見出し画像

三日間の箱庭(36)攻防戦、第二幕(2)

前話までのあらすじ
 極秘のおとり作戦は成功したかに見えた。
 浜比嘉青雲を乗せた観光バスは、ヒムカへ向かって走る。
 そこには尚巴と麻理子の姿もあった。更に、安藤と武藤、両刑事の作戦により、クロスライトと小鉢を始めとするテレビニッポンスタッフも乗り込んでいる。

 クラムシェルを騙すことは出来たのか?

 第二幕の戦い、火蓋は切って落とされる。


■攻防戦、第二幕(2)
 後部座席に座る黒主来斗は、安藤たちと浜比嘉の話を聞きながら車窓を眺めていた。

-4日目への希望、ヒムカか、そんなものがあったんだ。そんな可能性があるのなら、僕は・・・

 4日目の可能性。そんなものがあると知っていたら、自分はあんなことを、3日間が全てとか、そんな考えを持っただろうか?来斗はそのことばかり考えていた。無意識に親指の爪を噛む。

-まただ、ついやっちゃう。

 悪い癖だと思いながら、来斗はヤスリを取り出して爪を整えた。ぼんやりと外を眺める。その瞳には、車窓を流れる宮崎の景色が映っている。
 窓の外には山々が連なり、広大な平野と共に宮崎の県土の大きさをうかがわせる。そして次々とバスを追い抜いていくツーリングの車列。のどかな田園風景の中、風を切って走る大型バイクは、かっこ良かった。

-高校生になったら免許を取って、乗りたかったな、バイク。

 クラムの中心、教祖としてのライトクロスの顔は、ただの中学生、黒主来斗に戻っていた。

「そろそろです!皆さんご準備を!」

 運転席の警官が声を張る。車窓には田畑が広がり、その奥は山々が連なる。どこにでもありそうな田舎の景色だ。そして見えてきたのは、これもどこにでもありそうな役所然とした建物。大きさはあるが、平凡だ。ただ、その平凡さに似合わない巨大な電動門扉が異様だった。

 3台は門扉の前に停車した。観光バスは門扉に向かって停まり、2台のマイクロバスは道路にはみ出して停まっている。
 門扉を施設内の職員が開けることはない。開けられるのはキーを持っている人物だけだった。
「浜比嘉教授、お願いします」
 安藤に促され、浜比嘉は胸の内ポケットからワイヤレスキーを取り出した。キーには生体認証が掛かっている。
 浜比嘉がキーのボタンに手を掛け、観光バスの全員に緊張が走ったその瞬間だった。

 ズドォーーンッ!!

 轟音と共に大型オートバイがバス前方のドアを突き破った。運転席の警官はバイクの前輪の下敷きになっている。もう走行は不可能だった。

 オートバイから降りた男は、ヘルメット以外にもプロテクターを付けているようだ。肩や胸が異様に膨らんでいる。男は通路に立ち、手には拳銃のようなものを構えている。同乗している警官2名が前に出て応戦した。車内に銃声が轟く。男の胸や腹に命中しているが、やはり防弾性能を持っているようだ。男は倒れない。一方、男の銃弾もバスの座席に阻まれて当たらなかった。残りの警官2名も銃撃に加わる。
「武藤刑事!教授を外に!!」
 警官が応戦しながら叫ぶ。
「よし!安藤さん、一緒に!!」
 安藤が身を呈して浜比嘉をかばう。武藤はバス中央のドアをこじ開けようとするが、運転席からの操作なしでは上手く開かない。
「武藤さん!!俺も!」
 尚巴が武藤に加勢する。ドアは軋みながら開いた。安藤、武藤に囲まれながら浜比嘉は外に逃れた。続いて尚巴と麻理子が、そして来斗がクラムのふたりにかばわれながら外に出る。
 その来斗の目に、数十台のバイクが映った。

-先回り?違う、これはさっき追い越していったツーリングの連中だ。ということは、後ろからも来る!

