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窓から見える景色、世界とのつながり

「あなたの会いたい人は?」と聞かれて、ぱっと思い浮かんだのはひいおばあちゃんだった。104歳という長寿を全うして、僕が小学校に入るよりも前に亡くなった。死ということに触れる初めての体験だった。

不思議と悲しいとか寂しいという気持ちはなかったように思う。お葬式の独特な雰囲気はちょっと窮屈だった。その時食べた豆腐がすごく美味しくて、かるかんという和菓子に出会ったのもこの時だった。

帰省すると、一目さんにひいおばあちゃんに会いに行っていた。ひいおばあちゃんがいる部屋に向かうのだ。晩年は歩くことも不自由だったので、基本的に寝たきりの状態だった。

それでも、刺繍が好きで、遊びに行くと、ひいおばあちゃんがいる部屋では、いつもテレビがついていて、正方形の薄いガーゼのようなハンカチに、いろいろな色の糸を縫っていた。

おそらく内側から外側に向けて、四角く縫っていたのではないかと思う。ある時、母親と一緒に、ひいおばあちゃんに挨拶に行った時に、ふと「ずっとこの部屋にて、つまらなくないね?!」と母親が尋ねた。

すると「わたしゃ、ここにあるテレビと窓から見える景色で十分なんよ。」と答えていた。その時のやりとりは、今でも自分の中に残っている。こんな風に歳をとりたいなぁと、小さいながら思ったのだった。

当時は会いに行っても、母親にただくっついていっているだけで、自分で何か話すということもなく、何か質問されたことに答えていただけだったのだと思う。

そんなひいおばあちゃんと、今話をしたらとても楽しいんだろうなと思う。もう叶わぬことではあるけれど、生き地引とはまさにひいおばあちゃんのような存在なのだと思う。そんな風に歳を重ねたいと思う。

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