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未来のスキルを養うための日本文学#1「川端康成とSDGs」

日本文学と聞くとどのようなイメージを持たれますか?

「将来の役に立たない。難しい。眠い。価値が分からない。」

こういった印象を持つ方が多そうなのが肌感覚としてあります。ちなみに、私もそれらの印象を持っていました。

しかし最近、文学や芸術は人生に奥深さや豊かさを与えるヒントとなるものだと気づかされました。

中高で習った日本史や、大学で学んだ日本文学基礎講義など。今ではとても価値あるもだと実感しています。特にライフスタイルやビジネス面において。

では、日本文学が私たちの生活のどういった場面で生かされるのか綴っていきたいと思います。これからの時代をより賢く、有意義に生きるためのヒントが日本文学には散りばめられています。

※本記事はソーシャル経済メディア『News Picks』のInnovators Talkの記事を参考に作成しています。

AI時代に必要な未来のスキル

さて、文学作品のメリットの話を行う前に、今の世の中の現状について軽く触れておこうと思います。

AIの発達により世の中で必要とされるスキルが変わってきました。事務作業能力や手作業の素早さ、アイデア出しなど。これらのスキルはすべてAIに代替されるスキルであると言われています。

雇用の未来』という論文で良く知られている、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が「AI時代に必要とされるスキル」を提言しました。

心理学や教育学は私自身も大学で学習していたので、この表を見て少し嬉しかったです。(笑)意図していませんでしたが、自分の身につけている教養が将来必要なスキルに入っているのですから。

上記に上がっているスキルには共通点があります。分かりますでしょうか?

共通点は「人間理解」を核にしているということです。マシンが最も不得意としている分野がこの「相手を理解する」という作業なのです。

しかし、この未来のスキルをどうやって身につけていけばいいのか。もちろん、学校ではこんなことを教えてくれませんでした。

どうやって身につけていくのか、AIベンチャー「エクサウィザーズ」社長の石山洸さんの見解を交えて紐解いていきます。

未来のスキルを身につけるために、なぜ文学なのか。

なぜ文学なのか?

石山さんは、

極端に言うと、AIから一番離れていそうなものが文学だから。

とおっしゃっていました。確かになと。

決められたフレームの中で問題解決をすることはAIは得意ですが、複数のフレームを一つのストーリーにすることは苦手なのです。

例えば、営業。心理学や社会的洞察力など、複数のスキルを用いて「営業」という一つのストーリーにするわけですが、これがAIには非常に難しいということ。

一方、文学作品には作家の概念や様々なメッセージが、既にストーリーとして構築されています。それに触れるということは、様々なフレームからスキル獲得に繋がるということであります。

その、未来のスキルのエッセンスが詰まっているものが、日本文学であるということです。

石山さんは、日本文学を読むようになって自身の専門のAI研究者という視点と、日本文学を組み合わせることにより関係性を導きだしたとおっしゃっています。

日本文学と未来のスキルを解法するにあたり、5人の文学作家をご紹介します。

そこで、5人の日本文学作家の作品ではなく、作家が打ち出した「概念」に注目することで、未来のスキルを獲得するマインドセットができるのです。

川端康成の「魔界とSDGs」

まず、一人目は大正時代から昭和時代にかけて活躍した、近代日本文学の頂点に立つ男。川端康成の概念を基に紐解いていきます。

日本文学の概念をAI時代のスキルに結びつけるために川端康成の「魔界」という概念はとても参考になります。

この魔界というのはけっこう変態な考え方でして。『片腕』という短編では女性の腕をレンタルで借りてきて、自分に装着して、その片腕と会話をするとか…

いわゆる「フェチ文学」のイメージでもあり、これが日本で初めてノーベル文学賞をとった人が大切にしていたフレームなんですね。笑

で、川端康成のフレームは未来に必要なスキルでいう「社会的洞察力」に繋がってるのです。社会的洞察力とは「社会にある目に見えるものを手掛かりに、その奥底にある「目に見えないもの」を推測する力。」というものです。

どうやって繋がるのか。それを理解するためには「魔界」に着目する必要があります。「仏界入りやすく、魔界入りがたし」という一休和尚の言葉があります。実はこの一休さんの考えを川端康成は参考にしているのです。

「仏界入りやすく、魔界入りがたし」といことをビジネス的な視点でいうと、参入領域の違いで表すことができます。

例えば、「新しいテクノロジーが出てきたから、こういったことができるよね。」みたいなトレンドに乗っかるのは「仏界的」なビジネスといえます。割と誰でも取り組みやすいということです。

一方、「魔界」は教育や介護の世界でAIを活用しようとするなど、敷居が高く参入するのが難しいものです。「人がやるから意味があるんや!」みたいな反対意見など多々ありますよね。

これらをどうやってビジネスに転換させていくのかという発想力が欠かせなくなります。つまり「社会的洞察力」が問われるのです。

では、現代の「魔界」とは一体何なのか。

それは国連のSDGs(持続可能な開発目標)です。

SDGs(持続可能な開発目標=Sustainable Development Goals)は、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための17の国際目標。2015年の国連サミットで、全会一致で採択された。

貧困、飢餓、不平等、環境保護などはまさに「魔界」。人間の心の弱さから生まれてきたものが多いです。

魔界に踏み込んでビジネスをやろうとすると目をそむけたくなることが多そうですよね。

でもここ最近ではこういったSDGsに沿ったスタートアップも生まれてきているのも事実。これからビジネスチャンスが生まれてくるのはこういった「魔界」から生まれてくるのではないでしょうか。

『ゼロ・トゥ・ワン』のピーターティールはこういっています。

ビジネスにトライするときは、新しい学問分野を打ち立てたり、あるいはタブーに挑戦したりしなくてはいけない

魔界にも美しさはある

しかし、誰も入りたがらない「魔界」。そこはかなり過酷で残酷なことも待ち受けていると思います。

そんな魔界に「美しさ」を見出すことが重要になると石山さんはおっしゃられています。

魔界に積極的にコミットしていると、その中にある「美しさ」のようなものがたくさん見つかります。例えば、ある介護施設にはかわいいおばあちゃんがいて、そのおばあちゃんを誰がお風呂に入れるかで、スタッフのけんかが起きたりするらしいんですね。

介護する人やマッサージの職業などでは、実際にサービスを受けている人よりも、それを提供している人の方が脳内でオキシトシン(幸福を感じるときに出てくるホルモン)が出ていたりします。

このような感じで、「魔界」だと思っていたものの中にも実は美しさがあり、これからはAIと科学の進化でそれらが解明されていくのだと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

川端康成の「魔界とSDGs」は社会的洞察力を養うための非常に重要なフレームになると思います。

仏界や魔界という表現がありますが、「仏界は楽だけど、魔界はつらい」という簡単な話でもありません。

多くの人は、表面的に「魔界」の入り口で止まってしまい「仏界」の方へと行きがちになりますが、実際にその中にはまだ見たことのないチャンスや美しさがあるのかもしれません。

「何か新しいことを挑戦したい」「発想の転換が欲しい」「社会問題を解決した」と思った時には、仏界ではなく魔界に一歩踏み込む勇気が必要になるということでした。


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