『依頼者の思い』と『現場の思い』は一致しない。
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『依頼者の思い』と『現場の思い』は一致しない。

ちょっと取り留めもないので長くなったから普段のブログではなく、noteで書きます。

製造工場を救うためにアパレルブランドを立ち上げる人たちがいるのは目新しことではなくなりました。その思いは素晴らしいと思うのですが、必ずしも、その素晴らしい『思い』が、製造工場にとっての『思い』と同じかと言われたら、それは違います。

『救いたい』という『思い』が強い人たちがいるからこそ、僕はそのギャップをここに認めておこうと思います。これは批判ではなく、現実です。また工場もどうか、そういう『思い』に他意がないことを理解して、その『思い』の所有者を見定め、賛同できる場合は期待値も込めて最初はそういう『思い』を応援してあげて欲しいと思うのです。
あくまで僕の考えなので、異論は認めます。どんどん教えてください。解決に向かう可能性がある意見なら聞いてみたいです。

製造業者は恵まれていないのか?

『工場を救いたい』と考える人に、まずこの点を考えてもらいたいです。
きっと"True Cost"あたりを観て感化され、ネットで調べられる範囲でアパレル製造業の実態を知り、「これは問題だ」と思い、工場を救うための方法としてブランドを立ち上げているのであれば、それはよっぽど売れてくれない限りはどちらかというと工場にとっては迷惑な存在です。迷惑は言い過ぎました、控えめに言って、邪魔です。

『工場を救う』という場合、「どうやって救うか?」ということになるわけですが、自分のブランドを立ち上げて、工場側が納得できる金額を支払っていくということになると思います。

では工場が納得できる金額というのはいくらなのでしょうか?
これは工場を運営されている方のお気持ちによる部分はあると思いますが、手放しで納得できる金額があるとしたら、それはそのブランドだけで工場運営が成立して余裕がでる金額なのではないでしょうか。

例えばこういうブランドを立ち上げる時、まず最初に『救う』対象になるのは縫製工場がほとんどです。なので縫製工場が納得できる金額を最初に考えることになります。
縫製工場が納得できる金額というのは、色々な方が試算を公表しているので、色々探せば見つかると思いますが、もっと自分が理解しやすくするために、自分が働く時、一日いくらもらえたら自分が納得ができるか?ということをまずはベースに考えてみると良いでしょう。

あなたは一日いくらもらえたら、納得できますか?

¥10,000ですか、いや¥15,000は欲しいところでしょうか。その尺度はわかりませんが、仮に¥10,000としましょうか。
その¥10,000の技術料で求められる縫製の水揚げ量はどのくらいか想像つきますか?逆算してみましょうか。

¥10,000/日が欲しい場合、営業日が月20日で¥200,000/月x12ヶ月で¥2,400,000/年収。これを税込で考えると、、手取りは、、、¥10,000/日に全く届かない計算になります。
足ります?まぁ足りるとして進みます。
社員として雇用する場合、雇用保険や健康保険、諸経費など、人一人雇うとその額面年収の1.5倍近くは会社に負担がかかります。つまり¥3,600,000/年/人かかる計算でいきます。
その工場に10人同じ年収の工場員がいたとして、人件費の年間運営費は¥36,000,000になる。そこへ年間で地代家賃光熱費諸々かかって、¥50,000,000がその工場の年間運営コストだとしましょう。仮ですよ。多分もっとかかるけど。このキャッシュを回してる以上は、それを上回る金額の商売をしていることになります。これはすごいことです。

で、仮に一枚¥5,000で売りたいあなたのブランドのTシャツを作るとする。
一般的には原価率2-30%なので、30%として¥1,500/枚の原価とします。
ここで原価率低すぎるアパレル業界はあーだこーだっていう議論はなしでお願いします。仮に粗利率70%でも、売れなきゃただのゴミなので。キャッシュを産まない商品には掛け率設定なんてなんの意味もありません。借金のカタにもなりません。
ゴホン
で、¥1,500/枚のTシャツに使う生地が¥800/mだとして、用尺(一枚あたり必要な生地量)が0.8m/枚だとする。細かいロスはおいといて、一枚あたりの生地代は¥640/枚になる。

