見出し画像

「0時 -赤錆-」

私、藤原朱音は重度の先端恐怖症だ。世の中にはとにかく尖った先端が溢れている。

一時期はスイカバーの鋭利さにも顔を伏せるくらいだったのだが、あることがきっかけで生き方を変えるに至った。この小説は私のとある経験を描いたものである。

中学の同級生で肥満児ながらいじめっ子グループのリーダーである北川風太と出会った。その彼は体型こそずんぐりとしていたのだが、性格は冷酷で発言や行動は尖りまくっていた。

ある時は英語の女の先生に「F*ck you bitch!」と連呼し、それを周囲のクラスメイトにも真似させて休職に追いやり、ある時は不登校気味のクラスメイトに「何しに学校来てるんだよ!」としつこく言い、本格的な不登校に追いやったこともあった。

私は彼を理解できず見て見ぬふりをするばかりだったのだが、ある出来事をきっかけに深く関わるようになった。

とある放課後、何気ない風太の発言にクラスはどよめいた。

「藤原って幸せになれなそうだよな」

私はとっさに次は自分がいじめられるのではと思い、体が硬直してしまった。

「そんなぁ。私が片親だからって酷いよ(笑)」

とりあえず、やんわりといなす。

「なんとなく、そんな気がするんだよな」

何気ない一瞬の絡みだったのだが、私は自分の心を見透かされているような気がした。

私は小学二年生の時に父親を亡くしている。

覆面姿の強盗に殺されたのだ。

何故かそのときからとにかく尖ったものが苦手になった。


・・・


夜11時半。

「あ。明日テストなのに漢字のワーク忘れちゃった」

私は夜が好きで夕方から仮眠をとって深夜に勉強するのが癖になっていたので、こんな時間に自分の大変なミスに気づいてしまった。

「面倒だな」

歩いて十数分の中学に向かう。自販機の明かりがやけに明るく見えた。

学校に辿り着き、一呼吸する。

「ふぅ・・・」

夜の学校は特別な雰囲気がある。

23時57分、私は私の教室に辿り着いた。暗闇の中、自分の机を探す。

「あった」

目的の物を見つけ、それに手を伸ばす。

「アアァ・・・」

突然、異音がすると机の奥から血まみれの手が出てきて、私は机の中に引き込まれてしまった。

・・・

「あれ?ここどこだろ」

赤錆だらけの地獄のような風景。少し学校の廊下にも思えたが明らかに様子が違っている。

「おい、藤原!ここどこなんだよ!」

「北川くん!?ここどこなの?悪ふざけはやめてよ」

「いや、俺は一人で部室でタバコ吸ってただけだぞ」

「家で吸えばいいじゃん!ていうか未成年でしょ!?」

「家に居たくないんだよ」

「なんで?」

「俺、本当のお母さんを知らないんだよな」

「え?」

突然の告白にびっくりしてしてしまう。

「ホントだよ。今のお母さんは5年前にお父さんが俺のために連れてきた偽物。優しいだけで分かってくれないんだよ、俺を」

「そうなんだ・・・」

私は少し風太のことを近くに感じるような気がした。

それはほんの少しの颯太に対する理解だったのだが、私には彼の鋭い刃物のような言動を理解不能と切り捨てていた私の考え方の方向性を変えてしまうものだった。

「ほら、藤原!早くこの気持ち悪いところから出ようぜ」

とてつもない異臭がする。

ガタッ

大きな物音がして廊下の奥からおぞましい物体が現れた。

「」

廊下の奥から赤黒いバナナのような顔をした、スーツ姿の男がこちらへ向かってくる。

「アカネェェ・・・アカネェェ・・・」

口から白い液体を吹き出しながらこちらへ向かってくる。

私はその異形を一目見ただけでそれが何かを理解した。寛也だ。

寛也は母の不倫相手だった。記憶が私の脳に流れ込んでくる。

彼は強盗を装って両親を殺そうとしたのだ。

6年前の記憶。

寛也は覆面を被り、私の家に窓から侵入しアイスピックで父を刺殺すると、泣き叫ぶ母の方へ向かった。

覆面をしても仕事帰りのスーツ姿、私には誰だか分かった。

私は「やめて!」と叫び、後ろから寛也の足を蹴った。

寛也は私を見て刺そうとしたがスカートの裾を踏んで滑り、その際、アイスピックで自分を刺し、死んでしまった。


・・・


「アカネェェ・・・!」

「なんなんだ、あの気持ち悪い生き物は!」

さすがの風太も震えている。

「アカネェェェェ」

なになになになに

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

脳の全てが"それ"を怖がっていた。

頭が硬直する。

「アカネェェ・・・!!!」

"それ"が襲いかかってくる。

「藤原に何するんだ!このやろう!」

風太が

その時、私は風太の優しい一面を垣間見た。

「あれは私の恐れだ」

「藤原!こいつの頭、血が集まっていて弱点だ!やっちまえ!」

「アカネェェェ!ウラメシイ!!!!!」

「私のお父さんを奪ったくせにどれだけ自分勝手なんだよ!死ね!」

漢字のワークの先端で寛也の首から顔面を殴りつける。

柔らかな寛也の顔面から血が溢れ出る。

「ギヤァァァ!!!」

何度も切りつけるうちに、"それ"はまた動かなくなった。

「うぅ・・・お父さん・・・」

感極まり、血溜まりの中で泣いていると風太が、

「泣くなよ、終わったんだ」

と抱きしめ、慰めてくれた。


・・・


目を覚ますと、私は自分の家の前で眠っていた。

常夜灯に虫がたかっていた。

私は玄関に置いてある、傘の先端を見ても何も感じなくなっていた。


・・・

翌朝、学校に行くといつもの日常が戻っていた。

廊下で風太がクラスメイトの肩に腕を回し、

「お前、学校行かずに家でスマブラ練習してたんだろ!今度教えろよ!」

と、クラスの皆で大声で笑い合っていた。

なんと風太は昨日まで不登校だったクラスメイトを無理やり学校に連れ出していた。

尖ったものは丸くなる。そういうことは私は思えるようになった。

-完-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?