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未来のスキルを養うための日本文学♯5世阿弥の「人生開花思考」

今回で未来のスキルを養うための日本文学最終章です。

ここまでのプロセス(川端芭蕉紫式部大伴旅人)では、魔界を探し、フィクションを生み出し、ときめくほどのものに出会い、周囲を巻き込んで行動するということをお伝えしました。

1つ前の章の大伴旅人では、「この指、止まれ!」で人を集めるということをやりました。

そうやって人が集まってくると、今度は「この集団の中での自分の役割は何だろう?」という問いが浮かんできます。「この指、止まれ」のあとは、自分の個性の再発見に向かうのが自然な流れです。

スポーツや企業など、どこかのチームやグループに所属するとなると、自分の個性や役割を理解するということはとても大切になっていきます。

その意味でも、世阿弥の『風姿花伝』は未来のスキルの獲得に欠かせない一冊と言えるでしょう。

自分の価値を高める技法

マイケル・オズボーンが、「未来のスキル」の筆頭に挙げていたのが『ラーニングストラテジー(Learning Strategy)「戦略的学習力」』です。その見本といえるのが、世阿弥の『風姿花伝』でしょう。

世阿弥の『風姿花伝』は、能を演じるためのプロセスを説明したもの。「何歳ではこれをしましょう。」と、こと細やかに説かれています。7歳、12歳、17歳、24歳、34歳、44歳、50歳…というライフシフトの形式で書かれているんですな。それぞれの時間のフェーズで、どのように自分の技能を高めていけばいいのかが説明されています。

『風姿花伝』の中でも、最も注目すべきところは、「」という概念だと思います。世阿弥が言う「花」というのは「未来のスキル」でいう「独創性」にあたります。

スタートアップの事業を計画する際にも『ユニークバリュープロポジション(Unique Value proposition)「独自の価値」』を重視されるといいます。これはスタートアップだけでなく、スポーツや仕事でも言えることだと思います。

つまり、一生涯を通じた「アクティブラーニング」の中で、「戦略的学習」を用いながら、唯一無二の「独創性」を獲得していくプロセスを書いたものが、『風姿花伝』ということになります。これが自分の価値を高める技法になるということです。

ちなみに、ジャパネットの高田社長も『風姿花伝』にはまっていたそうです。高田社長がどのように『風姿花伝』を読んだのかは分かりませんが、花を磨き続けたからこそ、あれだけ人の心を動かすことができる話術が身についたのだと思います。


「老いても、老いた後に花が咲く」

『風姿花伝』では年齢によって花の磨き方(独創性の磨き方)が変わってくると書かれています。まさに、ストラテジー。これは確かに納得ができますね。

しかし、年代別でなかなか厳しいことが書かれています。(笑)
しかも、年を取るにつれて厳しくなっていきます。

7段階の人生論(『風姿花伝』第一「年来稽古条々」参考)

7歳
稽古を始めるころ。自然に備わった風情があるから、子どもの心赴くままにやらせるのが良いっすよ~。
12~13歳
子どもっぽさといい、声といい、それだけで奥深しいものなんすよね。でも、その花は本当の花ではない。その時限りの花や。しっかり基本を稽古する必要がある。
17~18歳
人生で最初の関門や。(能役者にとっては『声変わり』)
ここが人生の分かれ目だと思い、諦めずに淡々と稽古を続けろよ!
24~25歳(初心1)
声も体も立派に育ち、新人という珍しさで、たまに名人に勝ったりもするけど、うぬぼれるなよ。そういう時こそ、「初心」を忘れず稽古に励め。
34~35歳(初心2 能の絶頂)
この年頃までに、天下に名を轟かせる評判をとらなければ、「まことの花」とは言えない。これまでの人生を振り返り、進むべき道を考えることが必要。
44~45歳
花が失せてくるのがはっきりしてきたな。
難しい事はやらず、得意とすることをやったらいい。後継者に花を持たせて、自分は控えめにしろ。
50有余(初心3)
もう何もしないというほかに方法はない。本物の能役者なら、そこに花が残るもんや。老いても、その老木に花が咲く

稽古を始めた頃は「心の赴くままにやればいいさ」みたいな感じですが、続けるうちに「ここが勝負だ」というポイントが出てきます。

このとき、一人前になったつもりでおごったりせずに、「初心」に返って稽古に励めば、「絶頂」を迎えることができる。

さらにそこから、ピークを越えて能力が落ちていく中で、どのような戦略を持って自分なりの花を表現していくのか。最後には、「何もしないのに花が残る」という境地を目ざすわけです。

自分の中に「花」のイメージを持ち、そこに向かって稽古して、フィードバックをもらって研鑽していく……というのは、まさしくアクティブラーニングです。

自分が成長しているという実感が持てない人は、そんなプロセスを改めて意識しながら生きてみると、もっと面白いことがあるかもしれません。

『風姿花伝』が重視するのは、「一生涯、磨き続ける」というライフワークによって育まれた、唯一無二の「花」です。よって、「花」というものは誰でも持ちうるものということです。


「リカレント教育」は「花」を磨き続けるためのヒント

「人生100年時代」といわれている時代だからこそ、「磨き続ける」という姿勢は大切になってきます。

世の中の人が全員『風姿花伝』を読んで、実践している人ばかりだったら、リカレント教育(大人の学びなおし)なんて簡単に実現するのにと思いました。

しかし、そうではないのが現状かと思います。学びに対して能動的でない人をどのようにモチベートしていくのかというヒントも、『風姿花伝』の中にあるかもしれないです。

「リカレント教育」と言われると、「また勉強しなあかんの~?」みたいな感じになりそうですが、「人生とは能のようなもので、一生花を磨いていくものなのだ」と考えると、また少し違った視点で捉えられるのではないでしょうか。

オズボーンも言っていましたが、100年生きるという時代に、20歳のときに習ったスキルが死ぬまで通用すると考える方がおかしくはないでしょうか。


まとめ

世阿弥の『風姿花伝』いかがでしたでしょうか。世阿弥や風姿花伝と聞いて「難しそう…」とか「なんのこっちゃか分からない…」「眠たい…」と思っていた方でも、何か一つでも気づきや学びが得られたのなら幸いです。

人生は「磨きつづける」のが前提だと思っています。
でも、それは決して辛いことではないはずです。老いていく中での対処法もきちんとあるし、磨きつづければ「人間国宝」級になれるかもしれないのですから。

何歳になっても学び続ける姿勢をもって、「花」を開花させて人生を終えたいものです。ではまた。

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