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ヒトカラと非常ベル

朝イチでお袋が「今日は窓をキレイに拭くの!明日はワクチン接種で何も出来ないから」と言うから、ああそうだと思って「ごめん、今日あたり医者(ウツ)へ行かないと年内に薬が無くなっちゃうんだ…」と、逃げるつもりは無かったが慌てて医者へ行くことになった。実際毎朝飲むサインバルタがあと4日分しかない。

……で、クリニックへ行き近況報告をし処方箋ももらい、さて昼メシはどうしようかな?という段階に至って、いつも寄り道をする。

月イチのヒトカラだ。行く店は決まっていて会員カードも持っている。勝手知ったる激安店だ。

受付のオネエサンに顔を覚えられていて「いつもご利用ありがとうございます。あのですね、今日はフリー(タイム)が出来ないことになっておりまして、30分単位で料金をいただく感じになります。年末なので…」と言われた。仕方がない。3時間でいつもより多く料金を払ったが、まぁいいか。「DAMですよね」「はい」「ドリンクのコップは?」「冷たいのでお願いします」

指定の部屋にカルピスソーダとオレンジスカッシュを混ぜたのとおしぼりと伝票を持って入室しホッとひと息。ああ寒かったな。寒いけど冷たいジュース飲んじゃうもんね。重たいドアをガコンと閉めて荷物を置いて、モニターの下に置いてあるリモコンとマイクを取ってテーブルに置く。さて何から歌おうかな?

ミスチル、アジカン、最近覚えた10-FEETの第ゼロ感、とだいぶ歌って、喫煙所へ一服しに行き、後半戦は何を歌おうかと思っていた矢先……

「ジリリリリリーーーッ!!!!」え、何これ? 非常ベル?火災報知器?とちょっと驚いてドアの外の様子を見たら隣室から若い女性が出てきた。耳を抑えて困惑顔。僕もちょっと様子見と思ってドアを開けてその女の子とマスク越しに目が合って「何事だろう?」と思った。スタッフが何か言ってくるかもしれないし、僕は非常ベルが鳴る寸前にflumpoolを歌い出したばかりだったからモニターには山村隆太の若かりし頃の歌う姿が映っている。

騒いでも仕方がないから、部屋に戻って歌い続けることにした。しばらくしてけたたましい非常ベルの音は止んだが、隣室の女の子は時間が来たからなのか非常ベルで怖くなったのかは知らないが、上着を着て帰ってしまったらしい。入れ替わりにスタッフが来て隣室を掃除しているようだったが、何の説明もない。きっと誤作動だったのだろうと思われる。

僕は時間までキッチリと歌い続けて、受付に伝票を返すと喫煙室へ寄って一服してから店を出た。

帰りがけに受付で訊けばよかった。あの非常ベルの音は何だったのだろう? もし誤作動じゃなかったら呑気に歌い続けた僕は今頃焼け死んでいたかもしれない。

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