魔術骨董屋は旅をする〜パリ編2〜

「あなたがトモリ・ジュフクかしら?」

声に振り返ると小柄な女性が立っていたーー

肩までのややウェーブした金髪に大きな花柄の白地のワンピースがよく似合う。かなりの美人だがそれよりも、フランス語でも英語でもなく、かなり綺麗な「魔法語」を使ってくれたことがありがたかった。「魔法語」は魔術師に共通言語で、両親は魔術師なら(魔術の素養は遺伝するのでほとんどの魔術師がそうだが)母語のようにして育つ。依頼の要件の中に通訳は不要とあったので問題ないだろうと思っていたが、ヨーロッパにはごく稀に「魔法語」よりも母国語を優先する者がいる。また、「魔法語」がラテン語の系列であるためか、母語の単語と入り混じった不思議な文章を話す人間も西ヨーロッパには多い。立ち上がって目を見て握手を交わす。依頼人の名前は伏せられている。

「日本魔術師協会から来ました」と言う言葉を聞かぬうちに向かいの赤いソファに彼女は足を組んで座り、小さな白い箱を取り出した。中央によく磨かれた銀色の指輪が鎮座していた。

取り出すと、カシャッと輪が二つに開く。

「ギメルリング…?」

二つの輪が重なるような形で作られたリングをギメルリングと呼ぶ。結婚指輪によく用いられた形で裏側に名前や二人の愛の誓いを彫ってあるのが一般的だ。裏側に彫ってある文字を見て呼ばれた理由がようやくわかった。

リングの円周に彫られた文字は一件筆記体によく似ていたが、全く違う。そもそもこの文字は横ではなく縦に読むようだ。ウネウネと繋がったこの文字は…

くずし字だった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?