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『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』 声は出さずに屁をかます

宮藤官九郎が本を書いた舞台は「ねずみの三銃士」のシリーズしか生で観劇していないが、映像だけなら「ウーマンリブ」「ドブの輝き『涙事件』」は観てきている。“大パルコ人” は初めてで、のん(能年玲奈)がキャスティングされたと聞いた際は「観たいけどこの状況で東京や大阪に行くのもな」と諦めていた。それがライブ配信されるということで迷わず購入。8/18にライブで観て、アーカイブ期限内に再度観ることになった。

今作が以前の作品の時間軸に沿ったものであると知ったのは観た後だけど問題ない。皆川猿時らが出ていた映像クリップが前説よろしく映し出されてから本編が始まる。11年前の戦争で荒廃した2055年の渋谷ということで、東京の人口は10分の1になったという設定。
村上虹郎が演じる浮浪児のにじろーと伊勢志摩&藤井隆のカップルがもめるところでは、そのカップルの衣装に目がいく。20世紀の全体主義を思わせる軍服を着ているが、歴史は繰り返されているのか。ある程度にじろーの素性(未来予知をする時屁が出てしまう超能力少年)がわかったところで、のんが登場して高らかにタイトルコール、そして主題曲の演奏が始まる。

配信では各場面での主要なキャラクターにクローズアップされるため、のんのギター演奏の様子と音が合っていないので生演奏じゃないのかなと一瞬思ったが、引いた全体の映像になるとクドカンがリードギターを演奏しているのでやはり生演奏なのだとわかった。
おそらく “大パルコ人” ではずっとそうなのかと思うが、演者たちの演奏は無線でのもので、そうなるとちょっと前に観た映画『アメリカン・ユートピア』のことを考えたりした。偶然ながら踊り(?)を担当するのが2人という共通点も。
のんの歌唱はこれまでも配信曲などで知っていたけれど、生演奏の映像を観るのは初めて。彼女の舞台での演技は『私の恋人』を生で観劇していたので、その時との違いを感じることもあった。

今作はクドカンとの久しぶりのタッグということで、『あまちゃん』以降の各種活動(残念ながら演技面での露出が圧倒的に減ったが)がここに集約されているようにも感じられて嬉しくもある。あの伸び伸びとしながら凛としたタイトルコールはつかみとして素晴らしい。
のんの役名はNONで、年齢も28歳。自身の超能力、テレパシーに関する過去を語るなかで「婚約破棄」の経歴も語られ、それを受けたにじろー達に「苦労したんだね」と言わせるなど、現実とリンクしているようでもあった。

それは作中にちょいちょい出てくる時事ネタのような話題もそうで、にじろーが住んでいる廃墟の公園はミヤシタパーク、マイノリティへの不寛容、ある財務相のネタなど、やはり現代社会を反映させたものになっていると感じていた。特に今作で主軸になる「LGBTQEYC5H 音楽祭」の開催やその意義を誰が壊そうとしたか、は重要なテーマだったと思う。藤井隆にあのような役を演らせるのはうまいなとも。

のんの変顔、荒川良々の配役、でんでんの声での出演、そして伊勢志摩のフレディ・マーキュリーなどのあまちゃん要素もふんだんにあり、そうしたサービスも盛り込んでいて楽しい。仙台公演で盛り上がるんだろうな。
さらに音楽面では、少路勇介、よーかいくんの演奏にYOUNG DAISのラップが盛り上げる。特にYOUNG DAISのラップは多くフィーチャーされていて、そのクオリティが舞台の出来に寄与していたと思う。彼については知っている気がしていたけど『TOKYO TRIBE』での印象とはかなり違っているのでただの気のせい。しかしこれからもっと観られそうなタレントだなと思った。

三宅弘城の宇宙人という設定も謎だけど、それは「実は」じゃない方の存在なのかな。その妻を演じるときの荒川良々がいわゆる九州弁で、ここでは「またか」と思わせる。今まで観てきたクドカンの舞台ではそれなりによく出てくるのだけど、この場合は荒川良々が佐賀出身なのでわからなくもないが、やはり何故なのだろうとは思う。いや面白いんだけど。

またおそらく村上虹郎にとって挑戦的な舞台になっているのではと思う。彼だけが一つの役を演じていて、基本的に出ずっぱりであり、コメディのパートではツッコミまでやっていた。そしてなんといっても放屁をしまくる役ということで、最近観たもの(今際の国のアリス、るろうに剣心 最終章 The Beginningなど)とのギャップはあまりに激しい笑。ただちょっと面白いのはドラマ版の『この世界の片隅に』で水原哲を演じていたということだ。観ていないので知らなかったが、それはのんとの間接的な接点ではある。

最後にやはりのんについて。先にも述べたように彼女のこれまでのキャリアが活かされたような今作を書いたクドカンには感謝したいし、このような成果を見せてくれた能年玲奈にもおめでとうと言いたい。いや、それにしても生で観たかった‥。

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