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仮ニートの石垣島旅2

次の朝、浅い睡眠から目を覚まし、外に出てみると小雨が降っていた。やはり雨が降ると沖縄でも少し肌寒い。テラスのベンチに腰を落とし、早朝の石垣島の空気を全身に感じる。東京でいえば5月くらいの気候だろうか、何となく春を感じる気温である。しばらく物思いに耽ったあと、身支度をして宿を後にした。ちょうど通学の時間と被り、学生達が登校している姿を見かけたので懐かしい記憶が蘇った。僕が学生時代のときは春は進学やクラス替えで新しい環境になり、心が弾んでいた気がする。新しい環境になるということでなんだかワクワクしていた。そういえば、社会人になってからはそういう環境の変化が全くなかった。毎年同じような仕事をやり続け、春になったとしても環境がガラッと変わることは少なかった気がする。転職を思いついたのもちょうど去年の春。もしかしたら春の気候につられて環境を変えたくなったのかもしれない。うん、これは今後が心配だ。

わからないフェリー乗り場

今日の目的地は与那国島である。石垣島からはフェリーで約4時間でつき、その航路は大変揺れると有名である。そう、昨夜の話に出た「ゲロ船」のことだ。しかも僕は乗り物酔いをするほうなので、宿からフェリーターミナルまで歩いている最中に一抹の不安を抱えていた。ただ、地図で示されたフェリー乗り場付近についても一向にそれらしい建物が見当たらない。石垣島から離島へ行くためにいろいろなフェリー会社が運行しているが、竹富島などの近場の島は石垣島フェリーターミナルという具志堅用高で有名な施設がある。しかし、与那国島はフェリーよなぐにという会社が運行しており、ターミナルが別のところにあるのだ。Google先生を頼りに歩を進めていくが全く見当たらない。コンテナが多く、倉庫街のような所まで来てしまった。こんなところにターミナルなんてあるのか?と不安になって歩いていると。小さな事務所みたいな建物があった。これはわからない笑。外観からもチケット売り場とは想像できない雰囲気である。しかもネットでは8時からチケット販売開始となっていたので、ちょうど8時に来たがそれらしい人が見当たらない。というよりなんか強面の人達が忙しそうに働いているだけだ。ひょっとして今日与那国島行きのフェリーはでないのか?と不安になりながら向かった。到着すると事務所らしきところがあり、声をかけた。どうやらフェリーは運行するようだ。早過ぎてまだ誰もいなかったとのこと。飛行機は満席なのにフェリーは空いてるんだなーと思いながら往復チケットを購入した。

石垣島にもコーヒー農園がある

出航は10時のため、一度繁華街へ戻り、空いているコーヒー屋に入った。何気なくコーヒーを注文すると何と石垣島産のコーヒーであった!石垣島に珈琲豆農園なんてあるのか。少々驚いたが収穫数が少なく、このお店でも他の豆とブレンドにして出しているとのこと。生豆状態であれば農協でも売っているとのことであったので、試しに買いに行ってみようかと思う。ただ、値段は100g2000円以上。ブルーマウンテン並みの値段である。コーヒー好きの僕としても自分で焙煎はしたことがないので、ドリップパックがあれば購入することにした。しかし、もうそろそろ船の出航時間になるので珈琲豆はまた後日とし、フェリー乗り場へ急いだ。

ほんとにゲロ船?

フェリー乗り場について、船を探したが、これまた立派な船である。中も清潔感があり、トイレや座席も相当綺麗で過ごしやすい。もしかしてゲロ船なんて冗談じゃないか?と安堵の気持ちになった。この日は乗船客は少ないらしく、僕を含めて20人にも満たないようであった。おかげで座席を広々と使えるので快適に過ごせそうである。そういえば船は旅行以外で乗ることがない。というより、主に離島へ向かう際に利用することがほとんどである。そのため、いつも出航前はワクワクする、少しずつ遠くなる街を見つめながら海風に当たるのは旅している感じがして良い。飛行機や電車よりも時間はかかるが、非日常を味わうにはもってこいの乗り物である。汽笛が鳴らされると出航の合図。与那国島へ向かう。特に今日は人が少ないので外のベンチも空いている。ゲロ船と名前だけが一人歩きしているが、序盤の段階では相当気持ちのいい航行である。

