を持って訴えたはずなのに、その様子たるや…。

ファンキーさんはバタバタと寝起きのむくみ顔のまま入室してくるなり

わりぃ!寝坊したわ、とりあえず隣のウエンディーズ行ってチリ買ってきてくれ!

と毎週わたしに悪びれもなく言いつけ、スタート時間はダラダラと押し、やっと始まったと思えば重たい思いをして担いできたギターは最初に運指の練習をするだけ。レッスンの大半はまさかのギターを使わないという、斬新なレッスン内容でした。しかし本来三十分のところ、一時間はやってくれていた手前、小娘は何も言えません。

毎日朝晩やるように言いつけられていた運指は大体30分くらいかかるもので、何気にダルい。そして不思議なものでサボった時は必ずバレる。というわけでほぼ毎週
「おまえ、今週もサボったな」
と指摘されることとなります。

ファンキーから音楽理論や技術はほとんど教わることはありませんでした。
「俺はお前に理論や技術を教えるつもりはない。それは自分でやれ、必要なら聞け」と宣言されていました。
そんなファンキーと小娘のレッスンは、

一、ある時はメトロノームに合わせて手拍子をうつ。しかし普通に打つのではなく、坂道を転がり落ちるスーパーボールを再現すること、という条件つき

二、かの有名な名曲、フライミートゥーザ・ムーンのボーカル部を歌のままギターで再現すること
つまり、ふらぁ〜いみ〜とぅざむ〜…(デクレッシェンド)みたいな感じや息遣いまでギターで演奏する、というもの。

三、70年代に活躍した有名バンドのギターリフをファンキーのオッケーがでるまで口で完コピする。(大体3週ほどかかる)そののち、それを完コピでギターで弾く

などなど。何を伸ばしているんだかよくわからんレッスンでした。

正直、ギター持ってくる必要あったか?と毎週思っていたし、こんなんで本当に天才になれんのかいと思いつつも、ファンキーと過ごす時間はゆるくてなんだか楽しく、気づけば小娘は高校生。月謝も自分のバイト代から捻出するようになっていました。

そんなファンキーは、小娘がバンドを組むことにずっと反対していました。
つまらないバンドなら本気ではやるな、といつも顔をしかめてぼそっと言っていました。
しかし、小娘はバンドをやりたい。
高校生の時は、ファンキーも顔見知りの年上のねーちゃんたちに混ぜてもらいコピーバンド初体験。
地元のスタジオでライブなんかもやってみたりしました。
スタジオのおっさん達からは、リズム感がすごい!こんなに後乗りグルーブだしてくる子は初めてだ!と絶賛され、70年代ロックばかり歌わされていた弾かされていた影響なのか、渋いギター弾くね〜!とお客のおっさんを沸かせていました。おかげで同年代の高校生バンドとは仲良しになれませんでした。

母から、好きなことは好きなだけやりなさい。でも条件がある。高校を必ず卒業すること。クラスで3位以内に必ず成績を保つこと。と言われていた小娘は、高校で必要な単位を計算し、最低限出席してバイトを掛け持ち、バイト代はほとんどライブ観賞やギターや機材購入に充てていました。この頃、憧れのフェンダーのストラトキャスターを初めて手に入れます。5万円がどれだけ大変なものだったか…。
成績問題はもともと家から一番近いと言うだけで学力的に余裕のある高校を選んでいたことと、趣味が読書で教科書は暇つぶしの愛読書だったため心配ありませんでした。

そんな小娘、本気でバンドをやりたくなります。
もっと本格的にやりたいです、とコピバンのねーちゃんに噛みついて嫌われ総スカン。調子にのってる、と地元のバンドマンコミュニティからも嫌われ、コピバンはクビになってしまいました。それでも本気でやりたかった。運命の彼に会いたいからだけでは説明できない、得体の知れない強い欲が湧き始めていたのです。

生意気だけでなく強欲というステータスまでも加わった小娘は、ファンキーに本気でやるバンドを組みたい、と相談しました。あれよあれよと月日は流れ、小娘は19歳になっていました。
しかしファンキーはやはり反対でした。

「才能あるギタリストがバンドに飼い殺され、将来を潰される様をみてきたからだ」と言います。

小娘はジョークで、
「お?私が才能あるってことですか?」とニヤつきながら茶化しますが、ファンキーは真面目な顔で

「そうだよ。お前はここまで育った。まだまだ伸びる。もっといいギタリストになれるよ。お前は俺の二番弟子だから」
と返してきます。

さすがの小娘も言葉に詰まってしまい、そのまま黙り込みました。
ファンキーはそんな良い雰囲気を
「運指もしないクソだけどな」とぶち壊してきましたが。

しかしNew小娘は強欲なのです。諦められません。

元々楽器屋の二階で運営されていたギター教室(のちに別ビルへ移転)だったこともあり、
受付の楽器屋の現役バンドマンのにいちゃん達のライブによく行ったり、バイト先の夜勤のにいちゃんのバンドを観に行ったり、大物外タレや、たくさんのアーティストのライブを観ました。

ライブハウスは小娘にとって、本当に魅力的なものでした。
受付のにいちゃんは、ステージに立っている時は本当にかっこよかったです。
夜勤のにいちゃんも、いつも肉まんをお客さんに買われないようにこっそり奥に引っ込めて廃棄を狙う人には全く見えませんでした。

自分もあんな風にオリジナル曲で都内で勝負したい、自分も仲間に入りたい、認めてほしいという気持ちが止められませんでした。

そしてついに、小娘は初めて自ら動きます。

続く

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