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Funding the Commons Tokyo 2024: デジタル公共財が切り拓く、新たな社会への挑戦


デジタル公共財のために多様な参加者が集結

先日の記事で期待を寄せていた Funding the Commons Tokyo 2024 が、盛況のうちに終了しました。

デジタル公共財への高い関心を反映し、200人以上の参加者と50名近くの登壇者を集めた大規模なイベントとなりました。

東京都の小池百合子知事の挨拶に始まり、デジタル庁の楠統括官、平将明議員、IPAの平本デジタル基盤センター長などが登壇し、行政側のデジタル公共財への注目度の高さが伺えました。さらに、国際的な注目度も高く、台湾のデジタル大臣として知られるAudrey Tang氏や経済学者のGlen Weyl氏といった著名人も登壇しています。
もちろん web3 関係でも、Ethereum Foundation の Aya さんや GitCoin の Co-Founder Scott Moore 氏などが参加し、トークンのメカニズムを使った、公共材を支えるためのエコシステムについて深い議論が交わされました。

この多様な参加者の顔ぶれは、デジタル公共財が単なる技術的な話題ではなく、社会のあり方そのものに関わる重要なテーマであることを示していました。

活気に満ちた雰囲気

会場は終始、熱気と興奮に包まれていました。セッションの合間には、バックグラウンドの違う参加者同士が熱心に議論する姿が見られ、通常では出会えない異分野の専門家同士が新たなアイディアを生み出す瞬間が随所で見られました。

「コモンズにファンディングをする」という共通のテーマが絶妙で、だからこそこれだけ多様な背景を持つ参加者たちが集まったのだと思います。自身の経験や知識を持ち寄り、熱心に意見を交換する姿は、これから何かが始まる予感を感じさせるものでした。

国連大学という象徴的な場所で行われた対話と交流は、デジタル時代における新たな公共性の創出に向けた重要な一歩となりました。この熱気あふれる雰囲気こそが、Funding the Commons Tokyo 2024の成功を物語っています。

Funding the Commons の会場で聴講する人たちの写真
熱気に包まれた会場

学びと刺激に溢れる多様なセッション

2日間にわたり、豊富で多様なコンテンツが展開されました。

1日目は科学と公共財の関係性に焦点を当て、DeSci Tokyo の濱田氏による科学の再現性危機と価値創出の問題提起から始まりました。また、トークンを活用したインセンティブシステムや政府のグレーゾーン解消制度の紹介など、具体的なアプローチが議論され、参加者の興味を引きつけました。

2日目は、Pluralityムーブメントの提唱者であるグレン・ワイル氏やオードリー・タン氏によるパネルセッションが注目を集めました。私にとって特に印象的だったのは、UNICEF Office of Innovation の Cheryl Ng の講演です。企業による国家のデジタル植民地化の防止だけでなく、デジタル公共財やオープンソースのエコシステムを活用した新たな市民参加や官民連携の促進というビジョンはとても力強かったです。

Cheryl Ng が講演をしている写真。映し出されているスライドには、以下のように書かれている。Building Digital Public Goods, It's about power to the people. We need to re-center questions of digitization & sovereignty around power to, asking how it serves affected people. rather than allowing tech to merely increase (or their contractors/collaborators) power over those people.
デジタル公共財を構築するとは、人々の上に立つことではなく、力を与えることだ

また、IPAのデジタル基盤センター長の平本氏も、政府はオープンソースソフトウェアの最大の利用者であり、オープンソースにもっと投資をすべきだと訴えていました。

IPAの平本氏がプレゼンテーションをしている写真。スライドには以下のように書かれている。Government is one of the biggest open-source user. We should become one of the biggest open-source providers and incubators. In fact, EU, UK, US and other countries have open-source strategy & policy.
平本氏のセッション
スライドの写真。タイトルに Role of government と書かれており、その下に We, government , should focus on open source. と書かれている。また、その下には政府が共通機能をオープンソースとして公開することで、企業やコミュニティが行政と共に機能改善していけることを示す図が書かれている。
平本氏のスライド

デジタル民主主義を掲げて東京都知事選挙戦に臨み、多くの票を獲得した安野氏とオードリー・タン氏の、ブロード・リスニングに関するディスカッションも大変興味深かったです。

オードリータン氏と安野氏が並んで聴衆に向かって話をしている写真。スライドのタイトルが写っており、Broad listening in practice と書かれている。
安野氏とオードリー

このセッションは、Plurality Tokyo の Youtube で公開されています。

Dig DAO からも、taka 氏がマッチングファンドの結果について報告をし、政府がどのように Quadratic Funding を使うことができるかを議論しました。

taka、オードリー・タン、渋谷区の田坂氏がパネルディスカッションで話している写真
政府が Quadratic Funding をどのように使うか

これらの多様なセッションを通じて、参加者はデジタル公共財の可能性と課題について多角的な視点を得ることができ、具体的なアクションにつながる示唆に富んだ議論が展開されました。