ゲロ船の本領発揮

出航してから数十分後
常に重力がかかるような、遊園地のアトラクションに乗っているような、とにかく嫌な揺れが僕を襲った。ほんの数分前までは心地よかった風が今は生暖かくて気持ち悪い。座っているだけでも相当な重力がかかる。やばい、ゲロ船が本領発揮してきた。何となく胃の中から何かが込み上げてきそうな気配がする。このまま座っていてはいい結末は迎えないと判断して、近くの洋室へ避難。ここは2段ベットのようになっていて横になることが出来る。せめて横にならなければさっき石垣島のカフェで食べたハムチーズトーストを全てこの船に置いてくることになる。横になると幾分か気分が楽になった。
何とか与那国島まで持ち堪えられそう。しかし、内装は3000円代とは思えない作りの船だが、乗船時に強烈な揺れを予測させず、初見客を油断させるための巧妙なトリックに思えてきた。まんまと僕もそれにハマってしまった。恐るべし与那国、立っていることすら困難である。

旅の理由は人それぞれ

しばらく眠っていると船の客男性が大声で電話しているので起きた。聴きたくなくてもものすごい大声で感情的に電話しているので会話が聞こえてしまう。どうやら将来の方向性の違いで別れ話をしているようだった。俺は諦めたくない、これで終わりにしようと話している。正直僕は気分が悪過ぎたので、大声で話すのはご遠慮願いたかったが、このゲロ船と呼ばれる船で強烈な揺れに遭いながら自分の感情を大声でぶつけるのはどういう感情なのか?自分が何なのか、自分を見つける。自分のできること、できないことをはっきりさせると話していた。今僕ができるのは大人しく寝ていることだけなので、立って電話している彼はずいぶん色々なことができている。それでもまだ、自分の可能性を疑い、模索しているのだろうか。この気分の悪くなる状況で前向きな話をしている彼に幸あれ。後静かにしてくれ。相反する思いが僕の中で交錯していた。きっとこの船には何かしらの強い意志を持って乗船しているのだろう。その点、僕はなんて中身のない乗船理由だろうか。いまだに与那国島で何をするか決めてない。反省して、与那国島情報をリサーチしたがきもち悪くてすぐにやめた。その間、その男性はしきりに真実を明らかにしたいと話していた。なんだったのだろう。

ミスった宿選び

その後再び眠りにつき、気づいたら与那国島に着いていた。なんとか持ち堪えられたようだ。ここで、一つ与那国島に行く際の注意点なのだが、与那国島へのアクセスはフェリーか飛行機の2択だが、お互いの乗り場は結構な距離がある。そのため、当然利用する交通手段の乗り場付近で宿を探すのが基本である。しかし、僕はフェリーで来たにも関わらず、空港側(租納)に宿をとってしまったのである。そのため、宿までは自力で何とかしなければならない。歩いたら1時間以上かかる。もしかしたら宿の人が迎えに来てくれているかもと淡い期待を持っていたが、それらしき迎えは来ていなかった。焦った僕は急いでレンタルバイクを借りた。港から五分ほど離れているところにあり、たどりついたが全く人気がない。不安になりながらも、御用の方はチャイムと書いてあったので押してみた。そうすると、店の人と思わしき女性が出てきて親切に対応してくれた。何と残り一台。本当に助かった。しかも一日中2000円で次の日のフェリー出航時間まで借りてていいとの事。なんていい人なのか。旅は人情とはこのことだ。原付バイクという移動手段を得た僕はもう無敵だ。快適にバイクを飛ばし、与那国島の観光を楽しんだ。まず、初めに驚いたのが、いたるところに放し飼いの馬がいる。ほんとに放たれているからびっくりである。最初は野生かと思ったが、与那国島は牧場があり、島の半分ほどで飼育しているとのこと。ただ、住宅がある地域へは立ち入れないようになっている。つまり、牧場の中を僕がバイクで通っていることになる。ほんとにいたるところに馬がいるので段々見慣れてきてしまうほどだ。写真を撮っていても自分が北海道にいるのではないかと錯覚してくる。さらに、もう一つのスポットであるドクターコトー診療所についた。かの有名なドラマの舞台となった場所だ。ちゃっかり入場料300円が取られる。しかも無人である。それでも結構なお金が入っている。今日だけでこんなに来たのだろうか?こういうシステムでもやっていけるのが日本のいいところである。しかし、ここはほんとに眺めが良かった。診療所の窓からは美しい海が広がっている。もし入院したとしてもここならば心地よい朝が迎えられそうである。

