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滑川ソーシャルカフェ 郷土料理編。備忘録

去る2023年11月13日(月)、滑川市内でひらかれた上記イベントに、料理を作る側として携わった。

イベント向けちらし

そもそも、滑川ソーシャルカフェとは、食文化研究家の相川知輝さんを中心に、滑川市内で開催されてきたイベント。予約制かつ紹介制で、「価値のあるつながりが生まれる」ことを謳った、一夜限りの交流の場。
およそ月一回のペースで開かれ、今回がちょうど10回の節目であった。
これまでは参加費の予算内で食事やドリンクを調達していたそうだが、この機に少し趣向を変えたいという相川さんの思いもあり、郷土料理というテーマを織り交ぜることとなった。

郷土料理のプロフェッショナル

料理をイベントで大人数に振る舞う、というのは私にとって初めての経験。かつ1人ではできないし、郷土料理も本だけ見ていてはよく分からないし……。
ということで、強力なメンバーが加わることとなった。
滑川市食育サポーターで、市内外で料理を教えている二口雅子さんと、同じく辻尾立子さんだ。

メニュー決定と調理の予習を兼ね、候補に入れた料理を、私も手伝いつつ事前にお2人に作っていただき事前の試食会をひらいた。
一人あたり予算1000円という範囲内で、いかにバランスのとれた、飽きのこない献立とするかがポイント。郷土料理は煮物が多いので、ただ美味しそうなものを選んでいくと汁物ばかりになる可能性もあった。

そうして決まった献立は、以下のとおりだ。

①ぶり大根
②ぶりの八幡巻
③かわとりの白和え
④いとこ煮
⑤干し大根と人参昆布の切り漬け
⑥かんもり(冬瓜)の天ぷら
⑦セロリの酢漬け
⑧ばい飯
⑨おみそしる

地元の人でさえ、聞いたことのない料理もあるだろう。私もそのひとり。
それぞれの詳細はのちほど、改めて紹介する。


1週間前から始まる下ごしらえ

メニューが決まったら、必要なもの、日持ちするものから順次食材を買っていく。
なんとか、30人は集まりそうだとのことだったので、30+α人分の想定で、かつ予算をオーバーしないように買い揃えていく。

中には、こんなのどこに売ってるんだろう?というような食材もあった。

里芋などの茎(ずいき)を乾燥させた「干しずいき」。スーパーではパッケージされて販売されるが影が薄い。ずいきと分かって食べたことがなかったから、食感も味も使い方もわからない。

そして、冬瓜。これは富山市の実家で何度も食べたことがあったが、滑川市内のスーパーで探しても見かけず、結局地元JAの直売所で調達した。
ちなみに、JAには干す前のずいきも置いてあった。直売なのでもちろん地元産。
郷土料理の食材が、実際いまでも地元で手に入るとわかると嬉しくなる。

(パッケージされた干しずいきは、徳島県産だった。。)

某スーパーで見かけた「干しズイキ」


また、ぶりの皮でごぼうを巻く、という手間のかかる料理も献立に加わる。(ぶりの八幡巻)
皮のためには、ぶりの身もないといけない。丸ごと1匹を魚屋で買って、身とあらと皮に卸してもらい、身とあらはぶり大根に生かすことにした。
逆にいえば、ぶりを食べるときに余る皮を、なにかに巻いて間に合わせた、というような料理なのだろうと想像した。

お漬物にしても、剥いた野菜の皮を千切りにして一週間前からつけておけば、十分なおかずになる。みそ汁用にだしをとるにも良い。

食べられるところはなるべく全て生かして、ごみを極力なくす。この考えが郷土料理の基礎になっている気がした。


本番へ

煮込みに使う野菜のカット、下茹では前日からスタート。色の変わりやすい食材は当日に一斉にカットし、二口さん・辻尾さん・私の3人で一斉に調理を行っていく。
会場レイアウトはどうしよう?とかいろんなことを考えてしまいアタフタする私を横目に、二口さんは何品もの段取りをこつこつと済ませ、辻尾さんは二口さんの指示通りに淡々と作業を進める。
もちろん、わたしもそれに加わってはいたのだが、全体のことがはっきりわからぬまま、目の前の作業に夢中になっていた。

それくらい、大人数むけにいくつもの品を用意するのは大変なことなのだ。と知った。
同時並行させつつ、それぞれの工程をこつこつこなす二口氏、すごすぎる。

会場である中滑川複合施設メリカのスタッフのみなさんに、レイアウトを手伝ってもらったりしてたら、あっという間に参加者が集まり、味付けを何度もたしかめ、盛り付けを急ぎ、いつのまにか開会の挨拶に呼ばれた。


開会

柿沢副市長がまんまえに

中滑川複合施設メリカ2階。
壁際にならべた長机に大皿を置いて、ビュッフェ形式に。用意したテーブルにはあっという間に30人とちょっとの参加者が揃った。
用意していたもののうち、天ぷらだけは揚げたてがいいだろう、と開会してから順次揚げていくことにしていた。

ぶり大根。ご馳走感のある盛り付けにした
いとこ煮。給食に出てたやつだ。あずきは優れたたんぱく源
ぶりの八幡巻。ごぼうを皮で巻いてある
かわとり白和え。かわとりは芋茎のこと。すりつぶした豆腐に和えた。甘みがあって口休めに良い
干し大根と人参昆布の切り漬け。昆布のねばりが全体を調えてくれている
セロリの酢漬け。こちらも口休めに。ピリ辛
ばい飯。ちょっと貝が小さくて、炊き込む出汁もあっさりになってしまった
みそしる。昆布や、野菜の余った皮でだしをとった。
そして、冬瓜(かんもり)の天ぷら。

