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商品デザイン開発で考えてること

独立後、初めて手がけたプロダクトであるbtrailという商品の開発ストーリーを書いていきたいと思います。

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キッカケは足立区で樹脂切削会社『オーエム』の大村さんと、あるイベントでの出会いから始まりました。ちょうど同年代であったのもあり、加工をお願いしたりデザインの意見を求められたり、気軽に相談しあえる関係になっていきました。
会社自体は、OEM(企業からの下請け)をメイン事業とする、例えば機械の中に入る部品であったりする樹脂素材の切削加工を得意とした町工場でした。

中小企業もブランディングを強化していこうという時代の雰囲気が広まり始めていた頃、何か自社商品を開発していきたいとの相談を受けました。
初め求められたことは、工場の技術を使って作れるBtoC向けのプロダクト小物を作って売り出したいとのでした。

step1: 調査とリサーチ

そもそも樹脂加工業界の知識・現状を調べることから始めました。
初めは何かアイディアを求めたわけではなく、クライアントの置かれている状況を理解することで、今後一緒に開発をしていくとき同じ意識で会話できればとの思いからでした。

そこで改めて理解したことは、素材問わず加工は人件費の安い海外に移行して日本の加工業は縮小傾向にあること。
その中でも、急を要する加工や、少量生産、職人技といわれるオンリーワンの加工は、人件費の安くない日本でも生き残っているということでした。

step2 : アイディアブレスト

自由度が高く、何でもやって良いとは聞こえが良いもので、一体全体、何から手をつけて良いか?
手始めにやったことは、なぜ中小企業が自社商品を開発するのか? その目的とゴールを、外部のクリエイターだからこそできる客観的にそして自由に仮説を立てることから始めました。
そこから見えてきたフォーカスしたい点、やるべき点、またネガティブ要素などのキーワードが見えてきました。
その中で、キーワード『このでしかできない加工を使ったプロダクト』を計画すると、どうしても高価格帯になってしまうなど問題点が見えてきました。それでも可能性があり機能してくれそうな、分野のカテゴリーに絞って商品開発をしていこうと、進むべき方向性のヒントを得ることができました。

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当初提案したレンダリング

step3 : デザインプロセス

今まで出てきたキーワードをもとに、それらを組み合わせ商品開発カテゴリーとデザインを考えていきました。クリエイティブの感覚的な判断だけではなく、市場リサーチや統計などで裏付けも考慮してアイディアを複合的に考えていきました。
それまでの下準備をしてきた上で、今回は、知育玩具でありながら、子供が成長して必要性が薄れても美しいオブジェにもなるプロダクトをデザインしていこうと決めました。

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実際には、溝や穴の加工が施された透明のアクリルブロックの上からビー玉を転がす道を作るという知育玩具。透明度を維持しながら高精度で樹脂を加工できる工場の技術を存分に入れ込み、透明ならではの光の屈折や透過によるオブジェとしての美しさを両立するよう計画しました。

step4 : デザイン戦略

アイディアからデザインまでをクライアントに提案し、修正など繰り返しながら、実際に製造フェーズ進むんだところで、材料特性や加工方法など見えていなかった壁が立ちはだかります。それでも工場の職人に頑張ってもらい、なんとか形にすることができました。しかし、やはり小売店を通じた販売をメインにしていこうとすると単価が高すぎて、気軽に売れるものではなくなってしまいました。

クライアントと共に、プロジェクトの目的とゴールを見直し、販売戦略の路線変更が必要でした。加工技術力の向上や、大量発注によるコストダウンの可能性などの、不確定な解決策は今後の課題としながらも、まずは発表することを優先しました。

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当面の共通認識として今回の商品開発の目的を、自社の技術を伝えるためのBtoBとしても使える、加工サンプルにもなるプロダクトと捉え直すことにしました。つまり、このプロダクトは『うちの会社はこういう加工もできますよ』と伝える営業ツールにも活用しようということです。

step5 : 結果と振返り

プロジェクトを通して都度、目的とゴールを見直しながら臨機応変にピボッドさせることで、その後オーエムが足立ブランドに認定されたり、国内外の展示会で発表できたりと一定の役割を果たしつつあるかと思います。最近も、他のクリエイターと知合い、コラボも積極的に行っていると聞くと心強く感じています。
商品開発が、もちろん沢山売れて企業が稼げて、デザイン事務所にもロイヤリティという形で還元されることは大切だとは思いますが、色々な方面で発注者であるクライアントのために我々デザイナーがサポートできることがあるんではないかと感じています。

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