 バスから4名の警官が降りてきた。車中の銃撃戦は終わっている。
「君たち大丈夫か!男は!?」
 武藤が叫ぶ。
「は!足を狙って無力化しました!運転の警官も救助、重傷ですが命に別状なし!我々が前面に出ます!教授と一緒に後ろへ!!」
「分かった!頼む!!」
 4名の宮崎県警警察官がその身を盾にするように展開した。その後ろを武藤と浜比嘉が動く。
「教授!門扉、門扉を開けてください!!」
 武藤の叫びに応え、浜比嘉はキーを高々と掲げてスイッチを押した。電動門扉が軋みながら開き始める。
「3台行け!門を破壊しろ!!」
 クラムシェルのひとりが叫んだ。同時に大型バイク3台が電動門扉に突っ込む。バイクが門扉の格子を破壊する瞬間、運転していた男たちはバイクを捨ててアスファルトを転がった。そしてすぐに立ち上がると、武藤と安藤に迫る。
 どうやら銃武装していたのはバスの男だけのようだが、襲ってくる相手に対し、浜比嘉をかばう武藤は拳銃で応戦できない。武藤は浜比嘉を守ってその体に覆い被さる。
 男のひとりが武藤の背中に一撃を加えようとしたその時、安藤の放った銃弾が男の首元を貫いた。胴体は弾が通らないからだ。かと言って手足では攻撃を防げない。穏健な安藤にとっては苦渋の決断だった。
 男が後ろに吹っ飛ぶ。だがその後ろから更にふたりが追撃する。

「安藤さん!ひとり任せる!!」

 叫んだのは尚巴だった。武藤に掴みかかろうとする男の手を掴み、自らの懐に呼び込むと、強烈な左裏拳を顔面に打ち込んだ。男の鼻が折れ、血しぶきが舞う。男が膝をつく。
「尚巴さん!!」
 いつの間にか間合いを詰めた麻理子が、左足を軸にした強烈な回し蹴りを男の後頭部に見舞う。男は白目を剥いて昏倒した。見ると、残りのひとりに安藤が銃撃を加えているが、制圧できていない。やはり頭や首に当てるのは至難だった。
「安藤さん、ストップ!」
 尚巴が叫び、男の懐に入ると掌底で顎を砕いた。更に麻理子が強烈な蹴りで男の膝裏靱帯を破壊する。男はもう動けない。
「麻理子!さすが6段!!」
「尚巴さんもやるわね!5段なのに!」

 武藤の下でその光景を目の当たりにした浜比嘉は、武藤に言った。
「武藤さん、あの子たち連れてきてくれて、ありがと」
「どういたしまして」
 武藤の口元がぐいっと吊り上がったが、笑う間もなく次の攻撃が来た。
 大型バイクが突っ込んでくる。2台!
 前面の警官4名は、後ろのクラムシェルを押さえるのに手一杯だ。突っ込んでくるバイクは狙えない。
 武藤は体を起こし、浜比嘉を自分の背中にかばいながら拳銃を構える。その横に安藤も並んだ。

「安藤さん、今だ!!肩から上を狙って!」

 ふたりは同時に銃撃を始めるが、バイクを盾にして運転する人間を狙うのは難しい。
「安藤さん、一台に集中!右だ!!」
 武藤と安藤は一台に銃撃を集中した。銃弾はバイクのタイヤを貫きバランスを奪った。バイクは転倒し、男が地面を転がる。
 尚巴と麻理子は浜比嘉を守る武藤の横に付いた。ふたりの銃撃を避けて残る一台が迫る。

 一閃、尚巴は半歩スライドしてバイクを避け、体重の乗った正拳を男の側頭に叩き込んだ。コントロールを失ったバイクは暴走して縁石に衝突する。バイクは激しく損傷し、エンジン付近から煙を噴いている。乗っていた男は動かない。
 銃撃で転がった男が立ち上がって襲いかかってくる。武藤が身構えるが、その前に素早く入った麻理子が男の足を払う。男は再び転がるが次の瞬間、男の後頭部に麻理子の回し蹴りが決まった。男の頭がアスファルトに跳ねた。
「ふぅ」
 武藤が息をつく。そしてひと言。

「君たちを連れてきて、本当に良かったよ」

 今度こそ、武藤は笑っていた。


つづく

予告
 バイクの一団はクラムシェルの襲撃部隊だった。武藤、安藤を始めとする警察と尚巴、麻理子は浜比嘉青雲を守る。
 クロスライトはクラムシェルに直接呼び掛ける。動揺するクラムシェル。
 だが、その中にいたのは、ライトも知る意外な人物だった。

 小鉢らテレビクルーは、その戦いとライトのメッセージを漏らさず世界に発信した。それが呼ぶものは、なにか?

 攻防戦、第二幕は終結する。
 

おことわり
 本作はSF小説「三日間の箱庭」の連載版です。
 本編は完結していますから、ご興味のある方は以下のリンクからどうぞ。
 字数約14万字、単行本1冊分です。

SF小説 三日間の箱庭

*本作はフィクションです。作中の国、団体、人物など全て実在のものではありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?