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【プロジェクト紹介②】秋元菜々美  「土地の時間にまつわる滞在制作事業」

全国・世界・地元から、福島県12市町村に、芸術家が集まり、滞在制作をするハマカルアートプロジェクト(経済産業省令和5年度地域経済政策推進事業(芸術家の中期滞在制作支援事業))。
採択者とその活動を紹介しています。
どのような人々が、どのようなアートを福島県東部の12市町村でつくろうとしているのでしょうか?
今回は、富岡町を拠点として、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムを展開する秋元菜々美さんと招聘アーティストが2月16日ー17日開催する『土壌と想像/創造』の2月17日の様子をお届けします。

ワークショップ 「福島で考える土のこれまでとこれから」

今回のイベントは秋元さんの自宅があった場所の土壌調査からスタート。
土の研究者・森林総合研究所主任研究員である藤井一至さんとイベント参加者と共に、秋元さんの自宅跡地の土の掘り起こし、どのような土壌の上で生活していたのか、また除染後の土壌はどのような形質なのかを調査。最後に掘った土を『土の標本』にし、作品の一つとした。

秋元さんの自宅跡地の土を掘る参加者

掘り返した土は、きれいな地層に分かれており、岩盤の上に火山灰や粘土質の土、さらに柔らかい土や砂利など家を建てるために施された土壌が形成されていた。
富岡町の西側に位置する上手岡鉄山で見られた鉄鉱石や花崗岩などは見受けれらず、夜ノ森駅周辺の土地と山間部での地質の違いを知った。

掘り返した土の特徴について解説する藤井さん(中央)
写真上部が家を建てる際に乗せられた土や砂利、その下に粘土層や火山灰が混じった土がある
掘り返した土をひょう標本にする作業
秋元さん自宅後の土の標本

ワークショップ 「暮らしで選択する廃棄と涵養」

秋元さんの自宅跡地を後にし、大熊町へ移動した。
大熊町でなるべくエネルギーに頼らない生活を目指している井関耕平さんの畑を訪ね、農薬や機械を使用しない方法で田んぼや畑を耕し、自分たちが食べていくために必要な量を作っている。そこでは、自然からいただいたものを自然に返し生物たちの生態を支えながら共に生きるという方法で生活するかつ、自分の生存に自分で責任をもつという、まさに百姓の生き方があった。

参加者は土に空気を入れるための、耕耘作業や竹炭作りなどを体験し、身近にある資源の活用や自然の循環について考える機会を得た。

畑の土について解説する井関さん
耕した土から石や雑草の根を取り除く参加者たち
竹で炭づくりをする様子
食事後、ヘチマのタワシと米ぬかで食器を洗う様子


アーティストレクチャー「残滓(ずり)の肌理に触れる ‐ツアーパフォーマンスと物理的想像力-」

井関さんのワークショップ後、富岡町のふたばいんふぉに移動し、秋元さんの招へいアーティストであるhumunusによるプレゼンテーションが行われた。これまで行ってきたツアーパフォーマンスについて講話し、今回新たに創作したツアールートの中で見えてきた発想、『眺望=視線(ライン)』を発見し、作り、残すこと、その上で経験の順序を組み立てることや、聴覚的、触覚的に実際に物質に触れることで、富岡町の地質学的な運動と人々の営みの関係性を身体的に感得する事について、参加者にレクチャーした。

参加者にレクチャーを行うhumunusのキヨスヨネスクさん(左)と小山薫子さん(右)
レクチャーの様子
ツアーパフォーマンスで採取した鉄鉱石


アーティストレクチャー「地域の居場所を耕す仮設建築」

もう一組の招へいアーティストである藤本梨沙さんと清水耕平さんによる、『仮設建築と空間』についてのレクチャーも行われた。12月に行われた『家びらき』の際に作った、仮設建築の今や壁の振り返りをしつつ、仮設建築とは、記憶の顕在化や誰でも、何度でも作ることができ、そこに物体があることで、人の動きや振る舞いに変化をもたらすことなどについてレクチャーが行われた。

参加者にレクチャーをする藤本さん(中央左)と清水さん(中央右)
レクチャーの様子
ワークショップやレクチャーの感想を言い合う参加者


おわりに

秋元さんのイベントを3度取材し、それぞれのイベントで秋元さんやアーティストの方々が感じたこと、表現したいこと、伝えたいことを咀嚼しきれないほど感じた。富岡町を中心に双葉郡内に残る記憶や土地の特性、それらを体感することによって、今までの「被災地」という見方から、「他とは違う特性をもつ土地」という見方に変わった。新たな土地の見方を知ることができる貴重な体験だった。

イベントを締めくくる秋元さん

本プロジェクトで制作した作品は富岡町にある写真スタジオ『コススタ』にて展示されていました。
展示期間:2月20日(火)~3月3日(日) 10:00~19:00展示場所:コススタ 福島県双葉郡富岡町小浜中央262入場料 :無料