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安倍晴明
自転車で園芸店をハシゴして走り回っていた時に、たまさか、都内に唯一の「安倍晴明ゆかりの神社」を通りかかったので軽く参拝することにした。以前に妹に教えてもらったところだ。「お兄ちゃん、安倍晴明好きでしょ?」
いやぁ、好きというか…。ちょっと興味深いと思って、夢枕獏原作・岡野玲子絵の漫画を読んでいただけだ。平安時代の着物や文化や風景が美しく描かれていたのと、安倍晴明の成り立ちと陰陽師の有り様が面白かった。
軽く会釈をし、鳥居をくぐって手水場で手を洗い、財布に小銭があるか確認して、二礼二拍手一礼のお参りをした。
何をお願いしよう?と思った時に、親父の死に顔が浮かんだ。死化粧をしてもらったからなのかは知らないが(葬儀には呼ばれなかった)やせ衰えたその顔は、生きている時より穏やかで少し優しく微笑んでいるように見えた。(棺桶に入った親父の様子は参列した叔父がメールで写真を送ってくれた)
「親父が死にました。どうか安らかな魂となって、なんの苦痛も寂しさもなくなりますように」
そう祈った。その時、気のせいだろうと思うが、胸の奥の心の辺りを、そっと爽やかで暖かい風が撫でてくれたような不思議な気持ちになった。ほんの少し、目頭が熱くなったが相変わらず落涙する事はなかった。
本殿を出て、そのすぐ傍にあるポニーだと思うが小さな馬がいる方へ向かった。ケージの向こうで馬が与えられた干し草を食んでいた。僕はそれを、しゃがみこんでじーっと見つめた。「おいしそうな干し草だね、美味いかい?」小声でそう話しかけた。
その日は写真を一切撮らなかったので、前に撮った馬の写真を探したが無かったので割愛させていただく。
何分間くらいそうしていただろうか。僕は生き物が好きだ。飽くこともなくじーっと見てしまう。人間のような厄介な感情などはなく、ただひたすらに生きて子孫を作って天命に従って死んでいくのであろう生き物たちが好きだ。
その日は、帰宅してから、お袋に温かく柔らかく煮込んだキツネうどんを作ってやって夕飯にした。
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