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聞く技術としてのオウム返し

先ほど、今年最後の講義を終えました。人前で声を張り上げた数ヶ月でしたが、私の喉は強くなるわけでもなく、毎回講義が終わるとガラガラします。マイクを使っているにもかかわらず、ガラガラしゃがれます。

今回講義の中で、「人の話を聞くこと」について話をしたのですが、教科書にコミュニケーションスキルとして「オウム返し」という記載がありました。

オウム返し:聞き手は相手の返答を同じ言葉で繰り返すことで、相手に「ちゃんと聞いている」というメッセージを伝える。また、相手は答えた言葉を繰り返されることで、自分の話た内容を吟味する機会を得ることができる。

中央法規出版 新基本保育シリーズ「社会的養護Ⅱ」p.151より


たとえば、誰かの「職場には居場所がなくて辛いんです」という言葉に対して、「あなたは職場に居場所がないと感じていて、辛いんですね」と繰り返すという方法です。


人の話を聞く現場にいる私としては、この「オウム返し」という技法(技法なのか?)について思うことがあり、現場からのモヤモヤを、今回noteに書きたいと思います。


オウム返しという名称でいいのか…?

そもそも、その名称は「オウム返し」でいいのか…?ということ。英語では「バックトラッキング」という言葉があるみたいですが、日本ではまだまだオウム返しと呼ばれます。それが一番伝わりやすいんですね。

この言葉の繰り返しは意図的に行っているものであり、ただ繰り返しているわけではないのです。それを、「オウム返し」と定義してしまうと、それはオウムが聞いたことの意味を理解せず繰り返すことと一緒になってしまう(決してオウムをバカにしているわけではない)のではないでしょうか。

オウムは人間と言語が違う中で、人間の発した音と全く同じ音で繰り返す(オウム返しする)ことができるからすごいのであって、人間は同じ言語なんだから意味を理解せずに繰り返しても何もすごくないわけです。意味があるはずの繰り返しを、「オウム返し」とネーミングして良いのか、と数年思っているのです。

スキルだけ独り歩きしていないか…?

さらに思うのは、このオウム返しを、スキルとして習得させる場面が多いということです。多くの人がどこかで、傾聴技術として「必殺☆オウム返し」を覚えてくる。

相手の言葉を表面だけ受け取って繰り返すと、それはとても空っぽな響きになります。相手にも伝わり、今の会話のやりとりが意味のないものだったことがわかります。ましてやオウム返しを多用すると、「バカにしてんのか」と言われかねません。

ちゃんと言葉を受け止めているから、それが私たちの態度に出るのです。それなしにスキルだけが先行してしまうのは怖い。「人の話をちゃんと聞きたい」と思う人がたくさんいるからこそ、「必殺☆オウム返し」みたいな技は持ってほしくないと思うのです。

河合隼雄のオウム返し

ちなみに私が初めてオウム返しなるものに出会ったのは、大学生の頃に読んだ河合隼雄先生の本でした(本の中では、オウム返しとは言われていませんでした)。

読んだ本はこれ。mixi(懐かしい!)のレビューによると2009年8月21日読了。


本の中で、相談者さんが「死にたいんです」と言った時に、河合先生は「そうですか、あなたは死にたいと思っているんですね」と言うでしょう…という箇所がありました。(読んだのが随分前なので、記憶が正確ではないかもしれません)

その時初めて、「人の話を聞くってそういうことなのか〜」と思ったのを覚えています。

「死ぬなんて言わないで下さい」
「生きていれば、また良かったと思える日が来るから」

そんな聞き手の気持ちを自分勝手に伝えるわけではなくて、ちゃんと聞いていたら「そうですか、あなたは死にたいと思っているんですね」と返すことになるかもしれないな、と感じた記憶があります。

それは、ただ繰り返すということではなくて、相手の言葉を受け取り、手元に置いた時に初めて出る言葉だと思うのです。それを先に「繰り返すという技術」として人に広めるのは危険なんじゃないかと思うのでした。

私も「人の話ってどうやって聞くんだろう?」と思った過去があるから、今の仕事があります。どうやったら上手に聞けるだろう、誰かの心に寄り添えるだろうと思いながら試行錯誤した時期があります。でも、結局私たちはちゃんと聞くという作業しかないと今では感じます。最終的にはスキルではなく、聞いているかいないかなのだと感じている最近です。

そんな年末の独り言でした。現場からは、以上です。

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2023年のテーマは洒洒落落。物事にとらわれず、さっぱりと生きたい。そんなハマダのこだわりレスな記事はこちらに収めます。


ハマダユイ
ソーシャルワーカー11年目。大学教員をやりながら、相談室バオバブで個別相談を受けている。精神疾患にまつわる悩み事、家族のこと、人間関係のこと、仕事のこと…。いろんな人と一緒に作戦会議を開く毎日。

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