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「ピアノシュラハトIII」配信をより深く楽しむ方法

「Pianoschlacht III ベンヤミン・ヌス ピアノリサイタル 浜渦正志の音楽世界」の視聴、ありがとうございました。1月12日(金)の23:59まで視聴できますので、ご覧になってない方も是非どうぞ。配信期限はあと2日ちょっとですが、これからの方、もう一度ご覧になられる方に、より楽しんでいただけるよう、解説や裏話を書いておきたいと思います。

・Pianoschlacht IV 開催決定
先に予告からですみません。配信動画の最後のところにありましたように、本年9月に、東京、兵庫 、北海道で「Pianoschlacht IV」を開催することになりました。今回は室屋光一郎さん(ヴァイオリン)と結城貴弘さん(チェロ)にも演奏していただきます。室屋さんはレコーディングでは数え切れないくらい弾いてきてもらいましたが、演奏会では初めての登場です。日程は、伊丹が9月14日、帯広が9月22日、東京が9月23日を予定しています。詳細は決まり次第、SNS等でお知らせ致します。

配信映像をさらに楽しむ方法

・SONY α CLOCKシリーズ
配信に当たって、今回は曲名に正式な世界遺産名までテロップに入れました。本当に美しい演奏で、多くの方がベンヤミンは技術やパワー、情熱だけではない、「繊細である」ということを感じられたのではないかと改めて思いました。また静かめの曲であれば何を弾いてもそうなるというわけではなく、劇伴系の曲ではこんな感じにはならない気もします。α CLOCKはヴィジュアルコンテンツではありますが静止画メインの展覧会的な要素もあって、音の付け方も合わせるというより「語る」ような感じで、振り返ってみると結構特別な位置づけのプロジェクトだったのだなと感じました。その意味でもこれからも続いていってほしい企画です。
SONY α CLOCK 公式

・ルイス・パウロ(丸山珈琲 Discover Coffee Project)
α CLOCKと同じく、世界の素晴らしい風景を撮影した映像コンテンツの音楽ですが、こうやって聴くと全く違う分野の独立した存在に感じます。珈琲農園の人々の生活にもスポットを当てており、また先にあった映像に合わせていくというフィルムスコア的な作り方をしていて、それだけで随分違うものになるんだなと思いました。揺らぎのある演奏は本公演中最高の完成度ではないでしょうか。

・Sanzui
実は最初はこれをプログラムの先頭に持ってくる予定でしたが、ベニー(ベンヤミン)の希望でペース配分を考慮し、Etudeの前に持ってきました。さすがに慣れているだけあって、特に第一曲の「Ka(渦)」は習熟度が高かったと思います。私が初めてベニーに書き下ろした楽曲で、初稿でディレクターに「もっと難しくしてほしい」と言われたのは非常に大きなトピックでした。「難しくてもOK」→「自由度が上がる」→「発想が広がる」…と、その後の製作や活動に大きな影響を与えました。また今回は「En(淵)」のエクストラパートが世界初演となりました。久々に聴いて「結構面白いかも」「Zen(漸)に繋ぐ役割を持ってる」と感じ、Sanzuiは3.5曲か4曲から成る作品と捉えてもいいなと思いました。そして「Zen(漸)」はやはり好きな曲です。表題をしっかり設定して作ったものは気に入ったものになりやすいです。終盤の右手のGの音が何度も首を突っ込むように登場するところが、「思った以上に崩壊の速度が速く、屋台骨が折れていく様」を表しているようで、一番のお気に入りです。やはり「小馬鹿にする演出」はメジャーコードが最強です(自曲比)。

・Etude Op.4(抜粋)
この曲への思い入れは大きいです。10年も前の楽曲ながら未だに楽譜が(細々とながら)売れ続けていて、また森下唯さんら世界中の演奏家の方が弾いて下さっていて(最近もイギリスの演奏家の方が音源を作られていたり)本当に有難い限りなのですが、ゲームやアニメや映像などの媒体にも何にも紐付かない楽曲ということで、フィルターのかからない評価をいただいている感が何より嬉しい…というわけです。そしてこの10年でベニーや様々な演奏者の「ベニーの演奏をスタンダードとして、どこまで解釈を広げるか、生み直すか…」みたいなものも感じられるようになってきて、「最初に作った状態が完成で、その次はアレンジ」というゲームやアニメと違って、じわじわと成長していくところがまた自分にとって希有な存在になっています。
弊社楽譜の数々

・Le Fleur(IMERUAT)
ベニーは時折、IMERUAT(私とMinaのユニット。noteの過去投稿で何曲か触れているので読んでみて下さい)の即興演奏をしてくれます。彼のYouTubeにもあります。「それ、そこはちょっと違うかな」とか「いや原曲のイメージはこうなので…」みたいなことがまるで起きないので、インプロヴィゼーションであっても彼に安心して預けることが出来ます。
Le Fleur (YouTube)

