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演劇版『五体満足なのに不自由な身体』を終えて

今まで誰にも言ってなかったけれど、「一つの指名を終えて力尽きた」

あまりにも膨大な感情とすてきな出会いと文字と言葉を通り抜けて今の自分の状態をあらわすならそんな気持ちです。

最初に佐々木ののかさんの文章を読んだのは「五体満足なのに不自由な身体」で、お読みいただければわかると思うけれど、ご自身の人生や経験を上演形式で書かれているものでした。

頭のレベルでは
「文章を演劇の戯曲としてでなく私小説でもなく
上演形式で発表するという発想、めっちゃおもしろいな(この際そもそもなにをもって演劇かという定義はともかく)」
「これ演劇化したらええのにな〜。出たいな〜。」という感想で、

心のレベルでは
「こんなにノーガードで心の奥深くの茂みみたいなところに突っ込んで、
血だらけでつかみ取ったものをかっこつけずに出してしまって書いた人は大丈夫だろうか」

「でもこの勇気は、今の関係性がどう着地していても、
かつて自分を育てた人に対して苦しい経験をした人とか、自分の感情を受け止めるのに苦心している人に染み込んでいくだろうな」

そんな感想だった。

演劇化したいというののかさんのツイートを見たときはすでにたくさん応募があった様子で
やばい。はよせな。
と焦って7月の『ヤマガヒ〜とうとう〜』でフォトグラファーの平山亮さんに撮っていただいた写真2枚と出たいという旨だけダイレクトメッセージでののかさんに送りつけた。
今思えばもっと作品への想いとかきちんとしたプロフィールとかあるだろうという気持ちで恥ずかしくて胃がシクシクする。

変な思い切りがよかったのかはともかくラッキーにもその後ののかさんとお話しして
演劇版「五体満足なのに不自由な身体」に参加できることになった。

今回は女優の空風ナギさんと演劇経験者であるCAMPFIREの茅島直さんと、原作と演出と脚本と出演のののかさん。
4人の創作は本当に一つ一つの文章を体現するためにどの選択肢を取ることが適切なのかアイデアを出し合う。
質問も自由。提案も自由。
その中からののかさんに最終選択してもらう。

そんなプロセスを経てできた作品でした。
個人的には作品にとってよかれと思って出した提案がどんどん自分を技術的にも精神的にも追い詰め(笑)なおかつ引き上げてくれる高山トレーニングのようでもありました。

その中で、今回の自分の使命というか、やるべきだと心に決めたことがありました。

ののかさんが個展の中でこの文章に再会する手段に演劇を選んでいただけたこと。
本当にうれしくて、参加できたこともうれしくて、きちんと一つの演劇作品として着地するためにわたしにできることならなんでもしたい。

それと同時に「一つの演劇であるという嘘以外は真実でありたい」という個人的な表現者としての信条とともに
『五体満足なのに不自由な身体』に向き合うなら、
今回出演者としてその作品の中に存在するののかさんはとても危険なところまでもう一度飛び込むことになる。

『役者としてぎりぎりのところに飛び込んで彼女が改めて見たいと言った景色をもう一度見せる。
そして演劇の力を信じるものとしてぎりぎりのところからきちんと現実にののかさんを連れて帰る。』

それを見せることが、ののかさんの最初の勇気にふさわしい演劇としてお客さまに届けられると信じていました。

文章にすると思った以上に大きくてなんだかおこがましくてどきどきする。

個人的な話ですが今まで自分の役に深く影響されて精神的に取り乱すことが多い役者(お恥ずかしい)だったのですが、今回どんなに不安定なシーンに取り組んでいてもこの使命がきっちり自分のことも現実に連れて帰ってきてくれました。ありがとうののかさん。

心って、身体って。
みんな違うのに、みんな持ってて、なんなんだ。
好きって、つながるってなんなんだろう。

わたしの中でも答えは出ません。
ご来場いただきましたみなさま、キャスト・関係者含めご協力いただいたみなさま、想いを向けてくださったみなさま本当にありがとうございました。

余談ですが、今回は佐々木ののかさんの文章を展示する個展だったため、

執筆を生業とする方々や、文字に対して積極的な方々がギャラリーの空間にいらしてすごく楽しかったです。
普通に個展に来ていたら、夢中になって読んでて気づけなかったと思いますが、
自分が好きな人たちを含めたたくさんの人が文章に没入するすがたを眺めることが好きなことに気づけました。

ギャラリー内には舞台美術にもなるちゃぶ台が一つあって
ののかさんがお客さまとお茶しながらおしゃべりもしている不思議な空間でした。

今回音響・照明を手伝ってくださった、ののかさんの実の妹である佐々木かえでさんやゆうなちゃんを筆頭に、
おもしろくて率直なののかさんのご友人はみなさん、物事に対する決めつけが少なくて、とりあえず相手の話を聞く、それから自分の気持ちをそのまま話すというシンプルな会話が居心地よかったです。

改めて本当に、ありがとうございました。

(写真は二條七海さんに撮っていただきました)

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