原価¥1,500枚-生地代¥640/枚=¥860/枚

¥860/枚が工場に支払える工賃単価になる。そして、先ほどの工場運営費をこの工賃で割返す。

¥50,000,000/年÷¥860/枚=約58,140枚

この枚数を担保してくれたら、この工場は最低限のレベルで周ります。イケそうですか?見えてきましたかね。そこへもっとプラスアルファになる金額の仕事を積み上げてようやく収支が見合うレベルになると考えられます。
『救う』ってこういうことなんじゃないかと僕は思うわけで、100枚とか200枚とかでは到底『救えない』んですよ。そりゃ計算上の日産枚数が240枚程度の工場に依頼する場合、100枚に対して工賃¥5,000/枚くらい払えたらめちゃくちゃ喜んでくれると思いますが、そういうわけにはいかないですよね。単発でそういうのがあっても良いとは思いますが、全体的な救いには、まだまだ支援が足りません。それが『救う』ってことです。

国内にはまだまだ年間20万枚くらい縫える工場がある中、100枚200枚レベルの仕事で救われる足しにはならず、むしろ大掛かりなロットをぶち込んでくるメーカーと商売していた方が救われます。小ロットを捌こうと思うと、ラインを止めたりしなければなりません。「むしろ邪魔」というのはそういう意味です。そこへきて「工賃もうちょっとなんとかなりませんか?」などの交渉は、救うどころか奴隷に対して強くムチを打ちつけるかのようです。

つまり、この程度の仕事量を渇望するほど、現存工場は恵まれていない環境ではないということです。その点をご留意の上、工場を救いたいという思いを工場にぶつけてみてください。できることがもっと違う形で見えてくるかもしれません。

善意は無意味なのか?

かと言って、じゃあそういう人たちの善意が無意味かといえばそういうわけではありません。少なくともそういう燻りは、各所でみられているので、大きなエネルギーに変わる可能性も秘めています。

だから工場および製造各社、そのような人たちを無視しないであげてほしいです。素人がバカ言ってるのは承知の上なんですよ、彼らも。たぶん。

「綺麗事だけじゃ飯食えねぇぞバカ」ってことを散々ど頭からぶつけた上で、それでも食い下がってくるパワーがある奴がいたら、少し言うことに耳を傾けてみてください。世の中を良くしていきたいという気持ちは悪いことではないんですから。
工場の運営方法も色々アイデアが出てくるはずです。
素人なりに、あなたの工場から生まれてくる商品に対して払いたいと素直に思える金額が聞けるかもしれません。その金額こそが、世の中が認める価値だと考えてみてください。自身が主張する金額の引き上げが、世の中の価値とどれだけ乖離があるのか自覚することになります。

その素直な意見を聞いた上で、今自分たちができることが見えてくるはずです。

手間がいくらかかろうが、原料がいくら優れていようが、それをその価値と認めてくれる人たちが、工場のキャパを埋めてくれる数字を出してくれる保証はありません。むしろそう言った分母は小さいと考えた方がよいです。
そんな市場に対して憤って終わりですか、自分の動きを変えてみてはどうでしょうか。
『救いたい』と思ってくれてる人たちに対してだけではなく、『助けてもらいたい』と思ってるブランドの人たちもたくさんいます。工賃にシビアな人たちも多くて、うんざりしているとは思いますが、新しい出会いや行動を止めたら今の現状で生きていくしかありません。待っているだけで仕事は大きくなりません。

ぜひ、まずはオンラインでやり取りできるレベルまでってところからでも始めてみてください。
そして露出を続けているうちに、青臭くて現実味のない夢物語を持ちかけてくる、善意に溢れた若者たちに出会ったとき、自らの経験と現実から、彼らを導いてあげられることが、業界の未来に繋がるかもしれない、そんな思いがもし工業側にあれば、もしかしたらほんのちょっとだけその善意によって心が救われるかもしれません。

※この文中で試算している金額は想定であり、どこかの工場から聞いたわけではありませんが、僕の実家は縫製工場を運営しており、この金額に到底満たない賃金でやり繰りしています。また、試算中の生地代¥800/mと言うのも、生地種によりますが、果たして健全なコスト体系で生まれているかどうかと言うのは不透明極まりない部分です。試算中の単価が安いとか高いとかのご意見に関しては、あくまで仮の話なのでご承知ください。

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