・ライトニングのテーマ〜閃光
原曲をかなりストレートに再現したアレンジなので、本公演の中で最もカジュアルに聞こえる楽曲だと思います。ベニーもそんな感じで弾いているように感じます。そして最後にきちんと締めているのが最高に面白いと思います。ピアノシュラハト4ではまた弦トリオをやるかもしれません。あれこそベニー向けに書いたものなのでもう一度聴いてみたい気がします。

・女神の騎士(FFXIII-2)
原曲は、例えばサビは二分音符で一段ずつ上り詰めて「復興」していくイメージだったり色々やってるんですが、ラストは「どうせ欺瞞だらけになるんだろ、チッ」と吐き捨てるようなギターで終わっており、未来を描くような構成になっていました。なのでピアノアレンジでは自然とその先を描いてました。終盤の頂点部は「目標に辿り着いたんかなこれ…?」という感じに処理されていて、また最後は枯れ草やら花なんかが時折揺れているだけみたいになっています。こういった背景や意図を踏まえて聴いてもらえると「原曲を再現する系」のアレンジとまた違ったものを感じてもらえるかもしれません。作ったのは2011年の春先です。さすがの名ディレクター、ミーティング中に奥ゆかしくぼそっとしゃべるだけで曲想を浮かばせ、帰り道で脳内完成させてもらいました。この曲については3年前に下書きしたまま放置してた長大なnoteがあるのでそのうちまた。

・希望与えし「戌吠の神楽」
ハンドクラップのところには元々は「Kick」と書いていました。ベニーは稀にペダルを蹴り上げるようなパフォーマンスをすることがあり、「それくらいの何かをしてほしい」という意味でとりあえず急ぎ書いて、あとは相談しようと思っていました。これまたやはり相談するまでもなく、明日館の空間にも合う想像以上の回答で驚きました。また楽譜のタイトルは「K I H S」としました。これはSigma、Harmonics、Inuboe、Kaguraの頭文字を逆に並べたものです。万一客席から譜面が見えてしまったら…、練習中に誰かに覗かれたら…、サプライズだけは成功させないと…という心配から、異常に警戒してそうしました。曲のラストは「目を覚ませ!」「浮かれんな!」と上官にスリッパで後頭部を叩かれたくらい不条理に曲調の違う『穏やかな音色』の展開を持ってきています。(スリッパの表現の引用「オロッコ物語」波木里正吉 著)

・プレリュード(FFXIII)
映像編集をしている時に気づいたのですが、後奏でベニーが旋律を一緒にハミングで歌っています。本人に聞いたら「最近よく歌いながら弾くのでそうかも?」とのことでした。ピアノに共鳴している何か他の音としてはちょっと変なので、多分そうだと思います。よろしければ聴いてみて下さい。

・Mißgestalt(サガフロンティア2)
溜めがすごかったと思います。…意外と他に書くことが思いつかないのですが、それでもう十分だと思います。

・天翔ける翼(アンリミテッドサガ)
後奏が長いので歌のロングトーンを書き足しました。書き足したら書き足したで、もう2小節くらい欲しくなったりします。柏原さんとはレコーディング以来一度もお会いしていませんでした。もう20年以上経ってしまいましたが、素晴らしいオペラ歌手になっておられて驚きました。サプライズについては弊社社長と「俺がMCしてはけて…そこですーっと出て行ってもらって、誰?ってなって前奏が始まって…」と繰り返し想像して楽しんでいました。ベニーの既にひと仕事終え…つつある感じも素敵でした。

・δ17
旋律やコードは変化していくのに、最高音だけソ(G)のまま一貫して変わらず塞がれ抑えられ、ままならない時間が続きます。最後の諦めきった瞬間に一つ上(全音)のラ(A)に転がり出ます。ただの一歩(全音)が大きな意味を持つこともあるし、粛々と悶え続けることに意味がないとも限らない…みたいな感じの曲です。この世にたった一つ「意味がない」ことがあるとしたら「意味あるんですか?」と反射してしまうことかもしれせん。ちなみによく「そんなことを考えて作ってるんですか」と訊かれますが、ほとんど何も考えて作ってないはずです。じゃあこういった話は後から解釈したものかと言うとそれもそうとも言い切れません。言語化できないようなことを適当にやっていて、あとで翻訳した感じなのかもしれません。そんなわけで、なるべく「ソ」の音を弾いてる手元が見えやすいように編集しました。今回のセットリストの流れを考えると最後はこの曲しか思いつかず、α CLOCKシリーズを多数演奏してもらったにもかかわらず、最後に特別枠で持ってきました。

最後までご覧頂きありがとうございました。



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