吟醸香、米から出来たのになぜ果物の香が?

 日本酒の新酒や吟醸酒の多くには果物のような香りがあります。
 お米自体には香りがないのに、なぜあのような香りが出てくるのか不思議ですね。

 それには、酵母菌のある秘密が関わっているのです。


 まず、あの果物のような香りの正体についてお話しましょう。
 エステルという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません、芳香剤などに使われている成分ですが、どういうものかというと、アルコール類と有機酸(カルボン酸)が結びついたものです。
 では、有機酸が何かというと、炭素と水素と酸素を材料にした酸類の事です。
 たとえば、乳酸菌の作り出す乳酸、お酢でおなじみの酢酸、果物によく含まれる、クエン酸やリンゴ酸などがそうです。

乳酸  C3H6O3
酢酸  C2H4O2
クエン酸  C₆H₈O₇

どれも、アルコール類と同じように、炭素と水素と酸素から出来ています。ざっくり言うと日本酒の場合これらは全部、

ブドウ糖  C6H12O6

から酵母の中で作られます。

そして、さらに

酵母菌は、この有機酸とアルコール類を結びつけてしまう酵素をもっていて、これを『アルコールアセチルトランスフェラーゼ』と呼んでいます。

例えば代表的な吟醸香 酢酸イソアミルの化学式は

C7H14O2

これは、炭素数5のイソアミルアルコール C5H12Oと酢酸 C2H4O2が結びついてできます。

C2H4O2(酢酸) + C5H12O(イソアミルアルコール) = C7H14O2 (酢酸イソアミル) + H2O(水)

このように水分子を一つ出して結合することを『脱水縮合』と呼びます。

この反応を人工的に起こして、芳香剤などは作られています。

このような反応で何種類もの、エステル類が日本酒に中で生成されあの爽やかな吟醸香を生み出しているのです。

そして、長年の研究で、このエステル類をたくさん作り出す酵母菌も交配されています。

昔の日本酒に比べて香り高い日本酒が多いのは、こうした研究の成果という事ができるでしょう。

吟醸香は低温の長期発酵によってたくさん生成され、お酒の中に溜まっていきますので、いわゆる吟醸酒は低温の長期発酵が一つの条件となります。

では、なぜ吟醸酒はお米を磨くのでしょうか?一つは雑味を抑えるためですが、もう一つの理由が香りです。

吟醸香の敵は脂肪酸(美容の敵は脂肪)

お米の表面近くにある脂肪酸はエステルの生成を邪魔する事が知られています。
そこで、お米の表面を削り脂肪酸を減らす事で、吟醸香は強くなるのです。


しかし、近年ではもともと脂肪酸が少ないお米も開発されていて(例えば山形県の出羽の里)
こうしたお米を使えば、あまり磨かなくとも香り豊かなお酒を作り出すことができるようになりました。

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