妹の裏切り 12

【最終章】『幸せの訪れ』

 翌日優と隼人が病院の定期検診へとかけた帰り、家に着くと部屋の前に絵梨の姿があり突然の絵梨の姿に驚いてしまう優。

「びっくりした、どうしたのよ突然」

 今までの優達への行いからまさか絵梨から姿を現すとは思わなかった為優はこれしか言葉が出なかったのだが、次の瞬間絵梨の口から思わぬ言葉が発せられた。

「あんたなにパパたちにチクってんのよ、そもそもあたしから隼人を奪ったのはあんたの方でしょ、あんたなんかいなくなればいいのよ!」

 また訳の分からない事を言ったと思った次の瞬間、絵梨はバッグからナイフを取り出した為そのナイフに驚き慌てふためく優。

「なによそれ!」

「死んでよ優、そうすれば隼人はあたしの物だわ!」

「何言っているのよ、そんな事したって無駄なのが分からないの?」

「うるさい! 隼人はあたしの物なんだから」

 叫び声とともに絵梨はナイフを優に向け突進してきた。

 もうだめかと思ったが刺されたはずなのに痛みを感じない優。

 ふと気づくと優をかばって隼人が覆いかぶさっており隼人の脇腹に絵梨の持っていたナイフが刺さっていた。

そのまま倒れ込む隼人。

「隼人、隼人しっかりして」

 必死に叫び続ける優の傍らでは絵梨が呆然と立ち尽くしており、すぐにスマートフォンを取り出し救急車を呼ぶ優。

 そしてこの騒ぎを聞きつけた隣人が警察へと通報し、通報を受けた警察官が絵梨を確保すると警察署へと連行していった。

 その後救急車も到着し隼人を車へと乗せたが、そこにとどまったまま中々車を走らせようとしなかった。

 すると救急隊員が緊迫した表情で優に対して尋ねる。

「掛かりつけの病院などはありますか?」

 その声に優はすぐに応える。

「市民病院に向かってください、先日まで交通事故でそこに入院していました!」

「分かりました」

 すぐに市民病院に連絡が取られ車を走らせると病院へと搬送されていき、すぐさま緊急処置室へと搬入された隼人は石川医師の手により処置が行われると、その際頭部にも傷を負ってした為その後手当も施された。

 幸い刺された傷も浅く頭部の傷も軽く検査結果も異状がなかった為命に別状はなかった。

 それでも数日間入院する事になってしまい、四角い無機質な空間へと戻ってきてしまった隼人。

「ごめんなさい絵梨のせいでこんな事になってしまって」

 麻酔で寝ている隼人に対して優はいつまでも謝り続けていた。

 二日後隼人が目を覚ますと、二人のもとに二人の警察官が事情を聞きにやって来た。

「佐々木隼人さんですね」

「はいそうですが」

「体が辛いところ申し訳ありませんが一体何があったのか事情を聞かせてください」

「絵梨ちゃんは今どうしています?」

 この時優は隼人の絵梨の呼び方に若干の違和感を覚えた。

「彼女には今留置場に泊まってもらっています」

 この後優は隼人の口から思わぬ言葉を聞く事になる。

「彼女は何も悪くありません。ただ僕がちょっとへまやっちゃって、珍しく僕が料理をしていたら絵梨さんが来たものだから包丁を持ったまま外に出てしまって、そしたら玄関でつまづいてしまったんです。その時もっていた包丁を離してしまって運悪くたまたま落ちて跳ね返った包丁の刃が上を向いてしまったもんだからそれが体に刺さってしまったんですよ。ほんとドジですよね、慣れないことをするものじゃありません、だから絵梨さんは何も悪くないんです」