天ぷらは、冬瓜を調味料で茶色く染みるまで煮たのち、フライパンで表面を揚げ焼きのようにし、最後に衣をつけて揚げている。味がついているので、山椒などのスパイスをふるだけで美味しく食べられる。
表面を焼くのは、揚げるときに冬瓜の水分が出てこないように、コーティングのつもりで。
今回唯一の創作モノだ。


そのほかの料理も、あまみやからみ、色、食感、それぞれに特色があり、飽きることなく食べられたのかなと思う。
セロリの酢漬けはちょっと唐辛子が効きすぎたかな? とか、ばい飯はあっさりになっちゃったけど食べてもらえたかな? とか、
不安な点はたくさんあったんだけれど、
実際、美味しい!という声をたくさんいただいて嬉しかった。

開会し、料理の説明がひととおり終わってから、みなテーブルごとに料理を取りに行く。大皿に山盛りの料理たちもすぐになくなり、二口さんや辻尾さんが補充に走った。
私はその間もひたすら、冬瓜を揚げていた。

200人のインバウンド客を3時間で捌き切る、ホテルの朝食ビュッフェのバイトを不意に思い出した。私の補充が追いつかなさすぎて、空っぽのウォーマーに「なにもねえじゃないか」と帰っていった客もいたな。(昔話)



さて、当日の参加者には、(私のわかる限り)

・滑川市の副市長や企画政策課の方、
・ソーシャルカフェの常連さんたち、
・滑川に空き家を買ってゲストハウスをやる旅人(私のライバル?)、
・おにぎり屋さんをつくりたいという大学生、
・フードロスや地産地消のために農家や飲食店などを繋ぐ役目を担っている方、
・シンプルに郷土料理が気になって来たという県外からの大学生、

などなど、いろいろな方が。

ソーシャルカフェは最初に述べたとおり、
「価値のあるつながりが生まれる」
が、当初からのテーマだった。

今回、「郷土料理」というサブテーマができたことで、多分「価値のあるつながり」を必ずしも求めない参加者もいたのではないだろうか。
私も価値のあるつながりは、欲しくないわけではないけれど──ということで、これまで参加しなかったようなひとも、今回を機に加わることができた。ということだ。(私もそのひとり)

食 という、誰しもが生きる上で接する普遍的なテーマが、人と人とを合わせる緩衝材の役割を果たす。

誰かに会って話がしたいとき、「⚫︎⚫︎で会おう」でなく、「ごはん食べに行こう」というほうが、気を張らない。やさしい。
また、距離感の近い小さな酒場やバーなどでは、別々に飲み食いしにきた他人同士が、酒を肴に会話をかわし、つながることだってある。

「つながる」という言葉がなくとも、同じ場でごはん食べてれば、「つながれる」環境ができるというのは、ごはんのなせる魔法だ。

民宿をつくるなら必ず、飲食店を併せる。というかねてからの私の目標は、住人と旅人がつながれる環境をつくりたいという理由あってのことだ。
今回のイベントは、その目標により自信をもてる根拠になった。



会を終えて

滑川の地酒・千代鶴をふるまった。(右下)
中滑川駅前・ワンピースカフェにて2次会

冬瓜を揚げ終えて、ようやく参加者たちとなんや〜かんや〜と話をしていたのも束の間、あっというまに閉会の時間となった。
メリカのスタッフの方々のパワーで、片付けもチャカチャカと進んでいった。本当にありがたい。

そのあと主催のみんなで、会場のメリカから徒歩1分のワンピースカフェへ。
漫画のワンピースは特に詳しくない上、入口に鉄管足場が常設という独特の雰囲気を醸していたため、ひとりでは中々憚られたが、ようやくお邪魔できた。

みなさんと色々話しているうち、

・二口さん、辻尾さんに準備/撤収で労力をかけすぎた→次回からは助っ人を呼ぼう
・二口さんや辻尾さんと話をされたい方もいた→主催側もしっかり会に交わる環境があるといい

ということで、お手伝いをいただいた先生のお二人への、感謝を越えた申し訳なさをみな感じていた。


本来は、先生方が監督にまわり、指示のもと主催側みんなで料理をつくるのが良い形なのだろう。
先生方の手が早いからといって、それに頼っていては持続性がない気がする。

珍しい料理を食べるだけの会、で終わっては意味がなくて、伝承されてこその郷土料理だと思う。

その土地だからこそとれてきた、水、魚や野菜。
それらでつくる料理はすなわち、その土地がどんなところかを示す証人。
そして、食べ物が地元で手に入るということは、便利になった昨今において見落とされがちな、とても豊かですてきなことなのである。

私の持ってきた千代鶴のお酒も、証人のひとり。のつもり。
地元の料理には地元の酒が一番合うんです。




今回の経験は、なんとなく自分の中で考えていた、いろんなことを再確認できた貴重な機会であった。
生まれそだった地である富山を、また新たな視点でみることができたと思う。

月一でやっている、このソーシャルカフェ、
12月は「釣った魚を捌いて食べる会」になるそう。おもしろい!
私は釣り未経験なので、魚はさわらず、
つけあわせの漬物と、魚のあらで汁物でも仕込もうと思う。
そして、資料でも見たことのない真の伝承料理、謎の団子が、新たな先生監修のもと登場するらしい。期待しかない。



さて、ただいま、私は奇遇なことに千代鶴酒造の手伝いをやっている。
12月限定の超短期バイトになりそうだけど、日本酒づくりの現場に携われるのはとても嬉しい。
蔵人の苦労の結晶であることを忘れず、これからも日本酒を大切に飲み続けたい。

これからも食は、私の中で大きなテーマでありつづけるだろう。
生業としての飲食業は12月をもって離れてしまうのだけど、これからもいろんな店にかよい、いろんな人と会い、食の世界を広げていきたい。



おわり

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