仮初の日本一

続いて、日本最西端の地へ向かった。ここは日本の1番西側、つまりぼくは今日本に滞在する人類の中で1番西にいることになる。これは感慨深い。一時だが日本一になった気分だ。平日だからなのか周りに人もいないので好きなだけ日本一を堪能できる。ただ、周りに何も無いのでしばらくすると飽きてくる。日本一の座を明け渡すのは心惜しいが、他にも観光したいところがある。心の葛藤がありながら、ものの数分で日本一の座から陥落した。
また、与那国島は日本の最西端であることから夕日が1番最後に沈む場所でもある。せっかく来たのならばこれを拝まなければならない。しかし、宿の食事の時間との兼ね合いで見ることができない。それとのなく宿の人に夕食時間を遅くしてくれないかとお願いしてみたがあっさりと却下されてしまった。宿側も数々の旅行者と同じようなやり取りしてきたのであるから僕なんかでは太刀打ちすることができず、あっさり交渉失敗であった。

南国はやはりいい

はっ!と目が覚めた。宿へ戻り、夕食をいただいてからオリオンビールを飲んでいるまでは記憶にあるのだが、きっと寝落ちしてしまったのだろう。夜風に当たろうと外に出て、驚いた。めっちゃ星見える!ほんとに圧巻の星空である。僕の持っているスマホではうまく写せないが、すごい。なんなら気持ち悪いくらい星がある。呆気に取られてしばらく星を眺めて物思いに耽っていた。思えばだいぶ遠くまで来たものである。急に時間が空いたからと急いで決めた割にはナイスなチョイスだと我ながら思う。昔から一人旅は好きだったけど、夜はどこか孤独を感じていた。1人で居酒屋に入ったりすることもなく、次の日の予定もパンパンに入っていたので早くに寝てしまっていた。星を見上げる余裕なんてなかったかもしれない。その点、島に来ればそこまで見るものは多くない。だから時間に余裕がある。こうやって空を見上げながら今までの自分とこれからの自分のことを考えているのは何だか大人になった気がする。

ありがとう与那国

朝起きて外に出てみる。風が強いが心地いい。南国に移住するとはよく聞く話だが、その気持ちも今ならわかる気がする。どこかでラジオ体操の音も聞こえる。朝食まで少し時間があるので、近くの神社に行ってみる。御朱印がもらえるかと思ったがだいぶ東京とは違う印象。もらえなそうであった。朝食を、食べ終わった後はすぐにチェックアウトし、与那国島の東部へ向かう。道中風が強く原付だとひっくり返りそうになる。ただ、景色がいい。辺り一面に馬糞が散らばっているが、馬がいることで北海道にいる気になるし、どこまでも続く水平線がいい。一人旅をしている感じがあり、冒険心がくすぐられる。何度もヘルメットが吹っ飛びそうになりながら、この景色に酔っていると、あっという間にフェリーの出航時間が近づいてきたので、急いで港に戻る。レンタルバイクを返すのが遅すぎて「心配したわー、もう船出るよ?」とおばさんが脅してきたのでダッシュで港に向かう。ギリギリセーフ。与那国島は、また来たいと思わせる島であった。さらば与那国、よろしくゲロ船。今度は飛行機で来よう。

簡単には帰れない

ゲロ船は帰りの方が揺れがすごかった。波にぶつかるたびに船体がホップしている。ホップした後、船底が海面に強く打ちつけられるので、その衝撃で船体が地震のように揺れる。これがずっと続くのかと思うと、気が重い。ほんとに重力のかかり方が緩いジェットコースターのようだ。何よりうるさい。船全体が軋んでいる音だろう。実際そこまで大袈裟ではないのかもしれないが、乗っているとそう感じてくる。まず、トイレに行きたくても何かに掴まらないと真っ直ぐ歩けないのだから、相当なもんである。結局僕は再び洋室で寝転んで石垣島まで耐え続けた。

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