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月光浴

 西に面した窓から、やけにまぶしい光が入ってきて目が覚めた。朝、という体感ではない。ならばまだ夜は続いているのだろう。夜の空でこれだけの光を放つものといえば、月しかあるまい。

 見事な満月だ。風のない静かな空は高く晴れ渡っていて、どこか淋しい感じがする。月は嘘みたいに丸くて、嘘みたいに明るかった。

 カーテンを閉め忘れていたのだとわかり、再び寝る支度をすべく立ち上がる。カーテンの端を掴んで、ふと月から目が離せなくなってしまった。首を左右に振って、カーテンを引く。

「あの、閉めないでください」

 なにかの声がした。

「日の光はちょっと強すぎて耐えられませんが、これでしたら私も浴びられますから」

 口ぶりから察するに、窓辺に置いた観葉植物が話しかけてきたらしい。真夜中ならそんなこともあるだろう、深く考えずに、こちらからも植物に話しかける。

「まぶしくて寝られないから、困るな」

「む……では、私を月のもとに近づけてくれませんか」

「なんで?」

「私の方から月光を浴びに行きます」

 植物がおさまっている小ぶりな鉢を手にとり、窓を開ける。月に手を伸ばすと、ふわりと鉢が離れていった。

「日が昇る頃には戻ってきなさいね」

 植物に念を押すと、「もちろんですとも」と物分かりの良い返事が返ってきた。

「じゃあ、うちのをよろしくお願いしますね」

 最後に月に挨拶をして、窓を閉め、カーテンを引き、ベッドで再度眠りに溶ける。

 翌朝、言い付け通り帰ってきた植物の方を見ると、心なしかこれまでより葉が艶々としている気がした。

「やはり、良質な月光は格別ですね」

 植物の声が聞こえた気がして、「月の近くで、何か見たか?」と聞いてみる。

 返事はない。昼はずいぶん、シャイらしい。

楽しいことに使います