「ほんとにそれで良いんですか?」

「言いも何も、本当の事なんだから仕方ないじゃないですか、ただの事故なんですから」

「でしたら被害届は出さないという事でよろしいんですね」

「だからあなた方も分からない人だな、被害届も何も自分が悪いんだから仕方ありません、一体僕に何の被害があると言うんですか?」

「分かりました。あなたがそう言うのなら仕方ないですね」

 隼人が絵梨をかばう発言をする為二人の警察官は帰るしかなかったが、警察官たちが病室を後にした後隼人の言動に対し優は何故かと問いただす。

「どうして隼人、何故絵梨をかばう真似をするの? あの娘があんな事をしなければ隼人だってこんな目に合わなくて済んだのよ」

「良いんだ、それより退院したら結婚式あげような? それとも今度は二回目だからこの前みたいにあまり盛大じゃなくて良いかな? 盛大といっても予定通り行われていればだけどな、それにこの前みたいに多くの人を呼んでおきながらまた中止になってもな」

 この時の隼人の言葉に優は若干の違和感を覚えた。

「待って隼人! どうしてこの前の中止になった結婚式が盛大なものになるはずだったなんて分かったの?」

「だってそうだろ? 最近は式も挙げないことが多いけど挙げる事にした以上はどうせなら盛大なものにしようって二人で決めて、それで沢山招待客を呼んだじゃないか?」

「そうじゃなくて、どうしてその事を覚えているのよ、もしかして記憶が戻ったの?」

「確かにそうだ、どうして俺は事故前の事を覚えているんだ、俺はほんとに記憶が戻ったのか?」

「そうよきっと、隼人記憶が戻ったのよ」

「でも突然どうして」

 首をひねる隼人に対して一つの可能性を見出した優。

「隼人また頭にけがをしたでしょ、事故の時もそうだったじゃない、あの時も頭を打っていたでしょ? 記憶を失ったのもそれが原因じゃないかって言われたじゃない」

「確かにそうだな? それが今回は逆に働いたという事か?」

「そうかもしれないわ、どこかに頭を打った時に記憶が戻ったのかもしれないわ。それに絵梨の呼び方にしても事故の後から今までは『絵梨さん』だったのがさっきは事故の前みたいに『絵梨ちゃん』に戻っているわ」

「だとしたら絵梨ちゃんのおかげだな?」

 隼人のまさかの言葉にこの人はどこまで人が良いのかと呆れてしまう優。

「何言っているのよ隼人、絵梨のせいで隼人はこんな危険な目に遭って命を失いかけたのよ、それなのに被害届けも出さないなんて」

「だったら優は自分の妹が前科者になってもいいと言うのか?」

「それは嫌だけど、仕方ないじゃないそれだけの事をしてしまったんだから」

「それはそうかもしれないけどこう考えてみたらどうだ? 絵梨ちゃんをここで助けておけば彼女も考えを改めるかもしれない。それに俺の両親だって身内に前科者がいる人との結婚は認めないって言いだすかもしれないじゃないか、逮捕された時点で手遅れかもしれないけどな?」

(隼人ったらそこまで考えてくれていたの?)

「分かったらもうこの件は終わり、とにかく被害届は出さないから、分かったね」

「分かったわ、被害を受けた本人がそう言うなら仕方ないものね」

 その後回復に向かい退院した隼人のもとに優の両親がやってきた。

「いらっしゃいパパ、ママ、さあ上がって」

「おじゃまするわね」

  両親が玄関の中に足を踏み入れると何やら外に向かって声をかける恵美子。

「なにしているの、あなたも入りなさい」

 その声に応えるように申し訳なさそうにそろりと玄関に入ってくる絵梨。

「なによあんたも来たの? 一体何しに来たのよ」

 怒りをあらわにする優のもとに恵美子の声が聞こえた。

「絵梨ね、あなた達に謝りたいんですって」

「謝りたい? あんな事をしておいて何が謝りたいよ」

「とにかく上がらせてもらおう」

 優の怒りを落ち着かせるように芳雄がそう言って佐々木家に上がりリビングに向かうと、それに恵美子と絵梨も続く。

 次の瞬間、芳雄は隼人を目の前にして突然土下座を始めた。

「隼人君申し訳ない! 絵梨が君に対してとんでもない事をしてしまって、こんな事謝って済む事ではないのは分かっている。でもこうする以外方法が見つからないんだ、許してくれとは言わない、でもお願いだから優との婚約を破棄するなんてことだけは言わないでくれ」

