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【ツアーパフォーマンス体験記】秋元菜々美 humunus「うつほの襞」2024 山と上手岡エリア編「かがよふ山のライン」(富岡町)

全国・世界・地元から、福島県12市町村に、芸術家が集まり、滞在制作をするハマカルアートプロジェクト(経済産業省令和5年度地域経済政策推進事業(芸術家の中期滞在制作支援事業))。
採択者とその活動を紹介しています。
どのような人々が、どのようなアートを福島県東部の12市町村でつくろうとしているのでしょうか?
今回は、富岡町を拠点として、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムを展開する秋元菜々美さんとアーティスト・humunusのお二人が実施するのツアープロジェクト「うつほの襞」の紹介です。

前回の記事はこちら

富岡町の変遷をたどるツアープロジェクト

これまで12回の上演を行ってきた「うつほの襞」。

これまでのツアーは富岡川沿いの海岸や夜ノ森地区などを巡り、地形、自然に起因する土地の形質、人の歴史など様々な視点から浮かび上がってくる〈町の肖像〉を捉え、表現してきました。
今回は富岡駅から出発し、双葉断層帯上に連なる新福島変電所、上手岡鉄山や宝光山溶錬場で織りなされた歴史、人間の生を超える時間のなかで運動・生成・変容してきた地質学的ドラマを体験していきます。
案内人はhumunusの小山薫子さんとキヨスヨネスクさん、富岡町出身の秋元菜々美さんの3人。

本記事はツアー体験によって得た、富岡町の肖像を綴ったものです。

富岡町の地学的性質を体で感じる

富岡川の海岸に降り立つ案内人とツアー参加者

まず初めに、富岡川沿いの沿岸へやってきました。
海岸の砂に磁石を近づけると砂鉄・磁気を帯びた鉱石、そして川に流され小さく研磨された鉄鉱石が採取できます。
かつて富岡町は鉄鉱石や石炭の採れる町として栄えました。その名残が土を見れば今も色濃く残っているのが分かります。それだけ多くの資源が採取できる土地でもあったのです。
その資源の元をたどるため、今度は西の新福島変電所を目指します。

砂鉄や鉄鉱石を採取する参加者

新福島変電所と聳え立つ山々

目的地へたどり着くと、音声によるパフォーマンスにより新福島変電所と双葉断層帯、そして変電所の西へ聳え立つ山々について語られます。
そこから、その山々でかつて行われた鉄鉱石の採掘、溶錬場の歴史、地質学的ドラマや自然と人との対峙、足尾銅山にも繋がる日本の鉱山の歴史がそこには広がっていました。

新福島変電所
かつて鉄鉱石採掘を行っていた上手岡鉄山の入口に訪れた案内人と参加者
上手山鉄岡採掘場の一部
現在は木々に覆われ、山肌の一部が見えるのみとなった
上手岡鉄山の付近を流れるハジカミ沢で見つけた大きな鉄鉱石


宝光山溶錬所跡地の痕跡

宝光山溶錬所跡地付近で解説する秋元さんと説明を聞く参加者

富岡川と沢山川の合流地点、デルタ地帯に宝光山溶錬所があり、上手岡鉄山で採れた鉄鉱石をここに運び、精錬して鉄を作っていました。
現在は建物もなく、更地になり植樹されています。
地面に注目すると、かつて溶錬場の壁に使われていたかもしれないレンガや、溶錬の過程で出た不純物(スラグ)が落ちていました。
普段、目にも留めない石から、かつて生きた人々と自然とのやり取りが垣間見えるのです。

参加者が採取した溶錬所のレンガや不純物(スラグ)


ツアーを通して

実際に目で見て、触れることで、その土地の色味や性質を体で感じることができ、資料で見た歴史的知識から体験へと変化した貴重な経験でした。
「環境と人間の相互作用で町ができていると考えている」と語る秋元さん。事実、富岡町には自然が作り出した資源によって、人が集まり、町ができ、製鉄産業がで栄え、そして現代、原子力発電によるエネルギー産業によって栄えていましたが、かつての町はもうそこにはないのです。
昨日あったはずの建物が解体され、日々、変わってゆく町で、自然と向き合い、共生し、翻弄されながら生きた人たちの肖像がそこにはありました。

観光でも、学習でも、調査でもない。そこにある環境と土地、そして住んでいた人々を声を身体を言葉を使って表現するツアー。
是非、一度体験していただきたいと思います。