【滞在制作取材】ティントラボ『伝わらない記憶のプロセス 』③~
全国・世界・地元から、福島県浜通り12市町村にて芸術家が滞在制作をする「ハマカルアートプロジェクト」(経済産業省令和5年度地域経済政策推進事業(芸術家の中期滞在制作支援事業))。
その採択プロジェクトのひとつ、三塚 新司 さん(ティントラボ)による
・「伝わらない記憶のプロセス」~伝わらない記憶」をモチーフにすること~
につきまして、三塚さんがこの12市町村(東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難指示等の対象となった12の市町村)内において、どういったプロジェクトを実施し、現地活動、および制作物が出来上がるのかまでをシリーズでご紹介します。
今回は第3回目、プロジェクトの取材に同行させていただきました!
三塚さんは、ハマカルアートプロジェクトに関わる中で偶然知り合った方々に「記憶の風景」について聞き、それを想像だけで絵に描く、というプロジェクトをしています。
「記憶の風景」を聞き取る
今回は、大熊町役場の方にお話を伺いに行く三塚さんに同行させてもらいました。
福島県浜通り地域の避難指示が一部解除され始めたことを「知らなかった」ということに衝撃を受けた三塚さんの体験から始まった、「伝わらない記憶のプロセス」というプロジェクトは、事前に相手の背景や情報を聞かずに、淡々と「記憶の風景」についてだけお話を聞くことから始まります。
大熊町役場にお勤めのAさんは代々、大熊町に住んでいらっしゃるそうです。
「記憶の風景」について、Aさんからは以下のようなお話がありました。
小学生の頃に買い物に行った大熊町の商店街のこと。
商店の人が子供に優しく接してくれたこと。
パン屋さんの菓子パンのこと。
同級生と遊んだ神社や、兄弟で遊んだ裏山の池の思い出。
裏山から見た町の景色。
こういったお話を聞きました。
また、三塚さんは別の日に葛尾村へお話を伺いに行きました。
葛尾村に暮らすBさんからは、小学生の頃、友人たちと大きな農家の敷地でかくれんぼをしたこと。飼っている馬の後ろに隠れて楽しかったことなど、子供の頃の思い出の話を聞き取りました。
このプロジェクト期間中に14名の方からお話を聞いた三塚さん。
お話を聞いた方々の中で、まず大熊町役場の方から聞いた裏山から見た町の景色を絵に描きたいと感じたそうです。
「誤認を前提とした暗黙の了解」について
インタビューを通じた記憶の風景の受け渡しでは、「話し手」の頭の中にある記憶の風景が、言語に変換され言葉となり伝えられます。
「聞き手」はその言葉を聞き取り、「話し手」の様々な背景情報と組み合わせて、風景を想起しようと試みます。
その際「聞き手」によって想起される風景は、「聞き手」の頭の中の既知の風景の引用によって形作られるため、「話し手」の風景の記憶と、「聞き手」の風景の想起にはどうしても「差異=誤認」が発生します。
三塚さんは、私たちはその「差異=誤認」を意識せずにコミュニケーションを進める仕組みを持っていると考えています。つまり、「誤認を前提とした暗黙の了解」が存在するということが気になっているそうです。
三塚さんの今回のプロジェクトは、この「差異=誤認」を描くものなので、なるべく「話し手」の背景情報を減らして、言語のみからイメージを想起し、風景を再構築したいと考えているそうです。
福島県浜通り地域の避難指示が一部解除され始めたことを「知らなかった」ことから、「誤認を前提とした暗黙の了解」を作品にしたいと考えた三塚さん。一体どのような作品を見せてくれるのか、楽しみです!
ということで、今回は取材同行の様子についてお伝えしました!
次回は、2月20日に行われた「ハマカルアートプロジェクト2023 最終報告会」での三塚さんの報告等についてお伝えします、お楽しみに!