シビックテックを支える資金モデルの提案

私のセッションでは、シビックテックの持続可能性に関する課題と、その解決策としての基金についてのアイデアを紹介しました。

シビックテックにはプロトタイピングによる瞬発力や、当事者やそれに近い人達が参加できることによる包摂力がありますが、そこで生まれたプロジェクトをプロダクトやサービスに落とし込むためのリソースを確保することは難しく、多くの素晴らしいアイデアが実現までいかずに死んでしまうことが多いです。
それを支えるために、トークンの活用と基金づくりの2つの方向の活動を行っているのですが、この場では防災の課題をデジタル公共財を使って解決するための基金を作る動きを紹介しました。

このアイデアは、デジタル公共財の創出と維持を支援する新しい仕組みとして、参加者から大きな関心を集めました。シビックテックの持続可能性を高めることで、より多くの社会課題に取り組み、真の意味でのデジタル公共財を生み出すことができると考えています。

関が30名程度の聴衆の前でプレゼンテーションを行っている写真
プレゼンテーション中の私

「悔しい思いを持ち帰ってほしい」

最後のクロージングセッションでは、企画メンバーの一人、守氏の言葉が多くの参加者の心に響いていました。リサーチャーとして活動する守氏は、海外の Funding the Commons で様々な人と交流する中で「多くの情報を知っているつもりでいたが、実際には具体的なプロジェクトを行っておらず、何も生み出していない」という悔しさを感じたそうです。この経験から、守氏はより具体的なアクションを起こそうと決意したそうです。

クロージングセッションの写真。左から David Casey氏、taka氏、濱田氏、守氏が写っている
クロージングセッション。左から David Casey氏、taka氏、濱田氏、守氏

この率直な告白は、知識を持っていることと実際に行動を起こすことの間にある大きなギャップを浮き彫りにしています。この「悔しさ」は、私たちに以下のような問いかけをします。

  1. 私たちは本当に社会に影響を与えるプロジェクトを生み出しているか?

  2. デジタル公共財の理念を、具体的な形にしているか?

  3. 知識や情報を持っているだけで満足していないか?

このカンファレンスで得た学びやつながりを、どのように具体的なアクションに変換するかが、今後の私たち一人一人に課された課題だと感じました。

デジタル公共財の、ネットワーク材としての可能性

Funding the Commons Tokyo 2024を通じて得られた重要な気づきの一つは、「デジタル公共財」の新たな価値です。従来の「コモンズ」や「公共財」の概念を超えて、使えば使うほど価値が高まる「ネットワーク材」としての側面に注目すべきだということです。消費の競合性でコモンズと公共財を分類する考え方は、デジタル公共財の議論には当てはめきれません。

Digital Public Goods Alliance によると、デジタル公共財の定義は、以下のようなものです。

持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために役立つ、オープンソースソフトウェア、オープンデータ、オープン標準、オープンコンテンツなどのデジタル資源で、プライバシーやその他の適用可能なベストプラクティスを遵守し、害を及ぼさないもの

出典:Digital Public Goods Alliance

ベンダーロックインの排除や相互運用性の強化などが良く言われるデジタル公共財の効果ですが、ネットワーク材としての価値も重視すべきだと思いました。
オープンかつ再利用可能なツールを公共財として提供することで、それが社会全体の利益につながる、という考え方は、私の過去の note でも紹介しています。

ネットワーク材としての効果は、たくさんの人に使われることで生まれてきますが、これには全体最適の視点を持つ必要があります。日本の例で言えば、一つの自治体だけがオープンソースソフトウェアを公開してもあまり効果がありません。どうしたら、デジタル公共財を組み込んだビジネスモデルが作れるのか、最適な運用をしていくにはどうしたらいいのか、課題は山積みです。

グレン・ワイル氏は「supermodular」という概念を用いて、デジタル公共財が他のシステムや資源と相互作用し、その価値が増大することを説明しています。彼の理論では、デジタル公共財の利用が増えるほど、他の関連する公共財やサービスの価値も増大するという点が強調されています。これは、デジタルネットワークが持つ積極的な外部性を説明する上で重要です​。
社会全体で利用できるこのような「材」を増やしていくことが、シビックテックの活動をより価値あるものにし、持続可能なエコシステムの構築につながると考えられます。

イベントを実現してくれた皆様に感謝

Funding the Commons Tokyo 2024は、デジタル公共財の未来について深く考え、行動を起こす決意を新たにする素晴らしい機会となりました。このイベントを実現に尽力してくれた taka、濱田さん、守さんを初めとする日本側の企画メンバー、FtC の David や Anna、 Beth、当日素晴らしい運営をしてくれたボランティアスタッフ、そしてスポンサーの皆様に深い感謝の意を表します。

私たちは今、デジタル公共財の新たな可能性を目の当たりにしています。このイベントでの熱量を維持し、具体的なプロジェクトや取り組みへと発展させていくことが、これからの私たち一人一人の責務です。

本カンファレンスを通じて出会った人たちと、たくさんのミーティングを予定しています。私自身も、次のステップへ進むためのプロジェクトを進めていきたいと思います。

「悔しさ」を原動力に、知識を行動に変え、社会に真の価値をもたらすデジタル公共財の創出に向けて、共に歩みを進めていきましょう。

Funding the Commons Tokyo 2024は終わりましたが、やるべきことは山積みです。それぞれのフィールドで、できることを進めていきましょう。

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