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舞え、ハチクマ。日本の空へ:オランダ発グラフィックノベル・クラファン達成への願い

父親から本屋を受け継ぎ、最後まで経営したいと考える主人公シモン。
ある日、自殺をするため線路に侵入してきた女性を目撃し、忘れようとしていた過去のトラウマが蘇る。中学時代に親友を亡くしたシモンは、その秘密を今日まで抱えて生きてきた。
本屋の存続をめぐる妻との確執。謎の少女との邂逅。少女の正体は、そしてシモンの辿りついた答えとは――。

エメー・デ・ヨング作「ハチクマの帰還」
オランダ発、日本語ではまだ誰も読んだことがないグラフィックノベルが現在、日本での翻訳出版のためクラウドファンディングを募っています。

クラファンの形式は「All or Nothing」、目標金額を達成した場合のみ支援金を受け取る方式です。成立した場合の出版は2025年春を予定しています。

「ハチクマの帰還」クラファン発起人であり翻訳者でもある川野夏実さんにお話をうかがい、出版にかける想いなどを語っていただきました!


グラフィックノベルの魅力、独自の表現

――まずグラフィックノベルとは何か、簡単にうかがってもいいでしょうか。日本の漫画とは別物ですが、読んだことがない方には違いがわかりづらいかもしれません。

川野さん いちばん日本で有名な同ジャンルの作品はおそらく「タンタンの冒険」シリーズですが、現在は大人向けのグラフィックノベルもたくさん出ています。

特徴としては構成の自由度が高く、作家性が強く出たものが多いと感じています。日本の漫画はコマ割りと吹き出しによる表現が基本ですが、グラフィックノベルではコマがなく一面で描かれたページや作家自身の手書き文字、コラージュや水彩を活用したもの、長めの文章を間に挟む作品もあります。

――いまちょうど見せていただいているものも、セリフだけでなく、小説でいう地の文の描写も文字で書かれていますね。

川野さん そうなんです。あと日本の漫画だと、読者がどう受けとるべきか割と親切に誘導されますが、グラフィックノベルではどう読み解くべきかが読者に任される部分が多く、慣れるまでは時間がかかるかもしれません。
その分大人向けのテーマも多いので、文学がメインで、漫画はあまり読んでこなかったという方にも楽しんで頂けるかと思います。

作中にみる、オランダのリアルな書店事情

――作品により、アダルトな描写が含まれるものも見受けられます。大人向けを意識しているように思いますが、オランダの書店でグラフィックノベルはどのように扱われているのでしょう?

川野さん 日本に比べて、性描写など直接的だったりしますね。グラフィックノベルは大人向けの文学棚、子供向けのコミックは子供の本のコーナーに分けられています。
ただ、オランダの書店事情は多分日本よりも悪くて、小さい書店ではその時売れているものぐらいしか置かないんです。なので、大体はネットで済ませることが多いです。一方で、コミックイベントや書店で著者のサイン会も行われていて、その場で絵とサインを入れてもらえるので、ファンとしてはうれしいです。

川野さん提供:オランダの独立系書店の店頭写真
川野さん提供:書店のグラフィックノベルコーナー。海外マンガは判型も多彩で個性豊か。隣には「ウイングスパン」などボードゲームも置いています

――そうなんですね!? ヨーロッパは個人書店が強いイメージでいましたが、国や地域によっても違うんですね。

川野さん 最近日本でも独立系書店が頑張ってるみたいですね。私の住む街の隣町はライデンという大学街ですが、そこには昔からコミック専門店が2軒あって、今も残っています。普通の書店でいうと、やはりチェーン店が強く、そのチェーン店も、本の代わりに文房具や雑貨を売る面積がどんどん増えている印象があります。
あと、オランダでは軽減税率が採用されていて、書籍は生活必需品と同じ9%だったんですが、嗜好品と同じ水準の21%になる法案が持ち上がっていて、書籍業界が中心となって署名運動が行われました。

――それは……ひとつの文化の窮地ですし、何とか守り通したいですね。「ハチクマの帰還」も父親から本屋を受け継ぐお話ですが、本屋の事情もリアルに描かれていそうです。

川野さん そうですね。「ハチクマの帰還」が描かれたのが十年前ですから、あの時より事情は悪化しているといえるでしょう。

世に知られるべきオランダの作家たち

――グラフィックノベルの中でも、川野さんはオランダの作家に注目されています。背景にどのような想いがあるかうかがってもいいでしょうか。

川野さん いま特に注力しているのはエメー・デ・ヨングですが、日本国際漫画賞で最優秀賞をとった作家なのに、日本語で読める本が一冊もないのを何とかしたいと思っています。