 芳雄の突然の行動に驚きながらも恵美子も同様に土下座をする。

「ごめんなさい、どうか許して」

 この時恵美子は絵梨に対しても謝罪をするよう促す。

「ほらあなたも謝りなさい! 隼人さんが被害届を出さないでくれたおかげであなたは警察から出る事が出来たのよ。あなたも謝りたいって言っていたでしょ!」

 この時正気に戻っていた絵梨は両親とともに頭を下げた。

「ごめんなさい隼人さん、優もごめんなさい、あたしがどうかしてた。あたしのやってしまった事はなんて言われても良い、でも優との結婚はやめるなんて言わないで!」

 この三人の謝罪に隼人は懐の深さを見せた。

「三人とも頭をあげてください。この事で僕が優さんとの結婚をやめるなんて事はありません。考えてみてください、もし僕が優さんとの結婚を破棄するなんて思っていたら今こうして一緒に暮らしていません」

「本当ですか? ありがとうございます」

 芳雄の希望をもった言葉に隼人は更に続ける。

「それに今回の事件があったおかげで僕の記憶が戻りました。という事は絵梨ちゃんのおかげでもあるんです」

「でも実際には隼人君を命の危険にさらしてしまいました」

 こう言い放ったのは父親の芳雄であり、それに対し隼人が続ける。

「でもこうして無事退院出来たじゃないですか」

「それはそうなんですけど……」

「もしかしたら僕の両親が何か言ってくるかもしれないですけど実際結婚するのはこの僕です。両親には何も言わせません」

 隼人のこの言葉に芳雄は感謝の言葉を口にする。

「ありがとうそこまで言ってくれて」

 そこへ絵梨も続く。

「ありがとうございます隼人さん。あたしなんて馬鹿な事をしてしまったんだろう、こんなに良い人を傷つけてしまうなんて。被害届けも出さないでいてくれて本当に感謝しています」

 この時隼人の口から放たれた言葉は彼の優しい性格を表していた。

「もう気にしないで良いから、本当に申し訳ないと思っているなら絵梨ちゃんも早く幸せになって、それが何よりの僕への謝罪の言葉になるから」

「ありがとうございます」

 この時絵梨の瞳にはきらりと光る一筋の涙がこぼれていた。

 数日後隼人たちのもとに隼人の両親が尋ねてきた。

「来ると思っていたよ」

「そう、だったら話が早いわね」

 すると陽子は優の方に顔を向ける。

「優さん、何時までここにいるの? 早く出て行きなさい」

「何言っているんだよ母さん、この前までは優に対してあんなに優しくしてくれていたのに」

「そりゃそうよ、でも身内に犯罪者がいる家族とどう付き合えばいいと言うの?」

「言っただろ、あれは事故だったんだよ。だから絵梨ちゃんもすぐに釈放されたじゃないか!」

「本当に事故だったの? あなたかばっているんじゃないの?」

 図星を付かれたと言う様子の隼人。

「事故に決まっているだろ、それとも母さんは身内に犯罪者がいるだけで幸せになる資格がないと言うの?」

「別にそう言うわけじゃないけど、また同じような事をやるかもしれないじゃない」

「そう言う考えの人がいるから過ちを犯した人がいつまでも立ち直れないんじゃないか、とにかく俺は誰が何と言おうと優と結婚するからな!」

 隼人の決意をもった言葉にそれまで黙って聞いていた晴樹が隼人に対し助け舟を出す。

「もう良いんじゃないか母さん、二人の結婚を認めてやろう、それに隼人の言う通り一度過ちを犯したからといってまたやるとは限らない、それに実際に間違いをおこしたのは優さんではないじゃないか!」

「あなたまでそんな事言って。分かったわ、仕方ないわよね、あなたたちの結婚を認めるわ」

 晴樹の助言を受け陽子も二人の結婚を認めるしかなかった為結婚の許しを得た隼人たち。この時優はうれしさのあまり何度も頭を下げていた。

「ありがとうございます、もう隼人との結婚は無理かと思いました。本当にありがとうございます、本当にうれしいです」

 その後隼人は優と共に婚姻届けを出したものの、陽子は依然として良い顔をしていなかった。


これにて完結となります、
拙い作品を最後まで読んでいただきありがとうございました!

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