差別と偏見 3
【第一章】-3『わずかな希望』
翌日日本語学校の授業に出席したマイクであったがあまり身が入らない様子であり、それに気付いた女性講師の森宮陽向が授業後何かあったのかと尋ねる。
「マイクさんちょっと待って」
「ひなた先生、何か用ですか?」
「用ですかじゃないわよ、取り合えずここ座って」
森宮が指し示した先のロビーの隅には白くて丸いテーブルと椅子が設置してあり、その椅子に座るよう促す。
二人がテーブルに着くと森宮はさっそく事情を尋ねた。
「あなた今日勉強に身が入ってないようだったけど何かあったの?」
その声にマイクは思わず謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい」
「別に謝らなくても良いけど、何か悩んでいるなら言ってみて」
マイクは思い切って会社の件を相談してみることにした。
「ひなた先生、僕どうしたら良いのかわからなくて」
「だからどうしたの?」
「僕が働いている会社の事なんですけど、僕たち外国人の給料は七万円から八万円しかもらっていませんでした」
「なによそれしかもらってないの?」
あまりの安月給に思わず驚きの声をあげる森宮。
「今まではそれが普通で他の日本人の社員も同じくらいの給料しかもらっていないものだと思っていました」
「そんな事ないわ、大体それじゃ時給に換算したらいくらになるのよ! 今どき高校生のアルバイトだってもっともらってるわ」
「やっぱりそうなんですね、日本人の社員は僕たちの倍以上もらっているのが分かって、だからその社員に聞いたんです。そしたら日本人の方が偉いんだから当然だって言われて、外国人のくせに身の程を知れって言われました」
「その社員はそんな事言ったの?」
「はい、その後来た工場長にもどうしてなのか聞いたんです。そしたら日本人と外国人では外国人の方が能力が低いのは当たり前なんだから、だから給料が安いって言われて。それでも抗議していたら嫌ならやめても良いって言われてしまったんです! やめてもどこにも行くとこないだろって言われてしまった僕はパスポートを取り上げられていることもあり諦めるしかありませんでした」
マイクから告げられた外国人に対するあまりにもひどい扱いに、森宮の心の中にはメラメラと怒りが込み上げてきた。
「なんなのよそれひどすぎるわ、それってあきらかに外国人差別じゃない! だいたいパスポートを取り上げるって何なのよ、それって動きを封じておいて飼い殺しにしようって事なの? それにもしものことがあったらどうするつもりなの? 外国人となると職質を受けてパスポートを求められることもあるだろうに」
森宮の突然の怒りの声に周りにいた人物がびくりと驚くと、一斉に振り返りマイクたちを見ていた。
ところがこの話にはまだ続きがあった。
「もっと許せないのは日本人はいつもさぼっていて僕達ばかりに仕事をさせる事です」
「それほんとなの?」
「はいほんとです。工場長はあまり現場に来ないのでこの事を知りません」
「分かったわ、少し時間をくれる? 知り合いの弁護士がマイクさん達の様に不利益を被っている外国人労働者の支援をしているの。その人に相談してみるわ」
わずかに希望が見えた気がしたマイクの表情はわずかながら晴れやかなものになっていく。
「ほんとですかひなた先生」
「任せて、じゃあ今日はもう遅いから帰りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
笑顔でそう言ったマイクはわずかな希望を胸に寮へと帰っていく。
つづく
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