甘いチョコと苦い想い出

今日はバレンタイン。

残念ながら、私にはチョコを渡す相手どころかチョコを買う金もないので、今年は特に蚊帳の外だが。
それでも昔は、2月14日が刻々と近づく度に、ドキドキしながら作るチョコやラッピングを考えていたっけなぁ……。

幼稚園の頃から小学校卒業までの間、ずっと好きだった幼なじみの同級生がいた。彼は顔良し・頭良し・スポーツ良し・性格良し・家柄良しのイケメンロイヤルストレートフラッシュを決められるほどの人物で、男女ともに人気があった。特に女子からの人気はえげつなく、私の恋のライバルたちは、自分よりもうんとかわいく明るい子たちばかりでいつも凹んでいた。
しかも、そういう子に限っておかし作りが上手で、「ママと一緒に作ったの」と美しい出来栄えのガトーショコラを、かわいすぎるラッピングで彼に渡していた。
くそう、何で勝てるっていうんだ……もたついてたらあの子と両思いになっちまう……!当時、実家の電子レンジは「オーブン機能はあるけど使い方がわからないから実質機能がないものとする」という母の地獄の方針のもと、クランチチョコや生チョコとありきたりなチョコレートしか作れず、周りの女の子たちにかなり差をつけられていた。
「彼の自宅を知っているのでいつでも遊びに行ける」という『幼なじみアドバンテージ』すら、彼女たちの大きな一手で効力がなくなるのも時間の問題。一体どうすれば……!

毎年頭を悩ませていたバレンタイン。しかし、小学4年生の年は違った。
その年は、なんとおかし作り教室に通っていたのだ!
ふははは!どうだ、似合わないだろう!
笑いたければ笑うがいい!講師はプロの料理人、味の良さは折り紙付き!
今年のバレンタインメニューは、オレンジピールを織り交ぜた大人味のブラウニー!かわいい女子のおうちチョコのクオリティには負けない!
その意気込みと愛情と恋情を込めながら、生地を混ぜたのを今でも覚えている。

先生のおかげで最高の出来だった。見栄えも味も史上最高作!かわいいラッピングもバッチリして、その日のうちに彼の家に届けに行った。
「ありがとう!大事に食べるね!」
彼は人好きのする笑顔でそう言いながら受け取ってくれた。ああもう、そんな嬉しいこと言ってくれるとこ、ほんと好き!特に想いは伝えられなかったが、彼の言葉に顔を火照らせて自宅へ帰った。

「あんた、顔以外に耳も赤くない?ん?ていうかなんか呼吸荒くない?」
彼の家から帰ってきた私の赤い顔に触れた後、母親は何かに気がついた顔をしながら私を小児病院へ連行した。
母親の予想は的中。
インフルエンザ検査でばっちり陽性反応を出した。
私の赤い顔は、照れた乙女の顔色ではなく、ただの病人のものだったのである。

私が病床に伏した2日後、母の携帯電話が鳴った。幼なじみの彼の母親からである。
「もちこちゃんインフル大丈夫?実はうちの子もかかっちゃったのよ笑」
ああ、お母様申し訳ありません……それ、間違いなく私のせいです……。
あの本命チョコ、意気込みと愛情と恋情の他に、無意識にウイルスも込めちゃってたらしいです……。
本当に申し訳ない……2人仲良くインフルに倒れ、2分の1成人式に出席できませんで……。
私は自責の念から枕を濡らした。

あれからもう13年も経つのかと思うと、なんだか感慨深い。
結局、彼には想いを伝えられないまま別の中学に進路を進め、小学校卒業以来会うことはめっきりなくなった。
きっと今の彼は、かわいい彼女から美味しいチョコレートをもらい、甘い1日を過ごしていることだろう。
ハッピーバレンタイン。風邪引くなよ。

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