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「糊でくっついていたので読み飛ばしちゃいました」でいいのか?

よりによって「核心」を読み飛ばした

8月6日の広島の原爆死没者慰霊式で菅首相があいさつ文の一部を読み飛ばした。よりによってスキップしたのは「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」という大切な部分だったという。「失礼だ」「自分の言葉で書いていないからだ」などの声が上がるのも当然。それ以外にも冒頭では「原爆」を「ゲンパツ」と読み、こちらはすぐに言い直したらしい。

続報が出た。報道によると、政府関係者は「(読み飛ばしは)「原稿を貼り合わせる際に使った糊が予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていたため」であり「完全に事務方のミスだ」と釈明したという。この「説明」の真偽は確かめようもないし、もし実際に糊のあとがついている原稿を報道陣に見せたとしても、そんなものはいくらでも「でっちあげ」られる。そもそも「それならご本人は手にした原稿をめくりもしないまま演壇に登っていたのか」という突っ込みがあるだろう。

記者は“囁き”に弱い

「糊でくっついてました」には親分を守ろうとする事務方の懸命な努力が垣間見える気がするが、どういう場面で記者に開示されたのかも気になるところ。記事の書き方から推測すれば記者会見あたりを開いて「これは事務ミスです!」と発表したようには見えない。記者というのは案外単純なもので、公の場で釈明されると「そんなわけないだろ。何か隠してるんだろ」と疑いたくなるが、個別に「あれは実は・・・だったんですよ」と“囁かれる”と信じたくなってしまう。それに近いのではないか。

それにしても、大丈夫なのか?

それにしても首相の心身は大丈夫なのだろうか?「原爆」と「ゲンパツ」の読み間違えはなんとなく理解できる。ヒトは圧倒的にしゃべり慣れている言葉をつい口にしてしまうし、すぐに気づいて言い直したのなら傷は浅い。しかし、ページ飛ばしはどうか。どうせ「下が書いたあいさつ文を棒読みするだけ」なのだろうが、体力・気力が充実していれば読んでいる際に意味が通らない箇所には咄嗟に「ん?」となるだろう。

4月の日米首脳会談後のぶら下がり取材では疲れ切った表情に見えた。先日のコーンウォールサミットの日仏首脳会談でも、フランスのマクロン大統領が颯爽と若々しく登場しただけに、トボトボと肩を落として老人のような歩き方で会場にやってきた姿はもう痛々しいほどだった。これが安倍前首相だったら、政策の是非はおいておくとしても、無駄に堂々としているだけに少なくとも「テレビ映え」はしたのである。外交なんて案外そういう部分が大切だったりするのではないか。

菅首相ご本人が心配なのではない。かりにも行政の最高責任者であり、自衛隊の最高指揮官だ。朝日新聞の世論調査では内閣支持率はついに28%になった。一般的に30%を割り込むと「危険水域」と言われる。総選挙は待ったなし、自民党総裁選の日程もにらんだ神経戦になっている。「対抗馬がいないから」という永田町の論理だけが優先されて心身ともに疲弊したリーダーが続投するとすれば、それは大きな国難につながる。
(21/8/10)



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