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【将棋考察】振り飛車が勝ち難い理由の言語化

1.飛車を動かす手数分、居飛車が先を行く

居飛車対振り飛車の対抗形に限ると、振り飛車は最低でも飛車に1手かけます。中飛車や向かい飛車の場合は飛車を引いて計2手費やすこともあるでしょう。居飛車はこの1,2手分を自由に使うことができるのです。攻めに使うしても囲いに使うしても、この手の交換は居飛車の方が先を行くため、これが振り飛車が勝ち難い理由の一つだと自分は考えています。仮に、飛車で相手の大駒を狙う観点から評価すると、居飛車と三間飛車とでは下記の図のように純粋に1手の差が生じます。

手数的な不利
(最初から角を狙える絶好の位置にある飛車の筋をズラす振り飛車は非論理的ながら、人間らしさを感じます)

振り飛車の中では飛車に直接働きかけられる三間飛車が最も理に適っています。しかし前述の通り、居飛車が1手先を行くため、その1手分を補う何かしらの戦略が必要となります。また、現在流行が一段落した四間飛車と中飛車に関しては、突破先に目標となる飛車がいないので三間飛車のような攻めの厳しさがありません。大駒に駒を当てるには居飛車より2手以上余計に手数がかかるため、残念ながら手数コスパの悪い振り飛車だと言わざるをえません。

中飛車を指すときのイヤな感じの正体

▲中飛車ー▽居飛車の序盤で▲5八飛~▲7七角と▽4二玉~▽3二玉の2手を交換したとします。このとき、どちらの2手の価値が高いと言えるでしょうか?玉を堅く囲うはっきりとした目的がある居飛車と、攻めか守りかはっきりしない中飛車の大駒移動…… これはもう比べるまでもないでしょう。中飛車の布陣は居飛車の飛車・角に対して動きを牽制するどころか、攻撃する態度がゼロであることがヌルいのです。そのため、5筋位取りをすると超速の右銀一枚ぽっちで中飛車の左辺の駒の動きが大きく制限させられる有り様です。

また、中央の歩交換を考えてみても飛車3手と歩3手、トータル6手もの手数がかかります。その間に居飛車は玉と金銀に手をかけて陣形の差を広げられます。歩を切ったメリットが中飛車に多ければ釣り合いは取れるでしょうけれど、角頭や端攻めなどに逆用されるデメリットがあってお得感は余りありません。客観的に見て、6手も玉を囲うのを遅らせながら片美濃や木村美濃のような弱い囲いを作るのがやっとの中飛車は、序盤で少しでも利を求める現代将棋の感覚と合致していないとしか言いようがありません。

2.大駒の利きの交点が自陣に近く、協力して同じ場所を叩きにくい

振り飛車の大駒の利きの交点は良くて五段目(石田流本組や中飛車)まで

もう一つ注目すべきは大駒の利きの交点です。振り飛車は飛車と角が接近して利きの交点が自陣近くにあり、協力して敵陣の同じ場所を叩くことができません。また、飛車を左辺に持っていくと利きが被りやすいため、角の配置と左桂の捌きに苦労するデメリットも抱えています。

これまでをトータルすると、振り飛車は手数的にも大駒の利きの交点的にも自分から勝ち難い手を選択していると言えます。飛車と角を同じ価値とみなす場合、この両面でコスパが最強なのは居飛車、次点で三間飛車、次々点で右四間飛車と考えられます。三間飛車を右四間飛車よりも上だと評価した理由は、大駒の利きの交点に由来する攻撃力の高さよりも直接大駒を狙えるメリットの方が大きいと判断したからです。個人的に、100年後に生き残っている振り飛車は三間飛車であると予想しています。

現代振り飛車の採るべき策

このように、論理的に考えて不合理な振り飛車の採る策としてはⒶ.1手以上の遅れを承知で堅さで対抗する、もしくはⒷ.堅陣を築く狙いを潰す速攻や奇襲を仕掛けるに分かれるでしょう。

( 'ω' ).。oO( 2000年頃までは対急戦がメインだったから振り飛車は美濃の堅さを活かして勝ててたけど、居飛車が持久戦をメインに選ぶようになってきたよね…… 今は居飛車の方の陣形を堅く感じる振り飛車党が大半じゃないかなぁ?

Ⓐ.堅さ対抗策

戦形が相穴熊の場合、2枚金が縦か横で連結している形はとても耐久力があります。これは居飛車ならすんなりできますけれど、振り飛車はスキが多くなるためにかなりやりづらいです。居飛車は1手先行の利を活かして、振り飛車穴熊の堅さが中途半端なうちに攻めてくるでしょう。そうすると、堅さには堅さで対抗する作戦は手数的に得策ではありません。

2020年には振り飛車ミレニアムなる戦法本が発売されたそうですが、振り飛車穴熊よりもかかる手数が1手ないしは2手少なくなるので、居飛車穴熊に対抗するなら理に適っている作戦と言えそうです。余談ですが、自分は2000年代に中飛車ミレニアム(自称「ねこぱんち戦法」)を使って全国大会で戦っていました。その時の居飛車の囲いはノーマル居飛車穴熊が主流だったことと、超速が普及する前だったこともあって高い勝率を誇りました。

いわずもがな、ミレニアムの弱点は桂頭で、桂を打って露骨な金駒剥がしを狙われるとすぐに火が回る脆い囲いです。ミレニアム使いなら簡単に桂を渡さない&打たせないことを心がけましょう。近い将来、振り飛車ミレニアムが対居飛車穴熊の救世主になると信じてやみません。

Ⓑ.居飛車穴熊阻止の速攻・奇襲策

以前書いたエッセイでは、三間飛車が最も攻防バランスが取れている振り飛車だろうと述べましたが、先ほどその理由を言語化しました。

振り飛車側としては無条件に居飛車穴熊に組まれるのは単純にマズイので、できあがる前に阻止すりゃいいんじゃない?っていう考えになります。三間飛車が流行っているのは、振り飛車の中で手数コスパが良いことに加えて、居飛車穴熊封じのトマホークやかなけんシステムなどの速攻が使えるのが後押しをしているからなのでしょう。

居飛車側は従来の居飛車穴熊ルートを行こうとすると端桂ポンポンの奇襲トマホークを食らうことが分かったので、急戦でも持久戦でも対応できる左美濃→銀冠→銀冠穴熊という金銀の結びつきを重視した隙のない駒組ルートを開拓しました。現在はこれを打ち破る速攻が三間飛車側に求められているところです。

個人的には、居飛車に1手先行することを許しているのに、速攻で攻略しようとする振り飛車の考えは作戦的にチグハグなんじゃないか?と感じています。居飛車穴熊を阻止できなくても、例えば、三間飛車ミレニアムかねこぱんち戦法のように穴熊の弱点である端をゴリ攻めして攻略するⒶ案が良かろうかと思います。

( 'ω' ).。oO( 自分は矢倉・横歩取り・角換わり・相掛りなどの相居飛車の定跡を覚える面倒くささから逃げるために振り飛車党に転身したので、そのツケが今になって返ってきたなぁという感じです

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