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魔術骨董屋は旅をする〜パリ編〜

※この物語はフィクションです。実在の物事、人物や団体などとは一切関係ありません。

パリ行きの便は羽田からも就航しているが、向かう時は必ず成田から向かう。羽田に日本魔術師組合の(安い)優待カードで入れるラウンジが存在しない為だ。ビジネスクラスに乗ればいいではないかと思うかもしれない。しかしながら我が日本魔術師組合は正規会員は旅費を全て負担するが、契約会員については旅費は報酬から天引きされるのだ。バゲットロスの可能性が上がる乗り継ぎ便でこそ来ないものの、エコノミー一択。そして、空港は成田がベストだ。カードで入れるラウンジが一つだけあり、おにぎりやカップ麺のサービス付きだ。現地に着くのは午後の5時ごろなので店が開いていないと言うことはないが、慣れない異国のレストランに入る体力がないと言うのはよくあることーーよっておにぎり二つ、カップ麺を一つカバンに詰め込むことが多い。カップ麺は日持ちするので日本食が恋しくなった頃に食べてもいい。

一週間分だが必要なものは必ず機内に持ち込めるサイズに押し込む。直行便だからと言って安心してはいけない。バゲットロスはいつ襲いくるかわからない。飛行機では最後尾を狙う。後ろの方が先に機内に入れるし、リクライニングで後ろを気にする必要がない。12時間は寝ずに過ごすにはかなり辛い時間だ。

ジャン・リュック・ゴダールの「アルファビル」から抜け出して来たようなおしゃれな70年代風のターミナル1を抜けて、荷物がきちんと辿り着いていることに安堵しつつパリ市内へのバスに乗り込む。パリの美しい街並み・・・・にたどり着く前に凄まじい渋滞に飲み込まれる。慣れるまでは仕事の開始時間に遅れるのではないかとヒヤヒヤしたものだが今や慣れたもの。空港で手に入れた格安SIMの調整をしながら窓の外を眺めていると夕暮れのパリの街に入る。ポツリポツリと暖色の灯りがともるシャンゼリゼを抜けて宿のあるエドガー・キネ通り近くのバス停に降り立ったのは到着予定時刻を1時間過ぎた後だった。

エドガー・キネ通りからメーヌ通りに抜ける細い道は小さなホテルのメッカで安くて上質なホテルが多い。チェックインを済ませ、待ち合わせの場所へ急ぐ。パリの夜景を一望できる場所ーーモンパルナスタワー屋外展望台だ。パリで有名な展望台はエッフェル塔と凱旋門だが、この二つに登ってしまうとどちらかが見えない。両方の夜景が楽しめるのはここだけである。

スタンドでコーヒーを買い展望台へ登ると先客はほぼ居なかった。設置してあるソファーに腰掛け、眼下に広がるパリの景色を見ながら一息ついた。

「あなたがトモリ・ジュフクかしら?」

声に振り返ると小柄な女性が立っていたーー

つづく


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