外務省 第15回日本国際漫画賞 受賞作品一覧

――確かに、日本で受賞したのに読めないのはもどかしいですね。

川野さん 版元に問い合わせたところ、版権は空いている。じゃあ、持ち込みをしてもなぜ出せないのかというと、編集者の方に読んでいただくと、作品自体の魅力は認めていただけることが多いのです。一方で、グラフィックノベルというジャンルが、日本ではまだまだ知られていないために、実際に本を買ってくれる読者がどれだけいるか、出版社からすると見込みが立てづらいところがあります。翻訳者自らが、グラフィックノベルを読みたいと思ってくださるファンを作っていかなければいけないと思っています。

川野さん提供:エメー・デ・ヨングの作品。真ん中が原語版「ハチクマの帰還」

川野さん オランダでもグラフィックノベル作家の地位はまだ低く、才能はあるのに生活できるだけの収入を得られる作家は数えるほどしかいないという現状があります。
そんな作家たちにとって漫画大国の日本での出版は夢でもあるので、グラフィックノベルをまだ読んだことのない読者に手にとってほしいです。

――日本での出版は作家さんにとっても夢なんですね。

川野さん 日本のアニメや漫画に影響を受けている作家は、相当多いでしょうね。

川野さん提供:オランダ・ハーレムでのコミックフェスティバルの様子(2024年6月)

――グラフィックノベルは他にない読書体験ができる点でポテンシャルがあるジャンルだと感じています。「ハチクマの帰還」を読んだ方がもっと読みたいと思った時、他にはどんな作品がありますか?

川野さん 邦訳されているものでオランダ発の作品でしたら、私の訳書が2冊、『ゴッホー最後の3年』『小さなベティと飛べないハクチョウ』がともに花伝社から出ています。

川野さん提供:グラフィックノベルの写真。中には川野さんが訳を手がけた作品も

川野さん あとは各国の漫画のことが知りたかったら、大阪の谷町六丁目にある書肆喫茶moriさんがnoteで漫画を紹介してくださっています。お店では各国のグラフィックノベルを自由に手にとって読むことができますよ。社会派の作品などは、お近くの図書館にも蔵書があるかもしれません。

――ありがとうございます。最後に、これから読むかもしれない未来の読者へメッセージなどあれば。

川野さん これまで本をたくさん読んでこられた読書家の方でも、グラフィックノベルはまだ読んだことがない方が多いのではないでしょうか。グラフィックノベルに手を伸ばしていただけたら、きっとまだ見たことがない新たな世界を体験していただけると思います。
一口にグラフィックノベルと言っても、様々な国の多種多様なスタイルの作品がありますので、きっと好みの作品が見つかるはずです。ぜひ、グラフィックノベルのファンになっていただいて、まだまだ若いこのジャンルを一緒に日本で育ててください。

――ありがとうございました!

川野さん提供:コミックフェスティバルにて、著者のエメーさんと川野さんのツーショット。
翻訳出版、応援しています!

「ハチクマの帰還」クラファン受付は9月2日まで!

エメー・デ・ヨング「ハチクマの帰還」は現在、翻訳出版に向けクラウドファンディングを募っています! 目標達成後はサウザンブックス社のレーベル・サウザンコミックスより、2025年春ごろに刊行される予定です。

応援プランは複数あり、書籍1冊が届くプランは2,640円、電子書籍1冊プランは2,530円と、販売予価よりそれぞれ100円程度お安くなっています。

クラファン受付は2024年9月2日までなのでお忘れなく! 私も微力ながら応援させていただいたので、書籍が届くのが待ち遠しいです。
本邦初刊行となる書籍を楽しめるチャンスですので、ぜひ応援いただければ幸いです!

クラウドファンディング「GREEN」Webサイト

サウザンブックス社Webサイト

サウザンブックス社では、過去にも同様のクラファン形式でグラフィックノベルやバンド・デシネを翻訳出版しています。チェコや台湾発の漫画も扱っているので、ご興味があればぜひどうぞ!

翻訳者・川野夏実さんのX(Twitter)

クラファンの現在の状況については、翻訳者・川野夏実さんのX(Twitter)もご確認ください!


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