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初めて画鋲を刺した日

家に画鋲を刺していいんだって。

嘘つくんじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

俺は、俺はそんな嘘つきのために毎日頑張ってるんじゃないんだぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ほんと?

あらあら。

と、全然納得いってないが、どうやら賃貸でも釘とかの大穴でなければ別にいいらしい。生活の結果できた画鋲の穴などならいいらしい。

へ~

あけた。上の飾ってあるやつを固定するために。

いいじゃん。

それからは壁に穴を開けない日は無かった。

ひとつ画鋲を刺し、すぐさま抜いてその隣に画鋲を刺す。僅かな穴の羅列がなんとも美しい。水音を聞くと穴を開けたくなってしまう性質の俺のトイレには画鋲でできた〝ヤドカリ〟という文字がいくつも、いくつもくっきりと浮かび上がって見える。

穴ヤドカリ(画鋲の穴で描かれたヤドカリ)の邁進は止まらない。僕の家の石膏ボードは穴ヤドカリで埋め尽くされていた。いや、穴ヤドカリの間に壁だったものが慎ましく存在していたのだ。なら、やることはひとつだろう。

僕はデュラムセモリナ粉を通販で購入し、卵の黄身と水とともによく練り、少し休ませる。トイレに入り穴ヤドカリに小麦粉の塊を押し付けるとどうだろう。向かいのキッチンの壁からはミラー穴ヤドカリパスタ(貫通したため鏡文字の穴ヤドカリから押し出されたスパゲティ)が美しく出てくるのだ。

画鋲の穴は決して完璧では無い。少しのザラつきがあたかもブロンズダイスのように、表面をざらつかせた生パスタが出来上がる。

僕は穴だらけの部屋を見回したあとパスタを茹でて、食べる。うまい。呟いた空気の振動が石膏ボードに響き、壁は全て崩落した。僕の無数の穴ヤドカリはひとつになり、空間ヤドカリとして見えないけれども確実にここにいるのだ。

これ敷金帰ってくると思います?

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