大企業の知財部員がスタートアップに転職して感じた話

大手メーカーの知財部員として6年間働いたのち転職し、今月からスタートアップの知財担当として働いています。

今回は、転職して2週間働いてみて感じたファーストインプレッションを書き留めてみようと思います。

知財担当者にとっての特許権利化業務の比重が軽い

前に働いていた大企業では、発明者へのヒアリングから特許出願、中間処理までの特許権利化業務が僕の主要な仕事でした。
業務時間全体のうち約8割くらいは特許の権利化をやっていた気がします。

それに対して今働いているスタートアップでは、今のところ2割くらいしか特許権利化に時間を割いていません。
研究開発系のスタートアップなので特許もそこそこ出してはいるんですが、それ以外の仕事のほうがかなり多いです。

一番多いのは他社との秘密保持契約や開発委託契約などの契約に関わる業務ですね。
実際に契約書をドラフティングするだけでなく、ビジネス計画を練る社内の会議に出席して色々と知財面でのリスクや戦術を検討し、どの相手とどういう契約を結んでどういう風に付き合っていくかなどを議論したりします。

他にも、意匠や商標の出願・管理に関する業務もあるし、社内への知財に関する啓蒙活動などもあります。
また、知財に関する社内のルールや仕組み、システム等が出来上がっていないので、ワークフローを考えたりデータの管理方法を考えたりもしないといけません。

これらのほかにも、少しでも知財に関わる部分があれば色々な仕事が舞い込んできますし、自分から首を突っ込んでいかないといけないところもあります。
入社前から予想はしていましたが、予想以上に業務の幅がとても広いです。

事業の変化が激しい

社内ではたくさんのプロジェクトが走っているんですが、安定して利益を生み出し続けるようなフェーズにあるプロジェクトはまだ存在せず、どのプロジェクトも状況が激しく移り変わります。
全社としていわゆるリーンスタートアップを意識しており、変化が激しいことも良しとされているため、知財担当者もその変化についていかなければなりません。

例えば、ある新技術を使ったプロジェクトを進めていくことが決まり、「特許で事業を守るぞ!」と意気込んでその新技術に関する特許を急いで何件か出願したものの、出願が公開される頃にはそのプロジェクトが中止になっていたりします。
あるいはそのプロジェクトに別の技術が使われることになったりします。

特許の権利期間は20年と長いですし、外国出願等も考えると特許の成立まで数年かかったりするので、事業の変化と同じスピード感で出願・権利化方針をころころと変えていくのは難しいです。
事業状況が変化しても大きくぶれないような知財戦略を描いていかねばならず、ここについてはこれからしっかり頭を使って考えていきたいと思っています。

失敗する機会に溢れている

ここからは知財業務に限った話ではないですが、大企業とスタートアップとで違いを感じたこととして、スタートアップは失敗する機会にあふれていると感じました。

大企業はすでに長い歴史の中で色々な失敗を乗り越えてきており、トラブルの発生を抑えて業務を効率的に進めるための仕組みが出来上がっています。
そのため、社内で決められたルールに従って業務を行っていればそうそう大きな失敗をすることはなく、うっかり失敗しそうになっても厳しいチェック体制のどこかでカバーされることが多いです。

一方、スタートアップはそのような仕組みが出来上がっておらず、ノウハウも蓄積されていないため、トライ&エラーを繰り返していくしかありません。
たくさん失敗し、その学びを活かしてできるだけ早く成長していくという、大企業とは違った進み方をしていくことになります。

業務の効率に関していえば、失敗しない仕組みがある大企業が圧倒的に有利であると言えます。
ただ、仕組みが完成されていることにより、今までと違うやり方をとることのハードルが高くなってしまっているというデメリットもあると感じています。
せっかく長い年月の中で作り上げた良質の仕組みを壊すのにはかなりのパワーが必要だと思いますが、社会が変化している中で頑固に同じ位置にとどまろうとするせいで、緩やかな死に向かっていくこともあると思います。

それと個人的には、失敗する可能性があっても、思いついた新しい方法を色々と試してみるのは好きなので、今の環境は良さそうだと感じています。

人は厳しく管理されなくてもちゃんと働く

前に働いていた大企業は、工場をたくさん抱えるメーカーだったこともあり、労働の管理体制が非常に厳格でした。
フレックスタイム制度がないので、始業時刻に1分でも遅刻した場合、減給されるか有給休暇を使うしかありません。
終業時刻の方も厳格で、残業する場合には事前の申請が必須ですし、就業時刻と実際の退社時刻との差異が大きくなると後で理由を詰められたりもします。

会社に縛られている感じがしてあまり好きではありませんでしたが、よく言えば仕事のON/OFFが明確であり、就業時間中は業務に集中させ、就業時間が終わると早く帰って休息をとらせるという、生産性向上のやり方の一つとして自分もそれなりに納得してはいました。

これに対して今の職場は、フレックスタイムなので会議がなければ何時に出社してもいいし、みなし残業が長めに取られているため、残業したからといって給料に大きな変化はありません。
つまり、ぶっちゃけ一日に何時間働くかは自由なわけです。
さらに、人事評価制度がまだ整っていないため、アウトプットが多少高かろうが低かろうが給料は変化せず、正社員なので簡単にクビを切ることはできません。

こんなにゆるふわな管理体制にも関わらず、今見えている限り、社員みんなが事業の成功に向けてしっかり働いてアウトプットを出しています。
スタートアップという不安定な環境を自ら選ぶような人が集まっているからかもしれませんが、人は厳しく管理されなくてもちゃんと働くんだなあという軽いカルチャーショックでした。

まとめ

転職前から想像していた通り前の会社と大きく違う環境の中で、情報量の多さに溺れながらもどうにかこうにかやっていく所存です。
もう少しスタートアップの空気に身体が馴染んできたら新たに考えることも出てくると思うので、そのときにはまた書こうと思います。

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