「ふたつの日本」を読んで、知らない日本が見えてきた

私は、望月優大さんのファンである。彼が編集長を勤めるニッポン複雑紀行での記事は、普段知れないような、日本に住むさまざまな外国人の複雑なライフスタイルや葛藤など、ただ呑気に生活しているだけでは知れないような日本の課題を、冷静ながら暖かい眼差しで伝えくれる。

望月さんの新書である『ふたつの日本「移民国家」の建前と現実』が届くまでは、ニッポン複雑紀行のインタビュー記事のような、日本で生活する個人に焦点をあてたストーリーが読めるのかと思っていたが、良い意味でその予想は裏切られた。
個人のストーリーにフォーカスするのではなく、マクロな数字や、首相による国会での発言などの客観的な情報を積み上げて、日本の外国人受け入れにおける「建前」と「実際」の違いを白日のもとに晒しているのだ。

今では日本には109万人の「永住移民」がおり 、155万人の「非永住移民」がおり 、最後に少なくとも131万人の「移民背景の国民」がおり、3カテゴリ ーの合計はおよそ400万人で、その数は増え続けている。日本は既に移民国家なのだ。

日本では、「いわゆる単純労働者を受け入れない」という建前で移民を否定しながらも、企業からの強い要望もあり、研修・技能実習生や留学生などを労働力として受け入れ、サイドドアから外国人を受け入れてきた。しかし、サイドドア経由で日本に住んでいる外国人たちの中には、借金を背負い、最低賃金以下で働かされ、仕事を自由に選ぶことができず、他のコミュニティとの接点がなく、セーフティーネットもない状況にいる人も多い。

日本の外国人受け入れの制度には、「若くて健康 、病院を利用せず 、単身で家族を持たず 、ある程度は日本語ができ 、犯罪歴もなく 、社会保障に頼らずとも自分の生計を維持でき 、数年以内には自分のお金で帰国していく(引用)」という都合の良い外国人労働者像が透けて見えると筆者は言う。

第5章では増加を続ける一方の入国管理センターの非人道的な管理体制も語られているが、日本では、人権というのはあくまで、国家が認定した人々に対してしか適用されないのだ。
ちなみに、命の危機にあったクルド人男性が、入国管理局から救急搬送を拒否されたという事件が、この本を読んでいる最中に発生した。


中国やシンガポールなど、経済発展を続けている国が多い中で、このような都合の良い条件を出している国にいつまでも外国人が働きにきてくれるだろうか。

今年4月からは、「特定技能」という新たな在留資格が新設される。これまで問題の多かった技能実習制度の受け皿としての側面が強いが、中間業者による搾取など、根本的な課題が解決しない中でこのような制度がうまくいくかどうか、望月氏は懸念している。

冒頭で、「客観的な情報を積み上げて」と書いたが、望月氏の優しさや、国の欺瞞に関しての憤りは、冷静な論調ながらも十分に伝わってくる。

「同じ社会に暮らしていても、一人ひとりは互いの小さな世界の中で暮らしている。互いの存在は見えず、知り合わず、話し合わない。それは私も、 なたも、同じことである。(引用)」


見えないからといって、問題は無かったことにはならない。「彼ら」の問題ではなく、「私たち」の問題として、包摂していくような日本であってほしい。そのために、まずは関心を持つこと、自分ができることを探すことから始めようと思った。




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